小説『ほのぼの草』
作者:あさひ()

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そういえばこの前、大きなトランクを抱えて、人間の20代後半くらいのお姉さんがイスに座ってバスを待っていました。私はイスの下にいました。ここで長く滞在するみたいでした。ここに滞在する若いお客さんには芸術を学びたい人が多いようで服装がたいてい派手なのですが、彼女はTシャツにジーパンというなんとも質素な恰好をしていました。あまり元気がなさそうな様子でした。今度は彼女の横に座って様子を見ていたら、彼女がどこかの民宿のチラシを開きました。うちの民宿ではありませんでした。きっと学校がお休みなのを利用して旅行に一人で来たのでしょう。この小島は旅行に持って来いの、人の目を楽しませてくれる面白い場所です。美しい自然があるので、何か気持ちを入れ替えるのにもいいでしょう。さらに様子を見ていたら、彼女は小型電話機の電源を入れてしばらくそれをいじり、すぐにその電源をまた切ってしまいました。一人になりたかったんでしょうか・・・??私は彼女がバスに乗るときに
「元気だしなよ、良い旅を。」
と言って見送りました。まぁ、伝わっていたのかは分かりませんが。バスの中からこちらを向いて笑っている彼女の姿が見えました。



 ある日、私は民宿近くの丘にある小さな神社のそばで昼寝をしていました。神社の中には神様をかたどった彫刻があって、神社に続く小さな4段の石段はクリスタルでできています。石段を降りたところは小石がいっぱいつまった庭になっていてそこに人間が歩けるように点々と渡ってその上を歩く石でできた歩道があります。その神社がある丘の端からは海が見えます。トンビが飛び回って鳴いていますが、昼寝の邪魔にはなりません。その日、友達の1羽のトンビが私のところにやってきました。おかしな新しい芸術作品が登場するとのこと。あ、言っておきますが、この島ではトンビと猫は会話ができるんです。もちろん、猫同士、トンビ同士でも。人間はこのことを知りませんがね。私、トンビに連れて行ってもらってそれをこっそり拝見したんです。そしたら、それはタコのでかい人形がズデーンと空間を占有する座敷の家。そのタコはちゃぶ台の近くでTVで野球を見ているんですよ。なんなんですかね、この作品は。しかも裏にあるラジオで音を鳴らしてやっと作品として展示できるんだそう。その座敷の家には、小さいタコの人形も、今度は山積みになっておいてあるんですよ。座敷を仕切るスライドの扉はガラス張りのふちが木でできたものでした。ガラスにはタコの絵の装飾が施されていました。管理主さんに追い出されてその作品の周辺で暇をもてあそんでいたら、カメラを提げたお客さんの多くが、私の姿を写真に収めて去っていきました。

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