。。。chapter18
6時5分前・・・・か・・・・・・。
ちょうどいい頃だな・・・・。
征生に教えられた待ち合わせ場所へと向かう。
今日の待ち合わせ場所は、さやが決めたと征生は言っていた。
さやのマンションから、歩いてそう遠くない公園の入り口だ。
歩きながら、公園の塀越しに中を覗くと、百日紅(さるすべり)の花が、赤、白、交互に並んで鮮やかに咲き競っているようだった。
入り口へ近づいて行く途中で、俺の足は急にその動きを止めてしまった。
俺の視界に、さやの姿が入ってきたからだ。
さやは、木陰を選んで立ち、俯き加減に瞳を伏せていた。
まだ俺には気づいてないようだ。
・・・・・・さやは何て言うだろう・・・・。
征生が来るはずなのに、俺が来てしまって・・・・・・。
がっかりするだろうか・・・・。また、文句を言われるかもしれない・・・・・・。
ここに来て、急にどうしようかと迷うことになってしまったが、――― 今日はさやに何て言われたって、
俺のホントの気持ち、伝えないと ―――、その思いがどんどん大きくなって、俺はまた足を踏み出した。
俺がさやの前に立つと、さやはニッコリと笑って顔を上げた。
そして、その次には、やっぱりびっくりして、瞳を大きく見開いた。
俺は何て言っていいか、わからなかった。
・・・・・・謝った方がいいんだろうか。それとも、言い訳した方がいいんだろうか・・・・・・。
頭の中には様々な種類の言葉が駆け巡っていたが、口からはどの言葉も出ては来なかった。
俺が気まずそうに黙ったままでいると、さやは最初に見せた笑顔よりもっと嬉しそうに微笑んで言った。
「よかった、直さんが来てくれて・・・・・・。この公園ね、直さんと来たかったんだ。
けど、直さん忙しそうだから、先に下見しようと思って、今日 天宮先生と約束してたんだけど・・・・・・。
天宮先生が来たら、別のところに変えようと思ってたの。だって、やっぱり、直さんと最初に来たかったからね・・・・」
さやから何て言われてもいいように身構えていた分、何だか気が抜けてしまった。
・・・・・・さやは、俺が来たこと怒ってない。喜んでくれてるんだ・・・・・・。
そう認識するのさえも、随分時間がかかってしまった。
「でも、何で直さん、わたしがここにいるって知ってたの・・・・?
それに、あの“約束の時間より10分前には必ず来る”天宮先生は来ないし・・・・・・」
さやの質問が耳に入ってきて、ようやく俺は我に返った。
「ああ、そのことなら・・・・、俺が征生に『今日のさやとの約束には、俺が行くから・・・・』って、掛け合ったんだ」
「え・・・・っ?」
さやが少しだけ驚いている。
「どうして・・・・?」
「・・・・・・俺が、嫌だから・・・・・・」
俺は大きく溜息を一つついてから、もう一度繰り返した。
「俺が嫌だから・・・・、さやと征生がデートするなんて・・・・・・」
さやは静かに微笑って俺を見上げ、コクンと頷いた。