小説『魔法少女リリカルなのは 〜俺にできること〜』
作者:ASTERU()

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16. TKG

  
  






  「……重い」


 
 両手に三つの買い物袋、背中に十キロの米を装備した俺は、
 修行の道のり……ではなく、普通に帰宅している。

 
 今日は本当なら八神と一緒に買い物に行く予定だったが、
 八神の方に急用ができたとの連絡があったので一人でスーパーに行った。
 八神から無理やり聞きだした買い物メモを手に店内を歩き回っていたが、
 俺の眼に超お買い得な米が飛び込んでくる。

 
 結局、いつもより大量に買い込んでしまったのでこのような状態に陥っている。
 なんかレジ打ちのおばさん達から心配までされてしまった。


  
  「あ、あともうちょいで……」



 自宅まで残り少しと言うところで視界の隅に光るものが。
 なにかと思い近づいてみると、ジュエルシードが落ちていた。



  「まじかよ……」



 いきなり見つけてジュエルシードに驚いてしまう。
 俺は周囲を見渡して人がいないことを確認した後、
 荷物を置いてクロを起動し、ジュエルシードに封印処理を施す。



  「ふぅ〜、まさかこんなところで見つけるとは――――」


  「そのジュエルシードを渡してください」



 突如聞こえてきた声に振り返ると、そこには昨日会った金髪がいた。
 相手も俺だとわかるとデバイスをこちらに向けて警戒してきた。


 
  「フェイト、見つかったかい…ってアンタ! 昨日の…!?」



 金髪に続いて、今度は犬耳のねえちゃんが現れた。
 まずいな……



  「昨日はよくもフェイトをやってくれたね! 覚悟しな、八つ裂きにしてやる!!」


  「落ち着いてアルフ。 そこのあなた、それを渡してください。
  そうすれば私達はこのまま引き下がります。 もし拒否するなら……」



 脅迫じゃんそれ。
 はぁ、しょうがねぇ……



  「……いいぜ。 ただし条件がある」



 そう言って俺は足元に手を伸ばす。
 俺の言葉に驚いたようだが突然の俺の行動に二人は警戒心を高める。
 だが―――



  「……これ運ぶの手伝って」



 ―――買い物袋を持ちながら、俺は二人にそうお願いした。























  「ここがアンタの家かい?」



 現在、自宅の前。
 目の前に建っているのは、どこにでもある普通の平屋住宅。
 あの後お互いに自己紹介を済ませ、
 フェイトとアルフに買い物袋を一つずつ持ってもらった後家へと案内した。



  「さぁ家まで荷物を運んだんだ。 約束通りジュエルシードを――――」





  ぐうぅぅぅ〜





 突如聞こえてきた音に辺りを見渡すと、フェイトがお腹を押さえて恥ずかしそうに俯いている。
 まさか……



  「……なぁフェイト。 腹減ったのか?」


  「……うん」



 俯いたまま、消え入りそうな声で言うフェイト。



  「なぁアルフ。 人の家の前で腹鳴らすってどうよ?」


  「うっ!? ……ゴメン」



 アルフも反論できないのか、素直に謝ってきた。



  「はぁ〜、とりあえずお前らあがれ」



 二人は俺の指示に素直に従い、一緒に家に入った。
























  「適当にくつろいでくれよ。 すぐ作るから」



 そう言って俺はキッチンへと向かう。
 アルフは初めて訪れた家のため辺りをキョロキョロと見渡し、
 フェイトはまだ恥ずかしいのか、借りてきた猫のように大人しく座っている。



  「さて、なに作ろっかねぇ? とりあえず野菜炒めでも……」



 野菜を洗ってから水気をとり、食べやすい大きさに切る。



  「後は炒めるだけだな。 あれ……」



 コンロの上にフライパンを置き、火をつけようとするがいくらやっても火がつかない。



  「あっ!? そういや今日は昼からガスが使えないんだった……」



 どうする?
 切った野菜はサラダにするとして、他に火を使わずに作れる料理って……



  「……あるじゃねぇかよ。 火を使わずに作れて、尚且つ簡単な料理が」



 そういってニヤリと笑った俺はすぐに作業に取り掛かった。
























  「……なんだいこりゃ?」



 アルフは目の前に並べられた食べ物に眉をひそめる。
 フェイトも見たことがないのか首をかしげていた。
 テーブルに並べられている料理は二品。
 白い器に盛られ、ドレッシングがかけられた、本当なら野菜炒めになるはずだったサラダ。
 それとは対極となる黒い器に盛られたのは見たことのない料理。


