小説『ハーフ 【完結】』
作者:高岡みなみ(うつろぐ)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 聡美は(ああ、わたしにはこんな器用に料理なんてできないなあ)と、玲子と自分を比べていた。比べる事自体ほとんど意味のない事は聡美にもよくわかっていた。誰もが得意とする物を持っている。玲子は、料理や掃除となると実に手際よくこなした。それに、自分の夢のためには、すごい集中力を発揮した。玲子は高校三年になった頃は、文学部とはいえ、この大学に入れるような成績ではなかった。『彼』が志望校を決めると、同じ大学に入ろうと、大変な努力をした。玲子は、誰に自慢するわけでもなく自分の目標に対して、まっすぐ向き合った。玲子が『彼」を選んだ理由はわからなかった。きっと何か惹かれる物があるのだろう。『彼』は玲子に対して高校の頃から甘えていた。玲子は『彼』のどんな愚痴も真剣に聞いてくれた。そして、気持ちを落ち着かせてくれた。聡は玲子といるだけで、何かに守られているような気がした。聡と玲子が大学に入ると、二人の関係はより近い関係へと変わっていった。互いが相手の事をとてもよく知っていた。
 聡美は煙草に火を点けて、しばらく玲子の様子を眺めていた。玲子は実にまめまめしく動く。のんびりとする事はあまりなく、いつも何かをしている。そしてその動きは無駄がない。何をするにしても頭の中で手順ができているのだろう。
「さあ。できたわよ。手抜きだけど……」
 テーブルには、スープの中を泳ぐパスタの上にベランダのプランターから取れたてのパセリのみじん切りを振りかけた皿が二つと、ふるふると揺れながら運ばれてきたオムレツとふっくらゆでたてのブロッコリーが乗った皿が並べられた。
 玲子は、少しおどけて
「冷たいコンソメのスープスパゲッティとオムレツでございます」
と、言った。そして
「なんか変わり映えしないメニューだけどごめんね」
と、続けた。聡美は
「いつのもほっとするメニューよ。わたしもこういう料理が作れればいいのに」
と、答えた。男性をやめようとする自分が料理ひとつ満足に作れない事がとても不満だった。聡美にとって玲子の存在は必要であったが、いつまでも頼ってばかりもいられないという思いがあった。
 玲子は、そんな聡美の思いとは別に、
「暑い時は、冷たいメニューに走っちゃうのよね。躰を冷やさない方がいいのはわかっているんだけど、簡単だし、ついこういうのばかりになっちゃう」
と、言った。聡美は(これで簡単なんて言われたら、いったい私はどうすればいいのよ)と、思ったが口にはしなかった。
 聡美は玲子に
「いつ誰から料理を習ったの」
と、訊いてみた。
 玲子は少し考えてから
「別に習ったっていう記憶はないわね。ほら、うちって親が両方とも働いてるじゃん。だから自然に自分で自分の分を作る事が多かったかな」
と、答えたが、聡美には納得できなかった。

-15-
Copyright ©高岡みなみ All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える