自分自身は男性として生まれたことは紛れもない事実である。幼い頃には父親はキャッチボールをして遊んでくれた。とりわけ男であることを強要された記憶はないが、ごく自然に黒いランドセルに半ズボンで通っていた。
そうかと思うと女の子ともよく遊んだ。ままごとセットでおもちゃのホットケーキを焼いたりしていた。母の目を盗んで友達と化粧をして笑いあったりもしていた。
小学生の頃の聡は活発な男の子ではなく、むしろ女の子とばかり話していた。それは中学高校になってもあまり変わらなかった。男子がエロ本に夢中になっているのを冷静な視線で見ていた。そんな聡に対して同級生たちはからかうこともあったが、いじめに発展することもなく平穏な日々を過ごしていた。
玲子とは大学入試を意識しはじめた頃に知り合った。はじめは友人として。明るく友好的な玲子は物静かで淡々とした雰囲気の聡に好意を持つようになっていった。そして、いつか恋人同士と呼ばれる関係になった。聡にとってそれは意識していたことなのかどうか今となっては思い出すこともできなかった。
男性だから女性に恋愛することを当たり前のように受け入れただけなのかも知れない。
今の聡にとって「女性になりたいのか」すらはっきりしていない。言えることは「男性でいることは嫌なこと」だけである。
なぜ性別なんて面倒なものがあるのだろう。
セックスをするということはどういうことなんだろうが、その本能は人によってことなるのではないだろうか、と思える。分からなくなっていた。聡美には考えれば考えるだけ分からなくなっていた。理解するようなことではないのかもしれない。
もし性別を選択することができるのなら、おそらく女性を選択するだろうと聡美は感じていた。明確な理由が存在しているわけではない。そもそも、女性とはなんだろう、男性とはなんだろう・・・答えのない疑問の波に飲み込まれている自分を感じていた。