小説『ハイスクールD×D 〜銀白の剣士〜』
作者:strik()

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〜第10話〜





Side 渚


次の日。

「じゃあ、これから堕天使たちの根城の教会に行くわ。ナギの言うとおり堕天使の一部が勝手に行動しているようだから、遠慮はいらないわよ」

 深夜、オカルト研究部に集まって教会に乗りこむ算段を話す。

「乗り込むのは、イッセー、祐斗、小猫の三人よ」

 リアス先輩が作戦の概要を話し始める。

「わかりました」

「・・・・・・・了解です」

 兄さん以外が返事をする。

「あ、あの部長? 俺は戦力にならないんじゃ・・・・・・」

 確かに、今の兄さんじゃ戦闘は厳しいだろう。

「イッセー、あなたは|兵士(ポーン)が一番弱い駒だと思ってるけど、それは誤りよ」

 弱気な発言をする兄さんを励ますようにリアス先輩が|兵士(ポーン)について説明する。

 |兵士(ポーン)はチェスと同じように|王(キング)、つまりリアス先輩が敵陣と定めた場所に踏み込むことで、他の駒である|僧侶(ビショップ)、|騎士(ナイト)、|戦車(ルーク)、|女王(クイーン)に昇格するとこが可能な「プロモーション」という特性がある。今の兄さんでは|女王(クイーン)に昇格することは出来ないようだけど、確かにそれなら戦いようはある。そしてもう一つ。

