小説『キリトとサチ――二人だけの黒猫団――』
作者:ナヲカタラ()

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「死なせて――たまるかああぁあああ!!」
思考が加速する。
サチの動きも、モンスターの動きも酷く緩やかになっていく中で、オレだけが異常な程の速さで駆けていた。
今正にサチを襲おうとしていたモンスターの前に立ち、その瞬間元の速さに戻った世界で、ゴーレムの腕を弾き、返す剣で胴を斬り裂く。
「サチ!」
「キリ――きゃっ!?」
サチの手を掴み、モンスター共を蹴散らしながら部屋の角へ向かい、彼女を背にして立つ。
「キリト……」
「サチは動くな。コイツ等はオレが片付ける。さあ、来いよ。一瞬で終わらせてやる」
あらん限りの殺気を込めて言えば、怯える筈の、感情を持たない筈のモンスター達が、怯えた様にあとじさった気がした。


――決着は、直ぐに着いた。
ここまで使わなかった、上位のソードスキルを使うことで。
だが、だからといって、死んだ者は返って来ない。このデスゲームは、死ねば其処で本当に終わりなんだ。
「ちくしょう……畜生!!」
感情に任せ壁を殴り付けても、そこには破壊不可能オブジェクトであることを伝えるメッセージしか浮かばない。
「畜生……」
オレが、もっと強く引き止めていれば。
オレが、レベルを偽らなければ、こうはならなかった。
「キリト……っ。キリト」
「サ――っ」
振り返るよりも早く、サチに抱き付かれた。
「キリトは、何も悪くないよ。キリトがいなかったら、わたし達はここまでこられなかったもの」
それは……。
「それは違う。オレがいなくても、黒猫団は何れ攻略組に入れる強さを手に入れていた。オレがいなければ、自分達の速さで、其処まで辿り着けていたんだ」
「じゃあ……あなたにとって、わたし達といるのは楽しくなかった? レベルを隠してる罪悪感しか無かった?」
「そんなこと! ……そんなこと、無かったさ。楽しかったに決まってる。一緒に攻略して、一緒にモンスターを倒して、一緒に飯を食って…………楽しかったに、決まってるだろ……!」
一層上がるだけで、みんなが笑っていた。
強いモンスターを倒せる様になって、みんなが喜んでいた。
ただ一緒に飯を食うだけで、みんながはしゃいでいた。
ソロプレイでは、決して触れることの無い温もりを与えてくれた。
だと言うのに……!
「ソレを……オレが壊したんだ! オレの勝手な思い上がりが、テツオ達を死なせた!」
視界が滲んでいき、室内が歪んでいく。
「――わたしは、生きてるよ?」
「っ――!」
「あなたが……キリトが、約束してくれた通り、わたしは、生きてる……それは、あなたが強かったから。ねぇ、キリト……わたしじゃ、あなたを支えられないかな?」
「サチ……オレは…………」
テツオ達が死んだのは、誰でもない、オレのせいだ。その事実だけは、何が起ころうと……このゲームがクリアされようと、変わることはない。
けれど、サチを失わなかったこともまた、変わることの無い事実であり、ソレは、オレが強かったから。
強かったお陰で、サチを守ることが出来たから。
――オレは、この罪を背負って行こう。
消えること等、決してあることの無い、この罪を。
そうすることが、せめてもの償いとなることを祈って。
体を反転させ、サチの華奢な体を抱き締める。
「ごめん、サチ。みんなを、守れなくて……」
情けなく、涙を流しながら謝るオレを、サチは優しく抱き締めてくれた。
触れ合っている所から、アバターの体温を感じ、じんわりと広がっていく。
「キリト……みんなが、あなたをどう思っていたのかは、分からない。でも、わたしは、あなたに逢えたことを、本当に感謝してる」
聞けば、サチの声も、オレと等しく震えていた。
「サチ、この先、例え何が起ころうと、オレはキミを守る。必ず、キミを現実に送り返すから。だから……だから、オレと――っ!?」
一緒になろう。
そう告げるよりも早く、サチの唇が、オレの口を塞いだ。
「……ん……わたしも、必ずあなたを、現実に送り返す。何があっても。だからキリト、わたしと一緒に、今を生きて下さい」
唇を離したサチは、そう言うとまた唇を重ねて来た。
しかし、今度はオレからもサチを求める。
偶然出逢った一つのギルド、月夜の黒猫団。
出逢ったのがオレでなければ、また違う路を、サチ達は歩いていたのだろう。
だが、ソレは結局の所、ifの話でしか無い。
月夜の黒猫団と出逢ったのは、ある黒いソロプレイヤーだった。
その結果、仲間を失ってしまったが、同時に、最愛の女性(ヒト)を得た。
犯した罪に、苛まれることはあるだろう。
犯した罪に、押し潰されそうになることもあるだろう。
けれど、オレは独りじゃない。
支えてくれる彼女が――サチがいる。
守って行こう。
そして、共に強くなって行こう。

何時か――本当の現実で、また逢う為に。

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