小説『考えろよ。・第2部[頭隠して他丸出し編](完結)』
作者:回収屋()

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[作戦終了と抵抗の結果]

「来なすったか……茜ッ、1階を宜しくッ!」
「はいは〜〜い、宜しくされちゃいま〜〜す☆」
 ガシャッ――!
 リビングに次々と運ばれてくる重厚な金属パーツ。咲が傘をたたみ、2階へと向かう階段を上り始めると同時に素早く組み立て。完成しましたのは――

 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ――――ッッッ!!

「うッ、うおおおッ!?」
 御近所一帯にその轟音が響き、リベンジに向かおうとしていたハープが慌てて逃げる。
「うわわわッ!? もうヤダッヤダッヤダッ(泣)!!」
 コントラが半泣きになりながら、気絶しているビオラの片足をつかんで引きずりながら後退する。

 ボゴゴゴゴゴゴッ!! ボゴゴゴゴゴゴッ!! ドガアアアアアアッッッ!!

 コンクリ壁がモナカみたいに粉砕され、その陰に隠れていた室長や部隊員達が一斉に逃げ惑う。
「し、室長ッ! 先方にあんな装備があるなど……そんな情報は聞いてませんッ!」
 部隊長が頭を低くして叫ぶ。彼の言う“装備”――三脚で固定された『M2重機関銃』。
「ああ、私もだッ! 閑静な住宅街で12.7mm弾の弾幕に襲われるとは想定外だよッ!」
 杜若室長は一目散に輸送車の陰へと逃げ込んでいく。
「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃッ! フルボッコにしてやんよッ!」

 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ――――ッッッ!!

 茜、完全に悪ノリ。アスファルトの地面を削ぎ、街路樹を穴だらけにし、輸送車の装甲が火花を散らす。対人地雷の炸裂音に続き、重機関銃の掃射音。これだけ派手にやれば、どんな呑気な住人でも窓から顔を出す。御近所様があっちこっちで様子をうかがい始めた。作戦の性質上、通報されて警察機関の介入があると面倒な事になってしまう。
「……部隊長、撤収だ」
 室長がボソリと呟いた。
「は? し、しかし……目標の確保はまだ」
「それは沈丁花の最優先事項だ。連中の作戦行動の詳細を現場で見聞きして報告する……それが我々の優先すべき任務だ」
「では、交渉材料無しで『ポイント32』の人質をどうやって解放に?」
「テロリストと取引きなんぞせん。そんな事をすれば、同盟各国からの信用はガタ落ちだからな」
「そ、それはつまり……200名に及ぶ人質を見捨てると?」
 部隊長の顔色が変わる。
「最終的な決断は首相が下す。我々はそれに従えばいい。それに、あのメスゴリラ……もとい、ダリア准将が本気の様子だ。手段や前後の見境はともかく、目的達成においては信頼できる」
 そう言って室長はジープの助手席に逃げ込んだ。
「撤収ッ! 全員撤収しろッ!」
 編制されたばかりの部隊が実戦で何の成果も出せずにゾロゾロと後退。状況をハッキリと把握できないまま輸送車に乗り込んでいく。
(よし、1階は大丈夫として……後は……)
 攻撃勢力の一部が離れていくのを肌で感じ取り、咲は似合わないスカートをなびかせて階段を駆け上がっ――

 ボコオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ――――ッッッ!!

「ななッ――!?」
 階段脇の壁を穿ち、人間の腕が突如として生えてきて咲の首をガッチリとつかんだ。

 ドコオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ――――ッッッ!!

「おふッ!!」
 大型重機につながれて引っ張られたような衝撃が伝わり、一瞬、視界がブレてものすごい勢いで壁を突き抜ける。
「よう、元気か?」
「はい、おかげさまで……」
 ブチ抜かれた先――昨晩、蒼神博士とエンプレスが身を隠した寝室で、鬼のように怒った形相の准将と“ヤベぇ〜〜(汗)”……みたいな表情の咲が目を合わせた。
 ――――ブンッ!!
 大気が裂かれ、首根っこをつかまれたままの咲が宙を舞い……

 ドコオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ――――ッッッ!!

