小説『ハーフ 【完結】』
作者:高岡みなみ(うつろぐ)

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 翌日、スーパーの袋を下げた奈津美が来たのは五時を過ぎていた。
 奈津美は
「今日は玲子さんは来ないの?」
と、聡美に訊いた。玲子との関係を奈津美は全て知っていた。奈津美は玲子を尊敬しているように思える。高校の頃から、時々だが、聡、玲子、奈津美の三人で外出した事もあった。聡美は、奈津美にとって玲子は姉のような存在なのかも知れないと、思ったりもした。
「うん、今日は来ないよ。というか、最近は前とはちょっと違う付き合い方してるから」
「ふうん、そうなんだ」
と、奈津美は不審そうな目で言った。
「ところで何作るの」
「別に当てもなく材料買って来ちゃった。お兄ちゃんの所に何があるの」
 聡美は(お兄ちゃん)と呼ばれる事に少なからず抵抗を感じたが口にはしなかった。
「大した物ないよ。卵とタマネギとジャガイモくらいかな」
「ありゃ、卵がダブっちゃったよ」
「いいんじゃない。腐るもんじゃなし」
と、聡美は少しおどけて見せると、奈津美も
「いやいや、腐る腐る」
と、ほほえみ返した。
 聡美はスーパーの袋の開きながら、
「本当に当てなく買ってきたって感じね」
と、言った。袋の中は卵、ロールパン、ミルク、ごぼう、牛肉、モヤシ、出来合いのひじき、豆腐、冷凍ピザ、ハム。和食とも洋食ともつかないような食材だった。
「奈津美も変わらないね。毎日ちゃんと食べてるの」
「食べてるよ。言っちゃなんだけど、私の所はお兄ちゃんの冷蔵庫よりはましな物が入ってるわよ。玲子さん最近あまり来てないみたいね」
「え、なんで」
「だって調味料も切れてるし、冷蔵庫の中がこれじゃあわかるわよ。玲子さんはこういう事にはまめだったし」
 聡美は(鋭い所は変わってないなあ)と、思った。
 二人して、ごちゃごちゃと言い合いながら、調理できたのはごぼうの牛肉巻きと豆腐のステーキだけだった。ピザをオーブントースターで焼いて、ひじきを小鉢に移すともうそれでやる事はなくなった。聡美のテーブルは小さく、何枚かの皿を並べるともう一杯になった。
 奈津美はビールを開けながら
「なんて呼んで欲しい?」
と、訊いた。聡美は
「なんて呼びたい?」
と、問い返すと、奈津美は
「お兄ちゃんも変だし、かといって急にお姉ちゃんというのもぴんとこないなあ。玲子さんの友だちの聡美さんって事になるのかなあ」
「じゃあ、聡美でいいね」
と、言う聡美に奈津美は
「まあ、仕方がないか」
と答えた。

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