小説『魔法少女リリカルなのは 〜俺にできること〜』
作者:ASTERU()

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21. 絶望の言葉









  「――――……ここは?」



 眼を覚ましたそこは真っ白い天井と幾つかの機械。
 体を動かすと痛みに顔をしかめるが、なんとか起き上がり周囲を見渡す。
 どうやらここはアースラの医務室のようだ。
 体を見渡してみると至る所に包帯が巻かれている。



  「なんでここに……? 
  確かジュエルシードを封印したところで……」



 徐々に戻っていく記憶。
 そうだ、確か俺はいきなり現れた雷に……



  「こうしちゃいられねぇな……。
  ……聖なる活力、此処へ。 ――――ファーストエイド 」



 体に治癒魔法を掛けた後、ベッドから起き上がると、メインブリッジへと向かった。
























  「よぉクロノ。 どういう状況だ、これ」


  「ユウ!? 眼を覚ましたのか!」


  「おかげさんでな」



 メインブリッジに到着した俺は近くにいたクロノに声を掛ける。
 メインモニターに映っているのは、空中で戦闘を行っているなのはとフェイト。
 どちらも一歩も引かず、持てる力を振り絞って戦っている。



  「なのはとフェイトが互いに持ってるジュエルシードを全部掛けて戦ってるんだよ」


  「なるほどね……。 クロノはこの戦い、どう見る?」



 状況を説明したクロノにそう問いかける。
 正直に言うと、フェイトの方が有利だろう。
 なのはには圧倒的に経験が足りない。



  「ユウが考えてるのと同じだと思うよ。
  正直、少し前まで一般人だった彼女には荷が重すぎる」



 クロノもどうやら同じ意見のようだ。
 しかし、なのはには魔導士として天性の才能がある。
 恐らく、フェイトと同等、下手したらそれ以上の……




  『アルカス・クルタス・エイギアスッ!』




 フェイトが勝負に出た。
 バインドで拘束したなのはに自信の最高の魔法を放とうとする。
 フェイトの周囲に幾つものフォトンスフィアが展開され、放たれる時を今か今かと待ち構えているようだ。



  『――――フォトンランサー・ファランクスシフトッ! 撃ち砕けっ! ファイアァァァァァ!!!』



 フェイトの一声と共に、周囲に展開されたスフィアから一斉に魔力の槍が放たれた。
 怒涛の勢いで襲いかかる攻撃に、なのはは幾つもの障壁を展開して待ち受ける。
 画面いっぱいに映し出された雷槍によって視界が塞がり、どうなったのかが解らない。


 フェイトは肩で息をしながらも勝利を確信した。
 しかし―――――



  『――――ディバインバスター』


  『っ!?』


  『攻撃が終わったら、バインドも解けちゃうんだね』



 噴煙の中から出てきたのは、その眼に不屈の意志を宿した少女。
 なのはの砲撃魔法を辛うじて受けきったフェイトにお返しと言わんばかりに、バインドで拘束。



  『今度はこっちの番だよ……フェイトちゃん!』



 そう言って、なのはは上空へと飛翔する。
 そして巨大な魔法陣を展開させ、そこに膨大な量の魔力を収束させていく。

 
 周囲から集められた魔力は巨大な光の塊となる。



  『行くよフェイトちゃん。 これが私の……全力全開!!!』



 そして、レイジングハートを掲げ、叫ぶ!





  『―――――スタァァァライト・ブレイカァァァァァ!!!!!』





 放たれた巨大な光の奔流に対し、
 フェイトは障壁を展開して防ごうとするが、
 障壁が砕け、光の奔流に呑みこまれた。




  「なんつーバカ魔力!?」


  「……あれか、スターライトブレイカーってのは、“星を軽くぶっ壊す”って意味なのか?」


  「……否定できないのが怖いね」



 俺とクロノはなのはの放った収束魔法に冷や汗を流しながらそう呟いた。
 ……今度からなのはを怒らせないよう心に誓った俺だった。


 攻撃を受けたフェイトは気を失い、海に落ちそうになるが、ギリギリのところでアルフがキャッチ。
 戦いは終わったかに見えた。
 しかし―――――




  「っ! なんだあれは!?」




 突如現れた雷雲に驚くアースラスタッフ。
 なのは達も上空を見上げている。


 そこから海上で見たあの紫電が迸り、フェイト達を襲う。
 バルディッシュが咄嗟に障壁を展開して事なきを得たが、それと引き換えに致命的な損傷を受けたようだ。



  「ジュエルシードがっ!?」



 一瞬の隙をついて、一条の閃電がジュエルシードに当たり転送されてしまった。



  「エイミィ! 位置の特定を!!」


  「もうやってます!」



 リンディさんが茶髪のショートカットの女性、エイミィに指示を飛ばし、
 紫電がどこから来たのか、位置を特定しようとする。



  「なのはさん達をここに転送して。 事件の黒幕はすぐそこよ」
























 アースラはプレシアの所在地を突き止め、何人かの武装局員を派遣した。
 そして、アースラへと帰還したなのは達。
 皆、俺が目覚めたことに驚いていたようだ。



  「そんな簡単に死にゃしねぇ―よ」



 全員を安心させるためにそう言う。
 

 メインブリッジではオペレーターの人たちが状況を伝えられ、
 その様子がメインモニターに映し出されている。
 そんな中、リンディさんがこちらに歩いてきた。



  「お疲れ様。 それから……フェイトさん? 初めまして」



 挨拶されたフェイトの姿は入院患者のような白い服で拘束されている。
 そして黙って手の中のバルディッシュを見つめるだけだった。
 リンディさんは母親が逮捕される姿を見せたくないという気遣いから、
 フェイトをほかの部屋に連れて行くよう言い、なのはが自分の部屋に連れて行こうとするが
 フェイトは一向にその場から動く気配はない。



