小説『ハーフ 【完結】』
作者:高岡みなみ(うつろぐ)

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 聡美はもともとひげは濃い方ではない
 しかし、これまでは、夕方にはトイレの個室でひげを剃っていた。それから解放されたかったし、ひげがあること自体に嫌悪感を覚えていた。

 電話で予約すると明後日を指定された。マスクを持ってくるように言われた。バイトと重ならない時間帯なので好都合である。
 保険証を提示し診察券を作ってもらう。そして問診票には脱毛箇所と脱毛の量を記載する欄があった。口周りに丸をつけ量はすべてと記入した。そして写真付きの身分証明書を求められた。
なりすましを防ぐためだそうだ。
 保険証の提示などはかなり抵抗があった。女性の姿をした男性が来るのだからいかがわしく思われないだろうか?などと思っていたが、淡々と事務的にことは進んだ。
 次回は三週間後の同じ時間に予約いれてい起きますので必ず来てください。キャンセルする場合は三日前々でに連絡してください。そうしないとキャンセル料一万円をいただくことになります。
と言われた。
 やけに高いキャンセル料だと思ったが機械を遊ばせておくわけにはいかないのだろう。過去にドタキャンが多かったためだろうと納得して、狭い迷路のような通路を進みベッドに横になると鉛筆で脱毛の範囲を書かれた。これでいいかの確認後「レーザーの量を少ない単位からはじめます。発毛の周期があるからそれに併せてレーザー照射しますが、回数は10回程度でほとんどなくなるでしょう。見た目には数回でずいぶん違うと思いますよ」という説明の後、レーザー照射が始まった。パチンとははじけるような音と冷たく冷やされる感覚が同時に来る。どれくらいの時間が経ったか分からないが、「一回目は一応終了です。このタオルで冷やしてからお帰りいただいくことになります」といわれた。
 十分ほどするとスタッフが来て鏡を持ったせた。髭の一本一本は膨張したようにふくらみ、黒々としていた。
「これがレーザーで焼かれたむだ毛です。簡単に落としましね」
と言うと、コットンでさっと撫でた。おもしろいように落ちていく。が、中には落ちないものも何本か残った。
「残ったものも明日くらいには抜け落ちるはずです。毛抜きで引き抜かないないで自然に落ちるのを待ってくださいね」
 帰りに隠すためのマスクなのかと納得した。

翌日、鏡をのぞき込むと残っていたむだ毛は乙の間にか落ちていた。
撫でてみると、髭を剃ったのは全く違うしっとりた感触があった。

 また、聡美はとりあえずネットで女性ホルモンの購入をした。
 クレジット決済ではなく銀行振り込みの業者を選んだ。海外からの個人輸入なのでクレジットカードの番号を知られたくはなかったので、届いたメールにある銀行口座に入金するとなんと三日目には届いた。
内容はさんざんネットで調べたものと同じある。信頼して良さそうだった。

 飲むべき分量はネットの情報では千差万別だったが、その平均的だろうと思われる量にした。

 聡美はパッケージを開封してみると、シートの錠剤が100タブレット入りで六箱。50粒入りのボトルの錠剤が2つ入っていた。これからは毎日飲み続けることになる。自分が女性であると確信したのことが思い出された。女性なのだから不足している女性ホルモンを補充するだけなのだ。しかし、それは、もう男性に戻れないことを意味する。
 外見だけの問題なら、明日にでもメンズの服を買い、髪もカットし直せば何とかなる。しかし、体型が変わると言うことは、それだけでは済まなくなると言うことだ。
 本当にいいのか?私は間違っていないのか?何か見落としているんじゃないか?異論亜想いが交錯する中、聡美は薬を飲んだ。
 薬を飲み終えた後、玲子に電話してみようと思ったが止めておいた。余計な心配をかけるだけのような気がした。

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