小説『魔法少女リリカルなのは 〜俺にできること〜』
作者:ASTERU()

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35. それぞれの想い









☆☆☆はやて SIDE☆☆☆




  ――――朝



  「……相変わらず早起きやな、ユウ君」



 いつものように下の階から微かに漂ってくる美味しそうなお味噌汁の香り。
 私は目が覚めてからユウ君が大きな声で呼ぶまでの間、ずっとこうしている。
 最初の頃は自分も手伝うと言っていたのだが、
 ユウ君は『俺の仕事を盗る気か』と言って台所に立たせてくれない。


 最初は申し訳ないという気持ちがあったが今は違う。
 目が覚めた時、今までの幸せな時間が実は幻なのではないかと思う時がある。
 実は私に家族が出来たなんていうのは夢なのではないかと。


 そう思ってしまうことが、これまで何度もあった。
 その度に不安になって、布団の中で震えてしまって。
 確かめに行けばいいのに、本当に居なかったらと思うと怖くて―――


 でも、ユウ君が作ってくれる料理の匂いを嗅ぐたびに安心する。
 夢ではなかったんだって、私には家族がいるんだって。
 だから、今この時間が、私にとって最も幸せな時間の一つになっている。
 でも―――――



  「昨日のユウ君、様子がおかしかった……」



 ユウ君が帰ってきたとき、彼が手に包帯を巻いていたことに驚いてどうしたんだと聞いたが、
 彼はそのまま黙って部屋に籠ってしまった。


 一緒に帰ってきた他のみんなに理由を聞いてみたが、返ってきたのは曖昧な答えだけ。
 彼になにかあったということは、みんなの顔を見たらすぐにわかった。
 特にヴィータなんかは泣きそうな顔をしていたから……。
 ユウ君の手の怪我と何か関係あるんじゃないかと思って問い詰めようとしたが、
 そんなことはできなかった。


 聞こうとした時、すれ違った時に見たユウ君の顔を思い出してしまったから。
 何かに必死に耐えているかのような顔を見てしまって。
 事情を知ってしまえば、彼が居なくなってしまうような気がして……



  「メシだぞ〜! みんな起きろ〜!」



 ユウ君の呼ぶ声。
 私は車椅子に乗って部屋を出た。
 リビングでは、いつもと同じように机に料理を並べている彼の姿。



  「よぉはやて。 おはようさん」


  「……おはようユウ君」



 普段と変わらないように見えるユウ君からの挨拶。
 でも私は、ユウ君の表情を見たとき一瞬固まってしまった。
 彼の顔に浮かんでいるのは笑顔。
 でも、今のユウ君の表情は、昔の自分を見ているような気がして――――





★ ★ ★ ★ ★ ★



















  「あの馬鹿はなにをやってるんだ……」



 昨夜の戦闘の映像を見ながら、クロノはそう呟いた。
 ここ最近頻発している魔導師襲撃事件。
 管理局の方でも調査は進めていたが、
 まさか知り合いが巻き込まれるとはクロノ自身思いもしなかったのだろう。
 しかも、襲った連中の一人が自分の友達だとは―――



  「……ユウ、これ以上罪を重ねないでくれ……」



 無意識のうちにそう口から洩れてしまう。
 


  ――――ジュエルシード事件 



 かつてプレシア達が起こしたジュエルシードをめぐる事件。
 フェイトとアルフは無罪。 
 プレシアとリニスも少しの間だけ保護観察を受けることになりそうだが、
 ほとんど無罪と言ってもいいだろう。
 過去に起こったヒュードラ事件で関わっていた管理局の上層部は、
 ユウが渡してくれたデータによって全員逮捕された。
 あれのおかげで、クロノは管理局の闇の部分を改めて認識することが出来た。



  「…………」



 しかし、クロノは納得していない。
 なぜユウが罪に問われなければいけないのか。
 なぜ人の命を救ったユウが、なぜ――――



  『クロノ君、なのはちゃん達が目を覚ましたよ。 後、艦長室に集まるようにって』


  「わかった。 すぐ行く」



 エイミィからの通信。
 どうやらなのは達が目を覚ましたようだ。
 長いこと座っていたので体が凝り固まっている。
 重い腰をあげながら、ゆっくりと艦長室に向かった。



















 艦長室には重い空気が漂っていた。
 エイミィはこの空気をどうにかしようといろいろ模索していたが全て空振り。
 助けを求めてクロノの方を向いたが、彼も険しい表情をしている。



