小説『.hack//HEARTS 世界を変えるのは強い心』
作者:蒼雷のライト()

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あなたには大切と言える人がいますか?またその人と遠く離れていても必ず会えるという信じる心を持てますか?
これはそんな想いを秘めた少年の物語.....



第一話 心奪いし者


「バグ反応?」

「そうだ」

ここは世界で二千万人ものプレイヤーが遊ぶ最大のネットゲーム、TheWorld。
そのルートタウン、マク・アヌの転送装置に佇むのは紅い作務衣を着込む少年と身につけているオーバーオールがはちきれそうなぐらい腹がでっぷりとしている中年の男性の姿。何やら神妙な顔で話しをしている。

「モルガナが消えてからは今までそんなの無かったのに何で今更...」

「さあな。こっちが聞きたいくらいだ!」

少年の嫌そうな顔に腹が立ったのか男性はつい荒い口調をする。すると少年は目を細め
「良いのかな~?そんな態度とって...」
という眼差しを送る。途中で男性は慌てて頭を下げる。

「す、すまんカイト」

カイトと呼ばれる少年に男性は頭を下げている。端から見れば情けない。

「分かれば良いよリョース!」

カイトはリョースという名の男性に何の曇りもない笑顔を見せる。が、リョースにはそれがかえって恐ろしい。分かりやすく言えばこいつは何を考えているのか分からない。

「オ、オホン。本題に戻るが」

わざと咳払いをし、リョースは話題を変える。

「最近、TheWorldに奇妙な現象が起こっている。バグもその一種だ」

その言葉にカイトは途端に目つきが変わった。

「これを見て欲しい」

リョースはディスプレイからモニターを出しカイトに手渡す。

「これは?」

目をつり上げながらカイトが聞く。

「1ヶ月前にTheWorld内で起こった時の記録だ」

リョースの答申にカイトはモニター機能をオンにする。起動するとともに映像が流れ込む。




モニターに映ったのは何の変哲もないただの剣士が映っていた。一緒に攻略する仲間がいないのかそれともそのエリアに自信があるのかは分からないがその剣士は一人で着々と魔法陣から現れるモンスターを倒していた。

「(特に何の変化も無いよね.....?)」

至って普通のエリア攻略だ。だが何かがおかしいとすぐに分かるようになった。

剣士の男はフィールドのモンスター狩りに飽きたのかダンジョンの入り口に走り出した。しかし、入り口まであともうちょっとという所で剣士は立ち止まった。
目の前に体が全体的に黒く目が黄色でまるでアリを大きくし二足歩行させたような物体、いやモンスターがいた。
魔法陣無しでモンスターが出るのはよくある事だ。剣士の男はそのモンスターに突進していった。
男は剣を振り上げモンスターに斬りかかる。が、MISS表示が出る。怯まず男はスキルで炎を纏った剣で攻撃するがこれも効果無し。一旦距離を置き男は左手を前に出す。すると氷の塊がモンスターの周りに集まり収束した。が、モンスターは氷の塊をもろともせず黒い右手でなぎはらい男に向かって飛ばし返した。男は防ぐことが出来ずもろに喰らい後ろに吹っ飛んだ。

カイトはモニターを見ながら反射的に右手を抑える。この状況は知っているし何度も遭遇した事がある。


男は形勢不利と見なしたのか元来た道に向かって走り出した。おそらくバトルモード解除からのゲートアウトをしようという魂胆だろう。
が、黒いモンスターの方が俊敏で速くあっという間に追いつかれ男は仰向けで地面に叩き付けられた。モンスターは男の背中に馬乗りする。男は必死でもがくが相手はそれを気にせず男の背中を突き破り何やらハート型の物体を取り出しモ
ンスターはそれを食った。ハート型の物体を食い終わったモンスターは男の背中を飛び降り地面に溶けて消えた。
男は仰向けのままぴくりとも動かず体がだんだん灰色に変わる。殺されたのだ。灰はこの世界では死を意味する。やがて男は消滅した。


「それで全てだ...我々はあのようなモンスターを配置した覚えがない」

リョースがいう。

「殺されたPCのプレイヤーはどうしたの...?意識不明になったの...?」

カイトは手を震えさせながら聞いた。かつて自分の親友が同様にイレギュラーなモンスターに殺され意識不明となりベッドで眠る姿が脳裏に浮かぶ。

「いや、意識不明になってはいない」

リョースの言葉にカイトは安堵した。

「ただ...」

リョースが口を開く。

「ただ?」

「あの黒いモンスターにやられたプレイヤーは急に鬱病になり精神病院で入院する事になった」

「?それがどうしたの?」

「非常に深刻な状態に陥っている。何もする事が起きず生気が無い。あのモンスターに心を奪われたような」

「でもさそれって普通の鬱病と一緒じゃないか。そんなひどいってこともないんじゃ」

「そう答えるのが妥当だろうな。だが入院してから一週間後...プレイヤーは自殺した」

「!?何で!?」

「分からん。置き手紙も無し。例外を除けばな」

「例外って?」

「プレイヤーが入院していた部屋の壁に血文字で書かれてあった。“キーブレード“と」

「キー...ブレード?」

「その点においてはまだ調査中だ。君にはプレイヤーを襲った黒いモンスターの調査、及び撃破を頼みたい」

「分かった。ワードを教えて」

リョースからモンスターが出現したエリアワードをもらった。リョース曰くそのモンスターはそのエリアでしか出現しないらしい。エリアワードをカオスゲートに打ち込みカイトはそのエリアに向かった。
だがカイトは知らない。これが他の世界の旅立ちであったという事を...

-2-
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