。。。chapter16
朝が来た。
あまり寝ていないはずなのに、気分は悪くなかった。
むしろ、すっきりしていると言った方がいいくらいかもしれない。
それは、史生の方も同じ様子だった。
史生にしては珍しく、何かのメロディを口ずさんでいる。
2階から1階のリビングへ下りると、昨日の夜からずっと開けっ放しの窓からは、相変わらず海が見えている。
夜の、吸い込まれそうに黒く光る海面とは全く表情を変えて、今は朝の陽射しを全身で跳ね返すように、
小さな輝きを常に移動させながら、そこに広がっていた。
そんな海を背景にして、史生は立っていた。
史生は、窓際や屋上といったところが好きなようだ。
小さな頃から、狭い部屋・・・・、病室に閉じこもっていないといけなかったから・・・・、そうして過ごした時間が長かったから、
少しでも外の様子や遠くを見渡せるところに、ほとんど無意識の内に行ってしまうんだ、と、前に話してくれた。
史生は気持ち良さそうに、また、さっきのメロディを口ずさんでいた。
・・・・・・さて、そろそろ準備を始めようかな・・・・。
俺が仕事の準備に取り掛かろうと、史生に背を向けた途端、史生のハミングがピタリと止まった。
不審に思って振り返ると、史生は窓から身を乗り出して何かを見つめている。
「どうしたんだ?」
俺が尋ねると、史生はその方向から目を逸らすことなくつぶやいた。
「あれ・・・・・・、あの人さ・・・・、プレアデス関澤じゃないかな・・・・? こっちに向かって走って来てる人・・・・」
「え――――っ?」
俺は窓際に走り寄って、史生の指差す方を見てみた。