小説『魔法少女リリカルなのは 〜俺にできること〜』
作者:ASTERU()

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49. 託された意思









 ―――あいつを助けられるって、そう思った。



 俺の中の記憶にすぎないかもしれない。 
 だけど、それでもいいと思った。
 サクヤと一緒にいられるなら、それだけでも十分すぎるほどの幸せ。
 でも、サクヤの口から放たれたのは、拒絶の言葉―――



  「どうして……」



 サクヤから放たれた言葉を聞き、茫然としながら、無意識のうちにそう呟く。
 今言ったことが、信じられなくて―――



  「なんで……なんでなんだよ……」



 どうしてそんなことを言うのか、全く理解できなくて―――



  「コイツを使えば……お前をこっから出すことができるのに。
  救うことができるのに……、なんでッ!!」



 ユウはそう問わずには、叫ばずにはいられなかった。
 でもサクヤは、彼の眼をまっすぐ見詰めたまま、一緒に行けない訳を語りだした。



  「……私はこのままでいいんです。 私はもう、死んでますから……
  それよりも生きている人に、その剣を必要としている人に使ってください」



 語りだした内容は、到底理解できるものではなかった。
 自分は助かることができるというのに、それを他人のために使えと―――



  「ふざけんなよッッ!!!」



 それを聞いたユウは、怒りと悲しみに満たされた表情で、怒声をあげる。



  「なんでお前はいつもそうなんだよ!!
  いつもいつも自分を犠牲にして、自分を蔑ろにして、誰かに尽くして……
  なんで、こんなときでもお前は……」



 その声は、怒りを向けているように見えて、でも、泣いているかのようで―――



  「あの時も……お前は、自分の命を犠牲にして、俺を……」



 俯きながら、悔しそうに、悲しそうに、それらの言葉を絞り出すようにして。



  「――――頼む……言ってくれ」


 
 そのまま状態で、ユウはポツリと声を洩らす。



  「俺はお前のためなら、全部捨てたっていい」



 それは、自身の願い。
 そして、彼女に対する懇願。



  「お前がいてくれるなら、他には何もいらないから……」



 自分の全てを捨てても、これ以上、もうなにも望まないから―――



  「だから……お願いだから……、言ってくれ」


 
 そこまでのことをしてでも、ユウは―――



  「生きたいって、ここから出たいって、……消えたくないって」



 彼女と、サクヤと一緒にいたいから



  「頼む! 消えたくないって、言ってくれ!! ――――サクヤッ!!!」



  「――――ッ!!?」



 涙を流しながら、それでも、叫ぶように懇願するユウ。
 彼の言葉を聞いて、一瞬顔に迷いが走るが、それでもサクヤは―――



  「……その剣は、誰かを救うためのモノです。
  私ではない、その剣を本当に必要としている、誰かに……」



 誰かのために、自分ではない誰かに手を差し伸べる。
 救いの手を、救いを求めている者に。
 それが、彼女の信念だから―――



  「――――サクヤッ!!!」



 突如光り始めるサクヤ。
 その体が、徐々に光の粒子へとかわっていく。



  「……もう、時間みたいです。 ヤミちゃんの力が、薄れ始めている……」


  
 闇の書の暴走が、世界の崩壊が近づきつつあるようだ。
 時間がない。 それでも―――



  「……イヤだッ……消えんなよ、サクヤ!!!」



 剣をサクヤに近づける。
 この剣を使うための条件。
 それは、相手の了承。
 彼女さえ願ってくれれば、直ぐにでも―――



  「またお前を失えっていうのかよ!! もうイヤなんだよ!! もう誰も失いたくないんだよ!!」


 
 涙で視界がぼやけてします。
 今のユウの顔には、いつもの余裕はない。
 年相応の少年の顔。
 ただただ涙を流しながら――――



  「――――ユウ……」



 サクヤは静かに、そしてゆっくりと、彼を包み込むようにして抱きしめる。
 彼女の手は、彼の体をすり抜けてしまう。
 それでも彼女は、強く……強く……



  「ごめんなさい……せっかくユウが、私のために泣いてくれてるのに……。
  不謹慎かもしれないのに……凄く嬉しいのに……。 
  でも、それでも……私は、ユウとは笑ってお別れしたいんです」


  「なんで……こんな時に、笑えるわけねぇよ……」



 剣を地面に落しながら、彼女を抱きしめ返そうとする。
 でも、その手は彼女に触れることはできなくて―――



  「……ユウの力は、みんなを幸せにするためのものです」



 抱きしめていた手を離しながら、彼の顔が見えるように距離をとる。
 彼女は笑っていた。
 でも、瞳は涙でいっぱいで、それが幾つも頬を伝っていた。



  「そんなこと……俺にできるわけ……」



 自分は守れなかった。
 本当に守りたいモノさえも。
 だからユウは、自分を否定してしまう。
 しかし―――


 
  「大丈夫です、ユウならできます。 私は、ユウを信じていますから」



 彼女はそう断言する。
 その瞳には、一切の不安も疑いも存在しない。
 あるのは、ユウに対する、自分の想いが間違っていないことへの確信。



  「だから、そんな悲しそうな顔しないでください。 ユウには笑ってほしいんです。 だって――――」



 彼女は一度言葉を切ると、ユウをじっと見つめる。
 そして徐々に彼の顔を、愛おしそうに見つめる。



  「だって、ユウが笑ってくれることが、私にとっての幸せなんですから」



 そして、再び笑った。
 サクヤの涙はもう、止まらない。
 それは、ユウも同じで―――



  「――――ッ……サクヤッ……!」



 そう言って、ユウは俯いてしまう。
 でも、顔をあげた彼は、笑っていた。
 それはぎこちない、とても笑顔とは呼べるようなものではないが、それでも、ユウは笑っていた。


 サクヤの体は、もう下半身は完全に消えていて、それは胸まで達しようとしている。
 もうじき消えてしまう。
 それでも、お互いに笑いあっていた。
 ついに光は首まで達しようとする。
 そしてサクヤは、口にした。


 それは、別れ際に見せた、彼女の素直な気持ち。
 あの時は伝えることが出来なかった、サクヤがユウに抱いていた、一途で、純粋で、綺麗な――――













  「好きです……大好きです」














 “愛の言葉”――――。


 そして、彼女は消えてしまった。 
 残されたのは、彼女が消えた場所に僅かに残る、光の残滓。



  「……ぁ……ぁあ……ああ……」



 それを必死に握りしめようとする。 
 でも、どれだけ握りしめても、指の間から洩れでてしまって―――



  「サ……ク……ヤ……――――ッ!」



 抱きしめるようにしてそれを抱えながら、大事そうにしながら。
 それがまるで、宝物であるかのように―――







  「サクヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」







 ユウの声が、想いが、僅かに輝く闇の中で木霊した。


 いつまでも……どこまでも―――。









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