小説『鬼畜の宴』
作者:ウィンダム()

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序章

私の名前は一条隼人。

職業は・・・、そう、フリーのジャーナリスト。
私はライター稼業の傍らあることを研究している。
それは都市伝説の研究だ。

なぜそんなことを研究しているのかって?

フフフ、まぁ、個人的な興味関心というやつでしょうか・・・。

ともかくこの都市伝説というのはなかなか面白いものが多い。
例えばよく知られた『口裂け女』。
後ろから見ると綺麗なお姉さんがいて、声をかけると振り向き、

   なぁに?

と笑ったその口が真っ赤に耳まで裂けるという都市伝説のホラーバージョン。

この『口裂け女』は当時の小学生の間に広まった他愛ない作り話がどういうわけか世間に広まったもの。
他愛ないホラーが広まると今度は『なんちゃってオジサン』という都市伝説のギャグバージョンが現れたりもする。

そのほかファーストフードの食材に関する噂、最近では小人のオジサン、東京の地下に核シェルターなどなど。

こうした都市伝説にはさまざまなものがありそのバリエーションも豊富のようだ。
都市伝説に興味を持てば判るが、こうした伝説は何も今に始まったことじゃないことが判る。

古くは明治時代、
偽汽車といって存在しないはずの機関車がどこからともなくレール上に現れては走り去るだの、
電線からコレラがうつるだのというしょうもない噂が巷間に広まったりする。

このような数多くの都市伝説をカテゴリー的に分類すると、
迷信、誤解がネタ元となった都市伝説や自然現象、動植物、国家・政治・軍事関連などなど、多くの各分野ごとに分類できる。
また、こうした都市伝説の多くが昔から伝承されてきた神話や伝説がネタ元となっていることも多い。

例えばUFO。
人類より高度に発達した科学文明を持つ天体から前衛的な形態のスペースクラフトに乗って地球にやってくる云々。
こうした話は北欧に伝わる妖精伝承や理想郷シャンバラなどの伝承にその原型を見いだせる。

そのほか都市伝説には『犯罪や陰謀』に関する都市伝説も結構多い。
ここ数年、顕著な都市伝説として『集団ストーカー』なる『噂』がある。

主としてネット上に広まるこの『噂』、かなり検索数も多く関連サイトも多いようだ。
そしてその内容はと言えば、

   正体不明の連中が人の後を組織的につけ回し嫌がらせの数々を行うというもの・・・。

また、海外においても『ギャングストーカー』として知られている。

おやおや、今や都市伝説も国境を越えて広まるようになったか・・・。

あるとき、私はこうした『都市伝説』に関するものとして、
『集団ストーカー』を主材とした論評をQ出版社の総合雑誌に掲載してみた。

   『集団ストーカー』などと言うものは昔の人攫い話と同様、ありもしない作り話か、
   さもなくば事実の誤認に過ぎず一部の過剰反応が元になったものに過ぎない。
   問題はこうした一種の社会的病理現象が発生する原因は何か・・・・

すると反響が大きかったらしくQ出版社に手紙が大量に届いた。

手紙だけではない、Q出版社のサイトを通じたメールもたくさん届いた。
私は編集部と一緒に届いた大量の手紙とメールに一通り目にしたところ、
その過半数が『集団ストーカー』に関する否定的意見が多いことが判っただけでなく、
なぜか『集団ストーカー』に遭遇、あるいはその被害を訴える者に対する誹謗中傷や人格攻撃、
果ては罵詈讒謗としてか言いのないものもかなり多かった。
そしてその誹謗内容の多くが有無を言わさない一方的なものが多い。
それはネット上の掲示板でも同様。

   曰く、自称被害者のデマ、統合失調患者の妄想、即刻精神病院へ放り込めだの、
   果ては向精神薬剤常用によるヤク中の戯言などなど・・・。

私はこのような否定的意見を逸脱したとしか思えない、それも悪意を感じさせる多くの誹謗中傷、
罵詈讒謗的な内容に正直言って極めて奇異な印象を受けた。

だってそうだろう?

たかが都市伝説ごときの他愛のない作り話にこれだけの誹謗中傷、罵詈讒謗が寄せられるなんて、
こんなこと聞いたことがない。

   それに対して『肯定的意見』や『被害の訴え』を切々と書き綴ったものも多い。

こうして私は編集部と相談し、少し真面目にこれらの『反響』を『肯定』『被害の訴え』『否定』『誹謗中傷』と、それぞれ分類していった。

そして判ってきたことは、
『誹謗中傷』が主として『被害の訴え』に対して向けられているものであることだった・・・。

   編集長、どう思います? 『反響』の分類結果について。

   ふぅ〜む・・・、そうだねぇ・・・。
   こうした都市伝説にすぎないものに口を極めたような『誹謗中傷』が多いね、
   それに真面目な意見と違って、『誹謗中傷』は手紙もメールもすべて氏名・住所が不明だ・・・。
   こうした誹謗中傷が多いということはだ・・・、
   裏を返せばあながち『否定』できない『何か』があるのかもしれないね。
   噂と言うものは最初からフィクションというものは稀だ。
   大抵の噂には必ずそのネタ元となった出来事なり事実があるものだ。

   そうですか、どうやら私と同じ意見のようですね。
   私もこうして『反響』を分析してみて思うのですが、
   この手の『都市伝説』には『何か』があるんじゃないかと直感的に感じ取っています。

編集長は私の意見にニヤリと笑って、

   ふふふ、それはジャーナリストとしての直感かね?

   ええ、そうです。

編集長は腕組みしながら暫く考えると、

   どうだろう? 一条君、ちょっとこの『都市伝説』、
   特にその被害に遭遇した人たちに直接会って取材してみたら?

私は編雌長の勧めもあってか、新たな『都市伝説』を解明すべく被害者に会うことにした。

取材対象としての選定は、寄せられた手紙やメールの中から匿名性でなく、かつ、内容が具体的で詳細に綴られているものの中から決めていった。

その中から数名の者をピックアップし直接会って話を聞いてみることにした。

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