「|神器(セイグリット・ギア)は持ち主の想いで動くの。その思いが強ければ強いほど持ち主の思いに答えてくれるわ」

 リアス先輩の言葉に、自身の左腕を見つめる兄さん。

「私と朱乃、堕天使の殲滅。ナギとアーシアはついてきてもらうわ。ナギはアーシアの護衛よ」

「わかりましたわ」

「了解です」

 リアス先輩の指示にうなずく。

「それじゃあ、行くわよ!」

 僕たちは教会に向かった。





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「部長、堕天使たちは教会の裏側にいるようですわ」

「そう、行くわよ」

 兄さんたちと別れた後、朱乃先輩が堕天使の位置を探り、場所がわかったのでそちらに向かう。

 そこには三人の堕天使がいた。

「悪魔と人間がなんの用かしら?」

「ミットルテ、おおかた我らに滅ぼされにでも来たのだろう。なあ、カラワーナ」

「ええ、ドーナシーク。きっとその通りね」

 堕天使たちが、余裕とでもいうようにしゃべっている。

「一つ、いいかしら?」

「なんだね。冥土の土産に教えてやろう」

「あと一人、いたと思うのだけど・・・・・どこにいるのかしら?」

「レイナーレ様なら教会の中だ。お前の眷属どもは殺されるだろう。グレモリーの者よ」

「そう。でも、あの子たちなら堕天使一人何の問題もないわ」

 リアス先輩はそう言うが、正直兄さんが少し心配である。

「フン、もういいか? なら・・・・・・・死ぬがよい!」

 堕天使たちは悪魔である先輩たちを排除するつもりらしく、光の槍が二人に向かって放たれた。

「うふふふ、そんなんじゃ当たりませんわ」

 笑いながら、光の槍を避ける朱乃先輩。

「まったくね」

 リアス先輩も同じように光の槍を避けていた。

「それでは、次はこちらの番ですわ」

 朱乃先輩がそう言って、雷を堕天使に落とす。

「チッ」

「危ないっと!」

「ンッ!」

 かろうじて、全員が避けたようだが態勢が崩れていた。

「それじゃあ、さようなら」

 そんな隙を、リアス先輩が見逃すわけがなく、その髪と同様の紅い魔力が堕天使に向かって放たれた。

「「ギャァァアァアアアァァアァァァァァァァァァァ!!」」

 ドーナシークとか言う堕天使だけは何とか、リアス先輩の攻撃を回避していた。残りの二人は、黒い羽根を残してはぐれ悪魔の時と同じように消滅している。

「ミットルテ! カラワーナ! この小娘がぁぁぁぁぁぁぁ」

 怒った堕天使が、再び光の槍を放つ。当然のように二人の先輩は避けた。

「バカめ、死ね! 人間が!!」

 先ほどの光の槍を避けたせいで、僕とアーシアさんは先輩たちから引き離されていた。ドーナシークは僕らに狙いを変えたみたいだ。

「ナギ! 避けなさい!!」

「ナギくん!」

 堕天使は光の槍を構えて突っ込んでくる。僕を殺してアーシアさんを人質にでも取るつもりなのだろう。二人の「避けて」という声が聞こえる。だけど――――

(残念。僕にはそれは|見えている(・・・・・)

 僕の視界は二重にぶれていた。映るのは現在のドーナシークと未来のドーナシーク。実はここに来た時に|四次元視(プリズスキャルブ)を発動させていたのである。

 数秒前から、僕たちの方に攻撃が来るのがわかっていた僕は、迎え撃つために右腕に魔力を集めてコーティングをしていた。アーシアさんが後ろから、僕の服を引っ張っている。チラッと、後ろを向いて大丈夫というようにうなずいた。彼女もうなずき返してくれる。

「ハァァァァァァァ! 死ねぇぇぇぇぇ」

 僕の右腕には二つの魔法陣が並びながら回転している。一つは魔力を周囲からかき集める集束の魔法陣。もう一つは集めた魔力を圧縮する魔法陣だ。その二つの回転速度を上げ、集束と圧縮の速度を上げる。

 声を上げて上空から突っ込んでくる堕天使。だが、僕は慌てることなく構えて、未来の堕天使の像が、僕に攻撃した瞬間に右腕を突き出して、放出した。

「|神討つ剣狼の銀閃(フェンリスヴォルフ)!!」

 今まで集められ、圧縮されていた魔力が堕天使に向かって打ち出される。銀色の純魔力の嵐は突っ込んできた堕天使を飲み込んだ。

 右腕を突き出した格好のまま停止する。右腕からは余剰魔力が蒸気のように出ていた。

 純魔力の嵐に飲み込まれた堕天使は、すでにその姿を消滅させている。ただ、黒い羽根が数枚、宙に舞っていた。

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」

 数秒間、誰も言葉を発しなかった。

 そして、離れていた先輩たちが近づいてくる。

「ナ、ナギ? さっきの|神討つ剣狼の銀閃(フェンリスヴォルフ)って、なにかしら?」

 若干顔が引きつっているリアス先輩。後ろの朱乃先輩も聞きたいようで後ろでうんうんとうなずいている。

「ただ単に、周囲の魔力を集束させて圧縮したものを、ただ放出させただけです。簡単に言うなら、超魔力パンチと言ったところでしょうか」

 うん。零二並みの魔力があるから、やってみたかったのだ。

「「・・・・・・・なんで・・・・・・・・・・・・威力が・・・・・・・・・・・・・・」」

 先輩方はこめかみを押さえながら、何かブツブツ言っている。

「それより、終わったのなら兄さんたちと合流しましょう」

「・・・・・・・そうね」

「ええ、そうですわ」

 なんか、現実逃避しているような感じがする。とにかく僕たちは表の方に移動した。


Side out





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Side 一誠


 下の神父たちを木場と小猫ちゃんに任せて、俺はレイナーレを追って階段を駆け上がった。

「あはは、追ってきて馬鹿ねぇ。教えてあげるわ、あなたの|神器(セイグリット・ギア)は|龍の手(トゥワイス・クリティカル)って言う持ち主の力を一定時間倍にするけど、あなたの力が倍になったところで全く怖くないわ」

