小説『ハーフ 【完結】』
作者:高岡みなみ(うつろぐ)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 数日後、玲子と第二学食でばったりであった。
「聡美、最近見ないよね。やっぱりバイトが忙しい?」
「うん、かなりね。でも、がんばってお金貯めなきゃないし。単位のこともちょっと気になっているし。」
「単位って後期始まったばかりじゃん」
「うん、それはそうなんだけど、試験期間中ってホントはバイトの身とはいえ忙しいのよ。それを無理言って休ませてもらっているから、後期は少しくらいお手伝いできたらいいなって思ってるのね」
「そこまで責任感じることないわよ。バイトなんだから」
「それはそうなんだけど・・・」聡美は応えながら高橋のことを想っていた。高橋のことだから多くの仕事を抱え奮闘しているのだろう。手伝えることがあるのなら手伝いたい。バイト代が要らないわけではないが、今はむしろ高橋の躰が心配なのだ。
「ちょっと、ちょっと、聡美。なにボーっとしてるの?何か私に言えないことあるんじゃない?」
 聡美は、ちょっと思いを巡らせたが高橋とのことを話した。一緒に食事し、自分が酔ってしまう、泊めてもらうことになり、何もなかったこと。
「ねぇ、聡美、無防備に泊まりに行っちゃダメじゃん。高橋さんがどんな人か知らないけど何があってもおかしくないわよ。それに聡美のことを知ってる人でしょ」
「だから泊めてくれたのかなぁ」そう考えれば納得はできる。
「それはあるかもね」
「私のことより玲子の方はどうなったの?」
「あーー」っと、玲子は間の抜けた声を上げた。
「結局金持ちのぼんぼんね。何も分かってないわ。女性をアクセサリくらいにしかみていない。別に私じゃなくてもよかったのよ。そういう意味じゃ、前に聡美が言ったことは当たってた」
 聡美は
「なんかむなしいね。」
と、ぼそっと言った。

 聡美は玲子と話して、結局自分がしっかりと生きて行かなきゃいけないと言うことだけは再確認できた。じゃ、何を持って(しっかり)なんだろう。
 まず頭に浮かぶのは卒業後の収入源である。就職をするのが一番無難であることは分かる。しかし、女性の姿をした男性を受け付けてくれるような会社などあるのだろうか?
 「当たって砕けろ精神」でがんばってみてもいいのだが、書類選考の段階ではねられるだろう。仮に見落とされて女性か男性と面接までこぎ着けたとしても、すぐに分かってしまう。大海に矢を射て魚を獲ようとするようなものではないか?
 就職をあきらめるとすると残るは自営業か? しかし、なんの資格も特技も人脈もない聡美氏は高いハードルだ。
 消去法で行くと、今のまま予備校のアルバイトを高橋にお願いするしかないように思える。いつまでアルバイトという立場でがんばれるか全くの未知数だし、いつ仕事がなくなるかわからない。
 四年生が就活であれだけがんばってもなかなか内定まで行かないのを見ていると、私のやっていることは破滅への道を突き進んでいるような気さえする。
 残された時間は多くない。

-58-
Copyright ©高岡みなみ All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える