 またしても壁をブチ抜いて吹き飛ばされる。
「ぐへッ……なんつーゴリラパワーしてやがる!」
 リビングの床に転がり軽く吐血した。
「さ、咲チャン……どったの!?」
 重機関銃を構えた茜が相方の尋常でないやられ方に動揺する。
「准将ッ! 目標の確保終了しやしたぜッ!」
 2階からファゴットの大声が聞こえてきた。
「御苦労。ハープ!!」
 寝室の扉を蹴り破り、准将が茜からの銃撃に膠着してしまった部下の名を呼ぶ。
「はいはいッ、分かっとるがなッ!」
 太い街路樹の陰に隠れていたハープがダッシュ。そして、左の二の腕に装備された兵器のロックが解除される。
「おおッと!?」
 相手の攻撃可能範囲を瞬時にして察知した茜が狙いをつけるが、一瞬のスキを突いてダリア准将が一人がけのソファを蹴る。それなりに重量のあるソファが紙細工のように舞った。
「げふッ!!」
 まさかの襲撃を受け、茜がソファと壁に挟まれて気絶してしまう。
「くッ、鬱陶しいィィィ……!」
 咲、孤立。護衛対象が奪われて救助に行けず、相方の戦力が沈黙してしまい、殺る気みなぎる敵勢に挟まれてしまった。
「いっくでぇぇぇぇぇ――――ッ!」
 ヒュンッ!
 冷たい空気を一筋の物体が突き抜ける。
「ぬおッ!?」
 反射的に腰を落としてファースト・アタックをなんとか回避したが、ヘッドドレスが千切れ飛び、右頬に1本の切り傷ができて血を散らした。
「なるほど、なかなかエエ感じのオモチャやなぁ★」
 ハープが不敵に微笑んだ。咲との距離は約10m。巨大なムカデみたいな物体がムチのように伸び、しなり、常人にはとてもとらえきれないスピードで襲ってきた。
「やはり、不確定要素は常に潰しておくべきだったな」
 准将が不吉な声で呟きながらローキック。
 ――――ゴッ!
 ハープからの攻撃を避けて低い姿勢のままだったため、准将の蹴りは顔面に容赦なく炸裂。
「うぐッ……!」
 派手に鼻血を吹き出し、後頭部を床に叩きつけられる。
 ストンッ――
「准将、そろそろ」
 ハープの傍に柊沙那を脇に抱えたファゴットが跳び下りてきて、准将に目で合図する。
「『例外物体(ナインティーン)』の正体を分析できないのは心残りだが、致し方なし」
 ――――ブンッ!
 倒れた咲の胸元を鷲掴みにし、外に向かって無造作に投げた。小柄な彼女の肉体が高々と宙に舞う。
「いただきやあああああッッッ!!」
 ムチ状の武器が天に昇る竜の如く舞い上がり、投げ出された咲を中空で絡め捕る。

 ドッ――! ドッ――! ドッ――!

 ハープは渾身の力で引っ張ると、アスファルトの地面に続けざまに叩きつけた。幾枚も縫い付けられた小さなブレードが咲の胴体に痛々しく食い込み、衣装に鮮血が滲む。そして、最後に……

 ズバババババババババババババババババババババババババ――――――ッッッ!!

 入力する電気信号を調整し、絡みつけた武器の束縛を緩めて一気に引っ張った。
「ぐはッ!?」
 ヒモを巻かれて回された瞬間のコマみたいに回転し、全身を凶刃で裂かれ、周囲に大量の血を撒き散らして地面に落下した。
(ふむ、この程度…………か?)
 瀕死の状態の咲を見下ろし、准将は腕組みしながら少々怪訝な表情になった。
「ハァハァ……ハァハァ……」
 地面に這いつくばり呼吸を荒くする咲に、さっきまでの余裕は微塵も無い。
「ハープ、任務完了だ。撤収するぞ」
 准将はそう言いながら血まみれの咲の首根っこを掴んで持ち上げ、スゥっと大きく息を吸い込み、左胸めがけて――

 ――――ズドンッ!!

 右の鉄拳がめり込む。
「げふッ!!」
 咲が大量に吐血。超高層ビルから落下しても形状を保っていた堅牢な骨が折れ、心臓と肺に突き刺さった。
 ドッ――!
「准将、女の子をいたぶるのはよしやしょう」
 ファゴットが投げた黒塗りのナイフが咲の喉元に突き刺さり、貫通していた。
「……ふんッ」
 ドサッ……
 両目をカッと見開いたまま微動だにしなくなった咲の体を、リビングめがけて投げ捨てた。

 ―――――――――――――― 死んだのか? ――――――――――――――

 リビングの床に無残に転がった咲を睥睨し、准将は神経を張り詰めた。が、だらしなく舌を出し、両目を見開いたまま生気を失っているその姿は、ダレの目からも“死骸”にしか見えなかった。

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