  「……みんな、体の方は大丈夫?」


  「あたしは大丈夫だよ。 でも――――」



 リンディの問いかけに、アルフは大丈夫だと言う。
 しかし、彼女はなのはとフェイトの方を向いて、再び黙りこんでしまう。



  「「…………」」



 二人は俯いたまま黙り込んでいる。
 彼女たちの心に浮かんでいるのは戦いに負けたことに対する悔しさではない。
 


  ――――拒絶



 会いたいと、ただそれだけを望んでいた相手からの正面からの拒絶。
 そのことが彼女たちの心の重く圧し掛かっている。



  「ねぇ、クロノ。 ユーノはどうしたんだい?」


  「病み上がりで悪いんだけど、彼にはちょっと調べてほしいことがあってね」


  「調べてほしいこと?」


  「今からそれについて話すよ。 エイミィ」


  「わかったよ」



 そう言ってクロノは、エイミィに指示を出し、メインモニターに昨夜の事件の映像を映し出した。
 これはレイジングハートとバルディッシュが記録したもの。
 壊滅的なダメージを受けた二基だが、なんとかコアの方は無事で、今は技術部の方で修理を受けている。


 今映し出されているのは、なのはを襲撃した紅い少女。
 名前はどうやらヴィータと言うらしい。



  「なのは。 君はこの子に面識はあるのかい」


  「……ううん。 私は知らない。
  昨日もいきなり攻撃してきて……」


 
 なのはの方には心当たりはない。
 いつも通り家に居たら、急に結界張られ、そのまま襲い掛かってきたのだ。



  「彼女が使っているのは、ベルカ式の魔法だ」


  「ベルカ式?」



 アルフが聞き覚えのない単語に首を傾げている。



  「ミッド式とは異なる魔術体系だよ。
  汎用性に優れたミッド式と違って、対人戦闘に特化した、
  ロングレンジでの攻撃をある程度度外視してるんだ。
  最大の特徴はカートリッジシステムを搭載していることだね」


  「カートリッジシステム?」


  「予め溜めこんでおいた魔力を使って瞬間的に魔力を高める方法だよ。
  それによって一時的に魔法の威力なんかを底上げするんだ」


  「……なるほどね。 だからあたし達とは術式が違っていたんだね」



 ミッド式の術式が四角なのに対して、ベルカ式は三角という違いがある。
 アルフも昨日感じた違和感の正体を知れて納得がいったようだ。
 そして再びモニターに視線を移す。



  『……爆ぜよ烈風。――――――ヴォルテックヒート』



 突如乱入してきた紅い少女の仲間達。
 そして、その中にはユウの姿も―――
 


  『……知らねぇよ、あんな奴』



 彼の口から紡がれる、拒絶の言葉。
 それを再び聞いたフェイトは、拳を握りしめて震えてしまう。
 そんな様子を、アルフは心配そうに見つめていた。



  「なんだってユウの奴、あんなことを――――っ!」


  「彼にも何らかの事情があるようだ。 なにかはわからないが……」



 アルフの怒り。
 アルフはフェイトが、ユウにどれだけ会いたがっていたかを知っていた。
 そして、毎晩彼に泣きながら謝っていたことも―――
 だから、ユウの口から放たれた言葉に納得がいかなかったのだ。


 映像でユウは“オーバーリミッツ”を発動。
 圧倒的なスピードでなのは達を次々に撃墜していく。



  「ユウのこのオーラみたいなものだが、どうやら“オーバーリミッツ”と言うらしい。
  プレシアさんの時は破壊力を、今回はスピードをマナで極限にまで高めたみたいだ」



 クロノはリンディから“マナ”の存在は聞いている。
 初めは信じられなかったが、彼の魔法を見て納得がいった。
 複数の属性の攻撃に素早い術式の展開。
 どれも今まで自分が見たことのないものだったのだから―――


 なのは達が撃墜され、再び場に沈黙が訪れる。
 彼からの攻撃は、体だけでなく心まで傷つけるものだった。
 しかし――――



  『―――――っ!!!」』



 ユウが突如行った謎の行動。
 皆が茫然と見つめる中、彼は自身の気持ちを吐き出した。



  『頼むから……このままにしといてくれねぇか。
  あいつの前ではちゃんと包帯でもなんでもするから、だから……頼むから……』


  「「「…………」」」



 なのは達は信じられずにいた。
 ユウに拒絶されたと思っていた。
 しかし、彼の口から放たれた言葉によって、
 彼がなにを考えているのかがより一層分からなくなってしまった。



  「……ユウは迷っている。 そして恐らく、他の者達も……」



 ユウがなのは達に治癒魔法を施し、そのまま帰っていく。
 映像はそこで途切れてしまった。
 部屋に沈黙が訪れるが、先ほどとは違い、それは戸惑いの色が強い。
 やがてクロノがゆっくりと語りだした。



  「今回の事件。 これは恐らく“闇の書”が関わっている。
  数あるロストロギアの中でも最悪の存在であろう、“呪われた魔導書”がね」









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