小説『Indigo Moon ―――君と見つめた衛星(つき)――― Teen’s編 【完結】』
作者:杜子美甫(Indigo Moon ――君と見つめた衛星(つき)――)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

「す・・・・、すみません。あ、あの・・・・、わかりました。私たちの意見を考慮していただいて、ありがとうございます。
8月4日にプレゼンテーションですね? 万全に準備をしておきます」

俺は、めちゃくちゃに緊張して、そう答えた。

引きつっている俺の顔を見て、修兄さんが笑った。

「バカ・・・・、別に怒ってる訳じゃない。俺相手に緊張するなんて、直らしくないじゃないか」

・・・・・・そんなこと言ったって・・・・・・。

俺・・・・っていうか、Teen’sは、こんな厳しい修兄さんなんて、初めて見たんだ。
びっくりしたって仕方ないよな。


そんな俺の気持ちを和らげようと、修兄さんは話を変えてきた。

「それより直、曲礼(キョクライ)先生がコンサート・ツアーに出かけるそうだな? 子供たちが言っていた」

―――、そうか、さやさんのことか・・・・。
さやさんは、10年前に行くのを、周りの人には“コンサート・ツアーに行く”と知らせていたのだった。

「ええ、1ヶ月ほどですが・・・・・・」

「それじゃ、おまえも寂しいだろう。ふみやすずも寂しがっていた・・・・」

さやさんは、修兄さんの子供たちにピアノを教えているのだが、ついでに他の勉強も教えていて、家庭教師のような存在だった。

「・・・・そのかわり、先生の姪子さんが代わりをしてくれると言っていたが・・・・、18歳の姪子さんって言うと・・・・・・、
いやに大きな姪ってことになるんだなぁ・・・・」

う――――っ。
修兄さんってば、さすが計算が速いよな。

確かに、10歳年下の姪って、ホントか―――?って、俺も前に思ったんだけど、
本当にさやさんには年の離れたお姉さんがいて、早くにお嫁に行ってるから、
そのお姉さんの子供が10歳年下の姪になるんだけど・・・・、さやはその子の設定で、姪っ子っていうことになったんだ。

俺はその説明をしておいた方がいいかな・・・・っと思ったが、修兄さんはあまり気にせず、話を続けていた。

「ま・・・・、とにかく、これから1ヶ月はその姪子さんに子供たちがお世話になるから、おまえからもよろしく言っておいてくれ」

「ええ・・・・、わかりました」
俺がそう答えたところで、修兄さんには別の通信が入ってきたようだった。

「じゃ、またな。プレゼン楽しみにしてるからな」

そう言って修兄さんは、あっという間にパネルから姿を消してしまった。
俺は、さよならの挨拶もできずに、何も映っていないパネルをしばらく見つめていたのだった。

-66-
Copyright ©杜子美甫 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える