小説『ハーフ 【完結】』
作者:高岡みなみ(うつろぐ)

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 アパートに続く緩やかな坂道は夕陽で金色に光っていた。
 ゆっくりと坂道を登っていくうちに次第に気持ちが落ち着いて来た。
 そして、ようやく、聡美は(自分が聡美という存在にまだ慣れていないだけなんだ)と思える余裕が出てきた。
 喫茶店にいた元クラスメートは本当は私の事を話していなかったんじゃないだろうか。もし、話していても、私は何も気にする事はない。私という存在は第三者から見れば珍しいし興味深いかも知れない。いや、彼らにとって私という存在は(なんか変な奴)という程度で、何の意味もないのではないか。もしかすると、まったく無関心なのかも知れない。彼らの中には聡美というものは存在はしないのでないだろうか。
 聡美にとっては、他人が自分をどのように見ていて、どのように接するかは、最大の関心事であった。「自分がしっかりしていれば人の言う事なんか関係ないよ」とか「自分が決めた道に自信を持たなきゃ歩けないよ」と、玲子はよく言ってくれる。確かにそれはそうなのだ。正論に聞こえる。しかし、現実には、(どこかぎこちない素振りをしていないか)とか(おかしな風に見られていないか)と、外見を取り繕ってしまう。理屈では、外見にとらわれるためにこんな事をしているんじゃないと、分かっているが、どうしても、見た目から入ってしまう。
 自分で考えて自分が決めた事を自分が消化できない。
 それはきっと『今は』消化できないだけで『明日は』消化できるに違いない。そう思っていないと、自分の存在理由を自分が否定しているようでやり切れなくなってしまう。
 聡美は(きっと明日は、きっといい方向に進むと思うようにしよう)と、心に決めた。昨日もそう思ったのだが……。
 いつも同じ事を気にして、自分一人で落ち込んで同じ道を通って、同じように考え直して、やっと立ち直る。いつも同じ事の繰り返している。
 聡美は(早く慣れなきゃ。自分で決めた事だから)と、思いながらアパートに向かった。

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