  『総員、玉座の間に進入。 目標を発見』



 そうこうしてるうちに、時の庭園に突入した武装局員たちが玉座の間に辿り着き、
 プレシア達を捕捉していた。



  『プレシア・テスタロッサ、そして使い魔のリニス。
  あなた達を時空管理局法違反の容疑で逮捕します』


  『速やかに武装を解除して、投降しなさい』



 アースラの武装局員たちは速やかにプレシア達を取り囲む。
 とうのプレシア達は少しも動じることなく黙ったまま局員たちを見ているだけ。



  『おい、こっちに何かあるぞ!』


  『っ!?』



 局員の一人が部屋の奥に新たな部屋を発見。
 中に突入する。
 そこには―――――






 ―――――生体ポッドの中で胎児のように眠るフェイトそっくりの女の子の姿が映し出された。







  「ぇ……」


  「…………」



 アースラにいる誰もが言葉を失ってしまう。
 フェイト自身はなにが起こっているのか理解できないかのようだ。
 局員たちがポットに近づこうとするが……



  『私のアリシアに近寄らないで!!』



 ポットに近づこうとした局員に激昂したプレシアが魔力弾を飛ばし、局員はそのまま吹き飛ばされた。
 他の人達はすぐさま臨戦態勢に入り、プレシアを攻撃する。



  『う、撃てーーっ!』



 無数の魔力弾がプレシアへと殺到するが、
 プレシアは慌てた様子もなく黙って障壁を張り、局員の攻撃を防ぐ。
 しかし、いくら当たろうともプレシアの障壁はビクともしなかった。



  『うるさいわ……』


  「あぶない! 逃げてっ!!」



 なにかを察したリンディさんが画面の向こう側にむかって叫ぶ。
 しかし、軽く振るわれた腕から凄まじい雷撃が局員たちを襲い、なすすべもなく倒されたしまう。
 どうやら全員死んではいないようだが、たった一撃であれだけの数の武装局員を全滅させるとは……



  「いけない! 局員達を送還して!!」


  「は、はいっ!」



 リンディさんが早急に指示を飛ばし、
 指示を受け取ったエイミィは全滅した局員たちを収容する。
 研究室に残ったのはプレシアとリニスだけとなった。



  『っ!? ゴハッ!』


  『プレシア!?』


  「……母さん」



 突如吐血したプレシアに驚き、急ぎ駆け寄るリニス。
 フェイトは目の前の光景が理解できないでいる。



  『……もう駄目ね、時間がないわ。 
  たったこれだけのロストロギアでは、アルハザードに辿り着けるかかどうかわからないけど……。
  でも、もういいわ。 終わりにする。 この子を亡くしてからの暗鬱な時間を……。 
  この子の身代わりの人形を娘扱いするのも……。 ……聞いていて? 貴女のことよ、フェイト』



 唐突に言葉を向けられたフェイトはビクリと体を震わせた。



  『折角アリシアの記憶をあげたのに、そっくりなのは見た目だけ。
  役立たずでちっとも使えない……私のお人形』



 突き刺さるような言葉に体を震わせるフェイト。
 受け入れたくない現実を脳が拒絶しているようだ。



  「……昔起こった事故の時にね、プレシアは実の娘、アリシア・テスタロッサを亡くしているの。
  そして彼女が最後に行っていた研究は、使い魔とは異なる、 
  使い魔を超える人造生命の生成、そして死者蘇生の秘術……。
  “フェイト”って名前は当時彼女の研究につけられた開発コードなの」



 エイミィがとても言いづらそうにに説明する。



  『よく調べたわね。 そうよ、その通り。
  ……だけどダメね。 ちっとも上手くいかなかった。
  作り物の命は、所詮作り物。 失ったモノの代わりにはならないわ。
  アリシアはもっと優しく笑ってくれた。
  アリシアは時々ワガママも言ったけど、私の言うことをとてもよく聞いてくれた』


  「……やめて」



 なのはが辛そうな声で言う。
 しかしプレシアは淡々と言葉を紡いでいく。 
 その顔に表情はない。



  『アリシアは、いつも私に優しかった。 フェイト、やっぱり貴女はアリシアの偽物よ。
  折角あげたアリシアの記憶も貴女じゃダメだった』


  「……やめて、やめてよ!」



 なのはの悲痛な声をあげて懇願する。
 しかし、プレシアの言葉は止まらない。



  『アリシアを蘇らせるまでの間に、
  私が慰みに使うだけのお人形。だから貴女はもう……要らないわ。
  どこへなりと消えなさい』


  「お願いだからやめてよ!!!」



 なのはの叫びがアースラのメインブリッジに木霊する。
 皆も心からやめるように願っている。



  『フフッ、最後にいいことを教えてあげるわ、フェイト。
  貴女を造った時からずっと思っていたの。 私は……あなたが……』


  「…………」





  
  『……ッ!! 大っ嫌いなのよ!!!』




 
 
 プレシアの絶叫、崩れ落ちるフェイト。
 愛する母親に拒絶されたフェイトの目にはもはや光はない。
 皆がフェイトに悲しみを、プレシアに怒りの視線を向けている。
 しかし、俺にはプレシアが―――――




  「……なぁ、プレシア。 お前の娘、アリシアを――――

















    ―――――生き返らせてやろうか」









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