26. 代償
現在皆がいるのはアースラのメインブリッジ。
ユウがいなくなったことに気付き、周辺を探してみたが見つからず、とりあえずアースラに帰還したのだ。
「駄目です。 ユウ君の反応、どこにもありません。
しかも、転移魔法の形跡も……」
そう報告するエイミィ。
あれか色々と手は尽くしたが、ユウの足取りは一向に掴めないままだった。
「ユウ君、どこいったんだろ……」
心配そうに言うなのは。
ユウの体は、あの戦いでボロボロ。
プレシア同様に早急に治療が必要なはずだった。
プレシアはとりあえず応急処置を受け、アリシアを抱えながら様子を見守っている。
「もしかして……」
突然そう呟くリニス。
その手にはユウから渡されたメモリーが握られていた。
「リニスさん、それは?」
リンディがリニスが持っているメモリーについて尋ねる。
なにか手がかりでも見つかったのか、そう暗に告げていた。
「いえ、戦いが終わった後にユウから渡されたんです。
……そう言えば妙なことを言っていました。
“これを見てもアースラの連中を怨むな、あいつ等は関係ない”って」
「……?」
全く心当たりのないことに眉を顰める。
リニスからメモリーを受け取ったエイミィはそれをモニターに接続した。
「!?」
突然言葉を失うエイミィ。
皆が何事かと思ったが、徐々に落ち着きを取り戻していく。
「エイミィ、どうしたんだ?」
「艦長、クロノ君……これって」
「エイミィさん、メインモニターに映し出して」
リンディの指示を受け、震える手でパネルを操作し、メインモニターに映し出された。
そこには―――――
「え……」
アリシアが命を落とすきっかけとなった事件―――――
「ウソ……」
―――――ヒュードラ事件の真相が記されていた。
「なんで、どうしてこんなものが……」
プレシアの人生を狂わせた事件。
当然プレシアは事件の真相を暴こうとしたが、結局わかったのは、
自分のミスでアリシアを死なせてしまったとういうことだけだった。
しかし、そこに記されてしたのはまったく異なるもの。
計画の発案段階から無理があったこと。
事件が起こるきっかけとなったミスを犯した者の名前。
そして、それを指示し、隠蔽しようとした管理局上層部の名前のリストと証拠。
「こんな……こんなことのせいでアリシアはっ!」
プレシアの瞳に浮かぶのは激しい憎悪。
愛する者を奪っておきながら、それを無かったことにしようとしたことに対する怒りが支配していた。
「――――プレシアさん」
リンディの声。
彼女はプレシアの前に歩み寄ると、そのまま黙って頭を下げた。
「……申し訳ありません。 管理局は、無実のあなたに罪をかぶせた。
謝ってすむ問題ではありません。 ですがこれだけは言わせてください。
本当に……申し訳ありませんでした」
「…………」
「母さん……」
「艦長……」
頭を下げるリンディをプレシアは黙って見つめていた。
頭ではこの人が悪いわけではないとわかっているのだ。
でも、そう簡単に済むような問題でもない。
リンディの所属している管理局が、自分の全てを奪ったのだから。
「……あなた達は、こいつ等を裁いてくれるのかしら?」
「勿論です。 それに、このデータを利用して管理局と司法取引を行えば、
今回の事件で無実、最悪でも保護観察程度ですむことが可能になると思います」
「そう……」
確かに管理局の連中は憎い。
でも、今回の事件で家族がバラバラにならずに済むことの方が嬉しかった。
「そうだ、リンディさん。 こちらから一つお願いがあるんだけど」
「……何でしょう?」
「アリシアの蘇生の件、管理局には報告しないでほしいの。
もちろん、ジュエルシードの本当の姿についても。
あれは人が扱っていいものではない。
アリシアについては、養子で引き取ったという形にでもするわ。
そうすればあまり疑われずにすむもの」
ジュエルシードや蘇生のことが誰かに知られれば、
必ずそれを利用したり、研究しようとするものが現れるはず。
それだけは何としてでも避けなければいけない。
「わかりました。 それについては安心してください。
でも、ユウ君については……」
「……?」
いきなり話題にのぼったユウ。
言い淀むリンディに皆が疑問の視線を向ける。
「母さん、そのことについては僕が話すよ」
「クロノ……」
リンディに代わり、クロノが前に出た。
しかし、リンディは彼に悲しみの視線を向ける。
「……今回の事件、あなた達は罪には問われないでしょう。
ですがユウは……彼は違う」
「クロノ、それってどういう……」
フェイトがクロノに尋ねた。
なぜユウが? ただそれだけが知りたかった。
「ロストロギアの不法所持、及び使用。
アースラにあるジュエルシードを無断で持ち出し、使用。
それによって起こった次元震による次元世界崩壊未遂。
……彼はこれだけの罪を犯した」
「でもクロノ! ユウはなにも悪いことは―――――」
「わかってる!!!」
ユウを庇おうとしたフェイトに向けて怒鳴るクロノ。
その瞳には悔しさが滲んでいる。
「彼が私利私欲のためにやったんじゃないことはわかってる。
でも、彼は法を犯した。 だから裁かれないといけないんだ。
例え、それが間違っていたとしても……」
「「クロノ(君)……」」
血が滲むほど強く拳を握りしめ、俯いているクロノを見つめるリンディとエイミィ。
正義感が人一倍強く、自分の信念を持っているからこそ、今回の件に納得がいかないのだ。
そんな彼を誰よりも理解している二人は心配そうに見つめていた。
「そんな……そんなのってないよ。 だってユウは……私達のために……」
「フェイト……」
涙を流すフェイトを、ただ黙って抱きしめるアルフ。
彼女の瞳にも、悔しさが滲んでいた。
どうしてユウが、なんで……
「……ユウ君、どこにいるの……」
皆が悲しみに暮れる中、なのははポツリと呟いた。
「――――ワン!」
(……うるせぇ)
耳に届くやかましい声に不快感を覚えるが、その後、暖かい、しかしザラザラしたものが頬に当たる。
(なんだよ一体……)
一体なんだと疑問に思いながらも、ユウはゆっくりと眼を開けていく。
だがそこには―――――
「…………」
「……ワフ?」
眼の前には、大きな蒼と白の毛並みの犬がいた。
「ぎぃやああああああああああああああああああああああああ!!?!??」
「なっ、なんや!? 何事や!!」
あまりの出来事に悲鳴を上げるユウ。
そして近くから聞き覚えのある声が聞こえた。
(あれ、この声どっかで……)
「……ユウ君?」
声のした方を向くと、そこには車椅子に乗った八神の姿が―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
無印編、これにて終了!