小説『ハーフ 【完結】』
作者:高岡みなみ(うつろぐ)

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「疲れたあ」
と、部屋に入るなり玲子は声を上げた。
「喉乾いた」
と、聡美は冷蔵庫から牛乳を出すと、ゴクゴクと喉をならして飲んだ。
「おなか空いたあ」
と、玲子はごろんと寝ころびながら言った。
「冷凍パスタでいいか」
と、聡美は答えた。
「どうする。先にシャワーしてから食べた方が落ち着くんじゃない。準備しておくからさっさとシャワーしといで」
と、聡美が言うと、玲子は「うー」とうなりながらも、何とか体を起こし浴室に向かった。
 考えてみれば今日はほとんどを玲子が選んで玲子が決めた。しかもこんなにたくさん。疲れない方がどうかしている。改めてベッドに放り上げた今日の戦果を見ると、(よくこれだけの物を一日で買った物だ)と、感心した。洋服ばかりこんなにたくさん買ったのは初めてだった。古着と言っても実際の古着はあまりないだろう。他はほとんどがアウトレット物だ。これで当分は着る物に不自由しないだろう。後は気に入った物をちょこちょこと買い足せばいい。
 聡美が冷凍パスタをレンジに入れタイマーをセットした時、玲子はバスタオルで躰をくんだまま浴室から出てきた。
「何だ早いじゃん」
と、聡美が言うと、玲子は
「流しただけだから。聡美もどうぞ」
と、答えた。
 聡美は、後の夕食の準備は玲子に任せて浴室に向かった。

 夕食は終始無言だった。とにかく疲れていた。さすがの玲子も今日ばかりは作る気にならなかったようで、パスタだけの夕食だった。食べてからもしばらくは二人してぼんやりとテレビを見ていた。七時を回った頃、ようやく袋を開き始めた。
「それにしてもたくさん買ったね」
「それもこれもすべて玲子様のおかげです」
 聡美は何とか冗談を言えるようになった。
「いえいえ、どういたしまして。でもいくらくらい使ったのかなあ」
「四万二千円くらい残ってるから、最初の予算から思えば半分くらいね」
「そっかあ。使わせちゃったね」
「そんな事ないよ。ずいぶん安く買わせて貰ったってところね。私ひとりじゃ何も揃えられなかったんじゃないかなあ」
「ま、そう言って貰えると嬉しいけど」
「後は靴かあ」
「そうね。それとアクセサリを少し。ちゃんとしたワンピースとかも欲しいけどすぐにはいらないよね。高いし」
「そうだね。今はとりあえず着る物があればいいや。明日もつき合って貰っていいの?」
「いいも悪いも、ここでやめられないでしょ」
「うん。悪いね。いつか埋め合わせするね」
「別にそんなのいいわよ。それより何だか私の趣味を押しつけているような気もするけど聡美はいいの?」
「それこそいいも悪いもないわよ。感謝してます」
 聡美は玲子が帰ってから、値札やタグを黙々と外した。自分の手の中にある服が自分の外見を変えてくれると思うと、それだけで重い荷物をひとつ下ろしたように気が楽になった。自分自身の改造は、まだ、始まったばかりだけれどともかく一歩を踏み出した事に満足していた。そして玲子に感謝した。しかしこれまでの玲子との事を思うとちょっと複雑な心境になった。

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