小説『ハーフ 【完結】』
作者:高岡みなみ(うつろぐ)

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 日曜の朝、聡美は遅い時間に起きた。久しぶりにのんびりと眠った。いつものようにコーヒーを入れシャワーを浴びると気持ちがすっきりした。フレンチトーストに野菜ジュースという遅い朝食をしっかりと食べた。今日の予定は何もない。久しぶりにフリーな時間がたっぷりとある。
 玲子もいないので聡美は時間を持て余した。午前中のうちに自由が丘まで電車で行き、ひとりでふらふらと雑貨を見て過ごした。パンケーキの軽い昼食を食べてから、ケーキの食材店をのぞいた。綺麗な型やいろいろな小麦粉が所狭しと並んでいる。玲子は時々、時間を見つけてはケーキやパンを焼いていたが、聡美はもっぱら食べる方で作った事などなかった。よく作るのは難しいと聞くが、玲子の様子を見ていると時間はかかる物のそれほど難しそうには見えなかった。玲子は「本に載っているのって大きすぎるのよ。二人でそんなにたくさん食べられるような物じゃないもんね」と、言っていた。わざわざ上野の河童橋まで行って十五センチの型を買ってきたとも言っていた。ケーキを作る時は聡美はいつも泡立て役だった。全卵をいっぺんに泡立てるのを共立て、卵黄と卵白を別に泡立てるのは別立てというのだそうだ。聡美は薄力粉とバニラエッセンスとミニパウンドケーキの型を買い求めて店を出た。午後になると木陰に入っても汗が噴き出してくる。後は、本を見て回ってアパートに戻る事にした。
 照り返しのひどい坂道をだらだらと登り切ると聡美のアパートにたどり着く。階段をカンカンと音を立てて上っていくとやけに疲れた。部屋の窓を開けて部屋の空気を入れ換えようとすると蝉の声がやけに大きく聞こえた。ベランダの朝顔の花もすっかりしおれていた。

 聡美はシャワーで汗を流すと、一週間分の作り置きをした。とは言っても、今夜の夕食のシチューを多めに作って、残りを小分けして冷凍したり、野菜を堅ゆでしてこれも小分けして冷凍する。ご飯も多めに炊いて置いて冷凍にする事にした。包丁を動かしていると日頃のちくちくと心を指すようなストレスから一時であっても離れさせてくれる。玲子ほど器用ではないので料理はどうしても時間がかかってしまう。段取りが悪いのだろう。しかし、作っている最中は疲れを感じる事はなかった。炊飯器やアルミ鍋が湯気を上げている間にパウンドケーキに入った。出しっぱなしにして柔らかくなったバターにたっぷりの砂糖を練り混んでいく。聡美は(これだもん、カロリー高いわけよね)と、思いながらゴムへらと泡立て器で丹念にバターを練っていた。白っぽくなってきたところに、溶き卵を混ぜてまた丹念に練ってから粉をふるいながらボウルにふるいかけた。これを混ぜるととろっとしたクリーム色の生地ができた。生地をスプーンで空気が入らないようにゆっくりと型に流し込んで、暖めておいたオーブンに入れた。聡美は(ふふふ、私だったパウンドケーキくらい作れるのよ)と、妙に満足した。

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