『|Boost(ブースト)

 |神器(セイグリット・ギア)から音声が聞こえた。ドクンと音をたて、力が増しえていくのがわかった。

「うおおおおおおおおおおお!」

 すでにプロモーションで|戦車(ルーク)になっている。俺は力を乗せて拳を突き出す。

「言ったでしょ? あなたの力が倍になったところで全く怖くないって」

 俺の攻撃は避けられてしまった。

「力を込めてあげたわ! 食らいなさい!」

 ズドンッと俺の両足に光の槍が突き刺さる。両足の腿へ深く打ち込まれていた。

「ぐぁあああああぁあぁぁぁあ!」

 俺は絶叫を上げる。激痛が全身を駆け回った。俺は光の槍を掴み足から引き抜く。手が光でダメージを負い、両足からは血があふれ出る。

「バカね。光に自ら触れるなんて」

 レイナーレが何か言っているが、痛みでそれどころではない。力が入らなくてしりもちをついてしまった。

「こういう時は神様に頼むのかな」

 俺はいつの間にかそんなことを口にしていた。

「いや、神様はダメだ。悪魔なら・・・・・アレだ。魔王様だな。ちょっと俺の願いごと聞いてくれませんかね?」

「何を言い出しているのかしら? ついに壊れた?」

「お願い・・・・・しますっ! ほかには何もいりません!」

 両足から血が噴き出すが、構わずに立ち上がる

「う、嘘よ! 立てるはずがない!」

 レイナーレが驚いているがどうでもいい。ただ、ただ・・・・・。

「一発・・・・・・一発だけでいいです。こいつを殴らせてください!」

『|Dragon(ドラゴン) |booster(ブースター)!!』

 |神器(セイグリット・ギア)から再び音声が聞こえ、今までなかった龍の紋章が浮かび上がった。

 それに呼応するように、今までとは比にならない力がわき出てくる。

『|Explosion(エクスプロージョン)!!』

 籠手に埋まっている宝玉が眩しいくらいに輝いて、俺を覆った。そして、あり得ないくらい力が湧いてきていた。

「そんな・・・・・・どうして・・・・・・。それは|龍の手(トゥワイス・クリティカル)でしょう? なんで・・・・・・あり得ないわ。どうして、私の力を超えているの・・・・・?」

 何やら喚いているが、関係ない! 俺はレイナーレへと近づいていく。

「嘘よ! 嘘よ!」

 光の槍を投げてくるが、それを殴り飛ばす。なんなく光の槍は消し飛んだ。

「い、いやぁぁ!」

 俺に背を向けて逃げ出そうとするレイナーレの腕を即座に掴んだ。イケる! これならこいつを―――

「逃がすか、バカ!」

「私は至高の!」

「吹っ飛べ! クソ天使!」

 ―――殴り飛ばせる!

「ギャァァアァアアアァァァァァァァァアアア!!」

 俺の拳は左頬を捉えて、レイナーレは壁をぶち破った。死んでいるかわからないが、も動けないだろう。

「ざまーみろ」

 俺は倒れこんでしまいそうになった。

「お疲れ。堕天使を倒しちゃうなんてね」

 木場が俺の肩を持って支えてくれた。

「遅せぇよ、色男」

「兄さん!」

「イッセーさん!」

 堕天使の方を片づけていた二人がやってきた。後ろには、朱乃さんと部長もいる。

「さすが兄さん、堕天使に勝ったんだね」

「はわわわ、早く治療しないと!」

 渚は俺の勝利を祝い、アーシアは俺の怪我を治してくれた。

「さすが、私の下僕ね」

 部長も俺のことを褒めてくれた。

「部長たちも堕天使を倒してきたんですよね」

「ええ、小娘と思っていたみたいだったから、二人消し飛ばしてやったわ。一人は渚が消し飛ばしたんだけどね」

 なぜか、こめかみを押さえる部長。うちの弟がなにかやらかしましたか?

