史生は俺に傷跡を見られたことで、ひどく傷ついたようだった。
けれど、このまま俺が折れてしまっては、この先気まずい凝りが残るだけだ。
俺はもう一度、史生の腕を掴み直して、静かに聞いた。
「何で見たらだめなんだよ・・・・」
史生は、もう俺の手を振り解く気力もなくなっていた。
後ろの壁に持たれかかり、俺の顔を一瞥した後は、顔を背けて俯き、そのままこう答えた。
「だって・・・・、気持ち悪いだろ? こんなの・・・・・・」
気持ち悪いだって・・・・?
「それじゃおまえ、今までその傷跡をずっと隠して、人に見せないようにしてたのか・・・・?」
「そうだよ、相手に悪いじゃない・・・・」
史生は淡々と答える。
そんなこと気にしてたのか・・・・?
俺はしばらく呆然としていた。
俺が黙っていると、史生はまた、少し興奮気味に聞いてきた。
「直だって、びっくりしたんだろ? 気持ち悪いって思って、じっと見てたんだろ?!」
「確かにびっくりしたさ。今まで見たことなかったからね・・・・」
「ほら、やっぱりそうじゃない・・・・。この傷跡は、人には見せちゃいけないんだ・・・・・・」
史生はもう、涙をこぼしそうな声で叫んでいた。
何言ってるんだ。史生、そうじゃない・・・・。
心から思っていることが、言葉となって、知らずに俺の口からこぼれた。
「・・・・・・きれいだよ」
しかし、史生は首を横に振る。
「うそだっ。きれいなんかじゃない! どう見たって・・・・・・」
わめく史生の声を遠くで聞きながら、俺は言葉を続けた。
「きれいだよ。だってこれは史生が戦った印だろ? 生きるために戦った証しじゃないか。
これのお陰で、今おまえは生きているんだろ? 一緒に研究ができるんだろ?
そしたら、この傷跡よりきれいなものなんて、他にないじゃないか・・・・。
恥ずかしがるなよ、史生。胸張ってろよ。誰が何と言ったって、俺はきれいだと思うよ」
史生は黙っていた。
何も言わず、ただぼんやりと床を見つめていた。
俺の言葉が、史生に届いていたのかどうかも、わからなかった。