小説『Indigo Moon ―――君と見つめた衛星(つき)――― Teen’s編 【完結】』
作者:杜子美甫(Indigo Moon ――君と見つめた衛星(つき)――)

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元の場所へ戻ると、征生はいかにも暑くてたまらないと言った仕草で首をうなだれ、大して役にも立ちそうにない左手を陽に翳して、直射日光を避けていた。

征生は俺の姿を見つけると、“こっちについて来いよ”とでも言うように顎をしゃくり、スタスタと歩き出した。
俺はその背中に、ある程度の距離を保ったままついて行った。

建物の中は、外の暑さが嘘だったかのように、ひんやりとした冷気に包まれていた。
・・・・・・かと言って、寒くもない。
さすが、至適環境を考える病院だけのことはある。

――― 何て感心しながら、どこまでも続く白い廊下を、征生の進むとおりについて歩いた。

案内された場所は、病院の正面玄関からは一番奥手にある棟の、5階の突き当たり・・・・。
なんだか一番遠い場所まで、歩かされた気がする。


「・・・・ここは?」
その部屋に入りながら尋ねると、
「医局だよ。・・・・学校の職員室みたいなとこさ」
征生はチラッとだけ俺を振り返って答えた。

窓際の席まで行くと、征生は俺の方を見てから、“ここへ座れ”と、瞳で合図してきた。

それに促されて、俺が椅子に腰掛けると、
「コーヒーでいいか?」
征生が尋ねてきた。

「ああ・・・・」
俺はそう答えたものの、内心すごくびっくりしていた。

――― あの征生が、俺にコーヒー煎れてくれるって・・・・・・?

そこまで悪く思わなくても・・・・、と俺でも思えるほどの20’sの記憶につられて、俺はその時、本当にびっくりしてしまっていたのだ。

そんな俺を気にすることなく、征生は俺の前にカップをコトンと置いた。
「あ・・・・、サンキュ」
俺はカップを手に取ると、一口だけ、そのコーヒーを口の中に流し込んだ。


――――― ふう・・・・・・。さて、何て言って切り出そう・・・・。

聞きたいことははっきりしていた。
けど、最初からそのことを聞く勇気はなかった。

それで、俺が選んで口にした言葉は、
「史生のヤツ・・・・、おまえのところに連絡入れてるか・・・・?」
だった。

征生は俺の隣に腰掛け、こちらをチラッと横目に見てから、
「ああ・・・・、昨日な。何ヶ月ぶりだっけ・・・・、2ヶ月ぶりくらいに連絡があった」
ちょっと溜息混じりにそう言った。

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