小説『Indigo Moon ―――君と見つめた衛星(つき)――― Teen’s編 【完結】』
作者:杜子美甫(Indigo Moon ――君と見つめた衛星(つき)――)

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コンコンコン・・・・。

軽くドアをノックする音が聞こえ、ドアが開いた。
「悪い・・、待たせた・・・・」

史生の連絡を受けた雍也が到着したのだった。


部屋の中にはモニターがあり、ドアの外に誰かが来ると、その一部始終を映し出すため、
別にノックなんかしなくても、中にいるスタッフにはあらかじめわかるようになっているのである。

それにも関わらず、ドアをノックするのは、雍也のクセだ。
彼の律儀な性格をよく表しているクセだと思う。

彼の名前は、司藤 雍也(シドウ ヨウヤ)。

二年前、彼と一緒に仕事を始めてから、今でこそ、彼の表情を何とか読み取ることができるようになってきたが、
最初は、喜怒哀楽をほとんど表さない彼に、みんな戸惑ってしまった。
感情を他人に見せることなく、淡々と話す彼は、一見、“冷たいヤツ”という印象を与えるが、
本当はそうではないことを俺も史生もよく知っている。

自分の感情を表現するのがちょっと下手なだけで、気持ちはすこぶるさっぱりしている人間だ。

冷たい口調をそのまま受け止めてしまうと、どうしようもなく怖いイメージになってしまうが、
その言葉の奥にはとても優しい気持ちが隠れているのである。
ただ、そこまで読み取れるヤツはそういないし、彼も言い訳をするなんて、器用なことはできないので、誤解されてしまうのだろう。

けれど、俺は彼のこの不器用さが好きだ。
大学時代の尊敬の念が、そう思わせているのかもしれないが・・・・・・。


二歳年上の彼は、MITでの先輩だ。

まぁ、先輩といっても、彼は知能機械研究室に在籍し、専攻が違っていたので、ほとんど面識はなかった。
しかし、そのがっしりとした身体(ガタイ)に似合わず、手先の器用さには定評があり、緻密な作業を次々とこなして、
大学の中でも一目置かれている存在だったので、よく知ってはいた。

彼とは大学時代、一度だけ話したことがある。

俺がいつものように、カフェで手紙を書いているときで、彼はアメフトの引退試合を終えて、グランドから帰ってきたところだった。
彼は、一人でペンを走らせている俺の隣に、黙ったまま座り、静かにコーヒーを飲んでいた。

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