「その一撃を食らえばどんな者でも消し飛ばされる。滅亡の力を有した公爵家のご令嬢。部長は若い悪魔の中でも天才と呼ばれるほどの力量の持ち主ですわ。別名『紅髪の|滅殺姫(ルイン・プリンセス)』」

 すごい名前だな。物々しい感じがするよ。

「あの、じゃあ、渚はどうやって?」

「純粋な魔力の嵐でよ」

 朱乃さんに質問したら、部長が答えてくれた。しかし、よくわからないのだが・・・・。

「物を消滅させるのにはグレモリーのような、特殊な例を除けば莫大な魔力がいるの。だけど、ナギはいとも簡単にそれをやったわ。しかも、周囲の魔力の集束や圧縮の術式もおりこんだ状態で。普通はそんな術式は出来ないものなのよ」

「あはははははは」

 渚を恨めしそうな目で見る部長に渚は笑って誤魔化そうとしていた。

「でも、さすがですわ」

 朱乃さんが渚の腕に抱き着く。おっぱいが渚の腕に当たっている。う、羨ましいぃぃぃ! 俺と代われ!

「ちょ、ちょっと先輩!?」

 渚は驚いて顔が赤くなっている。なんとか、離れてもらおうとしているようだが、朱乃さんは離す気はないようだ。
 
「あらあら、教会がボロボロですね。まあ、構いませんか」

 そんな状態で、朱乃さんが言う。なんかまずいのかと思ったがそうでもないらしい。

「部長、持ってきました」

 さっきから、見かけなかった小猫ちゃんが、レイナーレを引きずりながら現れた。

「朱乃」

「はい」

 朱乃さんは魔力で水を作るとレイナーレへとかぶせた。

「ゴホッゴホ!」

 咳き込みながら起きるレイナーレ。

「はじめまして、堕天使レイナーレ。私はリアス・グレモリー。グレモリー家次期頭首よ。短い間でしょうけど、お見知りおきを」

 そう言って、部長は黒い羽根をレイナーレの前に放った。

「それでわかると思うけど、あなたに助けは来ないわ」

 そこで部長が俺の左腕を見る。何かに気づいたようだ。

「そう、そういうこと。あなたの敗因はイッセーの|神器(セイグリット・ギア)をおそらく、|龍の手(トゥワイス・クリティカル)と勘違いしたことね。これは『|赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』、|神器(セイグリット・ギア)の中でもレア中のレア。『|神滅具(ロンギヌス)』の一つよ」

 部長の言葉を聞いて、愕然となるレイナーレ。その効果は十秒ごとに持ち手の力を倍にしていく。神や魔王さえ一時的に上回ることのできるもの代物らしい。

「それじゃあ、消えてもらうわ」

 部長が手をかざす。

「俺、参上!」

 そのとき、壁の穴から人影が出てきた。

「わーお! 俺の上司がピンチっぽい!」

 フリード・セルゼン! あいつ逃げたんじゃなかったのか!?

「助けなさい! 私を助ければ褒美でもなんでもあげるわ!」

 レイナーレがフリードに向かって叫ぶが、奴はにんまり笑う。

「どう見ても戦況不利マキシマムシュートじゃないですか〜。無理です♪ 諦めてください♪」

 絶望的な表情のレイナーレから、フリードは俺に視線を向ける。

「イッセーくん、イッセーくん。素敵な能力を持ってたのね。興味津々なり殺しがいがあるよ! 俺的に殺したい悪魔ランキングトップ5入りだからヨロシク。それと女顔のキミもね」

 女顔―――おそらく渚に言ったのだろう。俺たちに明確な殺意が向けられた。

「じゃあね! バイバーイ! みんな,歯磨けよ!」

 最後によくわからないことを言いながら、フリードは退場した。

「さて、下僕にも捨てられて哀れね。堕天使レイナーレ」

 部長の口調には微塵も同情は感じられなかった。

 レイナーレはガクガクと震えている。少しだけ同情したのは彼女が夕麻ちゃんだったからだろう。

「イッセーくん! 助けて!」

 突然、俺に助けを求めてくるレイナーレ。それは夕麻ちゃんの頃のものだった。

「グッバイ。俺の恋。部長お願いします」

 だが、俺は一切聞く耳持たなかった。少しでも同情した俺が馬鹿だったようだ。

「私のかわいい下僕に言い寄るな。消し飛べ」

 悲鳴を上げる間もなく、レイナーレは消滅した。後に残ったのは、宙に舞う数枚の黒い羽根だけだった。


Side out

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