小説『自称一般人』
作者:jack()

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早々に現場を立ち去った俺は、人通りの多い道をのんびり歩いていた。


「そこの御仁!少しいいか?」


そんな時に声をかけられ、振り向いた俺が見たものは・・・


「川神学園の場所を知っているか?」


今では移動手段に用いられることの無い筈の馬に乗った金髪の美少女だった。



話を聞いてみると、今日から川神学園に転入する予定だったらしいが、途中で道に迷ってしまい、困っていたらしい。
制服を着ていることから、川神学園の生徒だろうと思い声をかけたとのことだ。

名前はクリスティアーネ・フリードリヒと言い、ドイツからの留学生らしい。
本人はクリスと呼ばれたいらしいのでそう呼ぶことになった。
クリスも俺のことを名前で呼んでいる。


「そういえば、川神学園の始業の時間は何分からだ?」

「・・・ざっと5分後ってとこだな」

「何!遅刻するなど自分の義に反する!!急がなければ!!」


始業の時間を教えてやったらクリスは、慌てて馬に飛び乗った。
そして馬に指示を・・・出さない?


「晴雨!!早く乗れ!!」


彼女は俺が馬に乗るのを待っているらしい。
ここで断ったら『義に反する!!』とか言うんだろうな。
渋々俺は馬に乗り、川神学園に向かった。




「クリスティアーネ・フリードリヒ!!ドイツ・リューベックより推参!!
この寺子屋で本日より世話となる!!」


川神学園に着いたとたんにクリスがこんなことを言い出しやがった。
なんだなんだと言わんばかりに窓からこっちを見る人影が増えていく。
転入生の後ろで馬に乗っている俺はかなり目立っていることだろう。

そんなことを考えていると、後ろの方から人力車が走ってきた。
言わずもがな英雄と忍足さんである。


「フハハハ!転入生が朝から馬で投稿とはな!」

「おお!ジンリキシャ!馬上にて御免!自分はクリス!」

「うむ。我が名は九鬼英雄である! いずれ世界を統べる者だ! この栄光の印! その目に焼き付けるが良い!!」


この二人意外と波長が合うんじゃないか?
なんてどうでもいいことを考えている内に、英雄が俺に気づく。


「我が友晴雨よ!何故転入生と馬に乗っているのだ?」

「あー、色々とあったんだよ」


説明するのも面倒くさいので適当にあしらう。
っていうか遅刻してんのに急がなくていいのか?
目立つ上に遅刻した俺はそんなことを言う気力もない。

すると俺の体がフワッと浮き上がった。
思わずクリスの腰から手を離してしまう。

どうやら誰かに抱えられているようだ。
そんなことをできるのはこの中で一人しかいない。


「何時までくっ付いているんですか?英雄様に悪影響なのでやめてくださいね♪」


「・・・すみません忍足さん」


そう、忍足さんだけだ。
クリスから離れるのを忘れていた俺は、忍足さんに抱えられて馬から降ろされた。
英雄もいい年だから悪影響もくそも無いと思うが、忍足さんから出ている黒いオーラに気圧されて反射的に謝る。


「あずみとお呼びください♪」


すると何故か名前呼びを要求される。
英雄の前だから仲のいいところを見せたいのだろうか?
とりあえず、呼ばないと怖いので次回から呼ぶことにしよう。


とりあえず俺たちは校舎に入って、クラスへ向かう。
そのまま2-Sに入るだけだが、その途中に軍服を着た中年と思われる男性に2-Fへと連れ込まれる。


「君はクリスとどういう関係なのだね?まさか彼氏ではないだろうね?」

「違います。偶然会って道案内しただけです」


軍服を着た中年男性はクリスの父らしい。
クリスと一緒に来た俺が気になったんだろう。

彼氏って出逢ってから30分も経ってねえよ。
ちなみに2-Fの生徒はみんなこっちを見ている。
今日は厄日だな。


「何故私の可愛い可愛いクリスに惚れない!!クリスでは不満だというのか!!」


あんたは俺になんて言ってほしいんだ・・・
惚れたと言ったら何されるか解ったもんじゃねえし。


・・・あんまりこんなセリフを言いたくないんだがしょうがねえか。


「彼女にはもっと素晴らしい男性がお似合いです。
私では釣り合いません」


クリスを褒めつつ自分が好意を持っていないことを伝える。
だが、これも地雷だったらしい。


「そうだろう!そうだろう!君はよくわかっているようだね。
クリスは幼少の時から可愛かった・・・」


どこからかアルバムを取り出し、語りはじめるクリスの父。
この話は永遠に終わらない気がする。
選択肢に詰みしかなかったようだ。

話を聞き流しながらそんなことを考えていると、思わぬ助けによりそれは中断された。


「すみませーん。そいつうちのクラスの生徒なもので返してもらえませんかね?」


その人物は、俺のクラスの担任である宇佐美先生だった。
面倒なことが嫌いなこの人が口出ししたのは、ここのクラスの担任に好意を抱いているからだろう。
宇佐美先生が、2-Fの担任である小島先生が好きなのは2-Fと2-Sの生徒の間では、周知の事実だ。


「む、確かに少しばかり長居してしまったようだ。
クリス、何かあれば戦闘機で駆けつけるからな」


そう言ってクリスの父は、帰って行った。
クリスが結婚できる日は来るのだろうか?
親に思われ過ぎるのも問題だな。


などと考えながら、俺は2-Fを後にした。

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