 ふっくらとしたご飯。
 それが卵と混ざりあうことによって黄金の輝きを発している。
 僅かに香る醤油の香りが見る者の食欲をそそり、チョコンと乗ったネギがそれを更に引き立てている。


 それは日本が世界に誇る卵料理。
 その名は―――



  「卵かけご飯。 通称“TKG”だ」


  「「TKG?」」



 二人とも聞き覚えか疑問に思っている。
 まぁ、魔導士みたいだから知るわけない。



  「まぁとにかく食ってみろ、うまいから。
  あと、いただきますって言えよ」


  「「いただきます」」



 そういって二人は食べ始める。 
 さて、二人の口にあうかねぇ?



  「……うまいじゃないかい!?」

 

 そういって感心したように言うアルフ。
 フェイトも口にあったのか無言でスプーンを進めている。
 俺も合掌し、箸を進めているとふと、アルフが聞いてきた。



  「ねぇ、これってなにが入ってるんだい?」



 TKGを指さしながら聞いてくるアルフ。
 そりゃお前―――



  「愛情」


  「むぐっ! ……ゲホッ、ゴホッ!」



 俺の発言に咽返るアルフ。
 フェイトも顔を真っ赤にしながら固まっていた。



  「き、聞き間違えかい? 今ヘンな言葉が……」


  「だから、愛情だよ。 料理は愛情だって近所のおばさん達が言ってたんだよ。
  有り難く食えよ。 たっぷり入れといたからな」


  「ユウの愛情たっぷりTKG……」



 フェイトがTKGを見ながらなにやらブツブツと呟いている。
 なんか不気味だぞ……
 おっ、そうだった。



  「ほい、約束のジュエルシード」



 そう言って二人の前に二つのジュエルシードを置く。
 


  「…え、なんで…」


  「一つは約束のモノで、もう一つはこの前の詫びだよ。
  ほら、この前戦った時の……」


  「でもあれは―――」


  「元々俺がジュエルシードを集めてんのは、あったらこの街が危ねぇからだ。
  だからこの街から持ってってくれるんなら、正直どうでもいんだよ」



 俺の言葉を二人は黙って聞いている。
 
  

  「今日見た感じだと、二人ともワリィ奴じゃないみたいだし、渡しても大丈夫だって思えたんだよ」


  「……私達がジュエルシードを集めてる理由は聞かないの?」


  「俺が聞いたら教えてくれるのか?」


  「それは……」



 そういって言葉を濁すフェイト。
 やっぱりな……



  「だから別にいいよ。 話せないことってのは誰にでもあるしな」


  「……ありがとう」


  「アタシからも礼を言わせてくれ。 ありがと」



 二人は揃って頭をさげた。



  「礼はいいから、さっさとメシ食おうぜ。
  早く食わねぇと冷めちまう」


  「……そうだね」



 俺達は食事を再開した。
 再会した時に感じた空気は、もうそこには存在しなかったが―――



  (……なのはやユーノにどう説明しよ……)



 再び発生した問題に、俺は人知れず頭を悩ませていた。























☆☆☆フェイト SIDE☆☆☆




  「いい奴だったね、フェイト」


  「うん」



 私とアルフは帰り道の道中で、ユウのことについて話し合っていた。
 初めて遭ったときはどこか飄々としてたけど、いざ戦闘が始まった途端、
 今まで感じたことのない威圧感を発してきた。
 でも、再会した彼は優しかったり、冗談を言ったりと、初めて遭った時とは全く違う顔を見せた。


 どれもユウの本当の表情なんだと思う。
 彼の表情をもっと見たいと思うと同時に、
 これからは彼と闘わなければいけないかもしれないと思うと気持ちが沈んでしまう。
 でも―――



  (母さんのためなら、私はなんだって―――)



 ふと、ユウが食事中に言っていた。
 “料理は愛情”という言葉を思い出す。
 あの時は恥ずかしかったけど、ユウが作ってくれた料理はおいしくて、温かくて……


 私にもあんな料理が作れるかな?
 あんな料理が作れれば、母さんは笑って……



  (……今度作ってみよ……)



 私は秘かな決意を胸に秘め、帰り道を歩いて行った。









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魔法少女リリカルなのはtype (タイプ) 2012 AUTUMN 2012年 10月号 [雑誌]
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