小説『魔法少女リリカルなのは 〜俺にできること〜』
作者:ASTERU()

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54. 全員集合









 なのはとフェイトの働きによって、防衛プログラムはその姿を消した。
 その様子を眺め、とりあえず安心する二人。


 
  「なのは!!」


  「フェイト!!」



 二人の名前を呼ぶ声。 
 振り返った先に居たのは、自分達の友達を相棒の二人だ。
 アリサとすずかを安全なところに避難したした後、急いでこちらに向かっていたのだ。



  「闇の書は?」


  「私の砲撃があった後、急に姿が見えなくなったの」



 辺り一帯は不気味なほど静まり返っている。
 まるで何かの前触れであるかのように……



  ―――――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!



 突如、地の底から直接響くような地響きが聞こえてくる。
 それはまるで、地球全体が震えているのではと錯覚するような感覚。



  『みんな気をつけて! 闇の書の反応、まだ終わってないよ!!』



 エイミィからの通信を聞き、警戒心を高めるなのは達。
 変化は突然現れた。


 海上に出現した、闇色の巨大な半球体。
 その周りには足や触手といった、様々な生物の体の一部が、まるで海から生えるようにして蠢いている。
 だが、それだけではないのだ。
 宙に浮かぶようにして存在する、光の繭。
 それは、闇色のそれとは対照的な、真っ白な光。


 そして、それを取り囲む四つの光。
 紫・赤・緑・白。 
 それぞれに見覚えのある、とある人物達の魔力光。



 ―――――ドンッ!!!



 海を、そして天を貫く一条の光。 
 あまりの眩しさに眼を閉じてしまう。
 そして光が止んだ先に居たのは、純白のベルカ式の魔法陣と自分達の見知った人たちの姿。



  「ヴィータちゃん!!」


  「シグナムッ!?」



 かつて戦った者達の登場に驚きと喜びの声をあげるなのは達。
 消えたと思っていた存在との再会。 
 嬉しくないはずがないのだ。



  「――――我等、夜天の主の下に集いし騎士」



 それは、かつて闇の書が起動した際に述べた、誓いの言葉。



  「――――主ある限り、我等の魂尽きる事無し」


 
 闇の書の主を守護する、自分達守護騎士が主の前に姿を現す際に毎回述べていた。
 それこそまるで機械の様に、ただ自分達に与えられた役割を果たすために……



  「――――この身に命ある限り、我等は御身の下にあり」



 だが、今度は違う。 
 自分達は思い出したのだ、かつての自分達の姿を。
 夜天の書という、本当の名前を。



  「――――我等が主、夜天の王……八神はやての名の下に」



 だから、自分達はもう一度ここで誓う。
 もう与えられた役割をただ果たすのではない。
 自分達の意思で、はやてを守ることを、今ここに……。


 変化はまだ続く。
 騎士達の誓いに答えるかの様に、より一層輝きを放つ光。



  「……リインフォース、私の杖と甲冑を」


  「はい……」



 ―――――パリンッ!



 ガラスが砕けるような音と共に姿を現したのは、
 剣十字の杖を片手に掲げ、魔導書を携えた、夜天の主・八神はやて。



  「夜天の光よ、我が手に集え! 祝福の風・リーンフォース!! セットアップ!!!」



 剣十字を掲げ、己のうちに宿るもう一つの家族に呼びかける。
 展開されたのは、背中に黒い翼を生やして、堕天使をモチーフにしたバリアジャケット。
 しかし防衛プログラムが纏っていた禍々しいモノとは違い、どこか神聖なモノを感じる。


 そしてもう一つの変化。
 “ユニゾンデバイス”リインフォースと融合したことによって現れた変化。
 茶色だったはやての髪が亜麻色へと変色し、瞳も黒みがかった蒼から水色へと変色している。



  「はやて……」


  「……すいません」


  「あの……はやてちゃん、私達……」


  「…………」



 はやてを見つめる守護騎士達。 
 その顔をに浮かんでいるのは申し訳なさ。 
 自分達がしっかりしていなかったために、
 はやてに迷惑をかけてしまったことに対する罪悪感が彼女達からは感じられた。



  「ええよ、みんな。 ……リインフォースが教えてくれたんや。
  だから細かいことは後や」



 しかし、そんなことを気にするはやてではない。
 そんなことはもうどうでも良かったのだ。
 それよりも今は―――



  「……お帰り、みんな」



 ――――守護騎士に、家族のみんなに会えた喜びの方が大きいのだから。



  「――――はやて……ッ!!」



 泣きながらはやてに抱きつくヴィータ。
 もう離さないと言わんばかりに強く……そして、愛おしく……
 それを静かに見守る騎士達。 
 大切に包み込むはやて。


 
  「……なのはちゃんとフェイトちゃんもごめんな。 家の子達が色々迷惑かけてもうて……」


  「ううん……」


  「平気……」



 こちらに近付いてくるなのはとフェイトに謝罪するはやて。
 なのはもフェイトもそんなことは気にしていないようで、微笑みながらはやて達を見守っていた。
 しかし、いつまでもこうしているワケにはいかないのだ。



  「……水を差すようで悪いんだが、時空管理局執務官のクロノ・ハラオウンだ。 
  時間がないから簡潔に説明する」


  「この空気の中話しかけられるお前のこと、俺は心から尊敬するよ」


  「……うるさい」


  「はは……」


  「呑気なもんだね〜」


 
 はやて達に声をかける少年の声。
 皆が声の方に視線を向けると、そこには三人の少年と一人の女性の姿が。


 一人は先程声をかけてきたクロノ、そしてその隣で苦笑しているユーノ、
 それらを見守っているアルフ。
 ここまではいい、なにも問題はない。
 問題は次だ。


 クロノの方を向きながら呆れたような表情をしている自分達の見知った少年。
 全身を黒で覆い尽くした、ボロボロになった漆黒のバリアジャケット、
 腰に純白の刀を下げた彼は、何事もなかったかのように皆の前に現れた。



  「「「「「「坂上 / ユウ(君)!!!」」」」」」



 突然の登場に驚くなのは達。
 守護騎士達は、夜天の書から得た情報でユウが生きていたことは知っていたが、
 実際に自分の眼で見るまでは信じられないでいたのだ。



  「ユウ君どこ行っとったん? 私と一緒に出たはずやけど……」


  「感動の再会を邪魔しちゃ悪いと思ってな、こっそり隠れてたんだよ。
  それよりお前等、クロノの話しをちゃんと聞けよ。 結構重要なコトだからな」



 ユウの言葉に一同は気持ちを切り替えクロノへと視線を集中させる。
 それを確認したクロノは話を進め出した。



  「海上に発生している黒い淀み、闇の書の防衛プログラムがあと数分で暴走を開始する。
  僕等は何らかの方法でそれを止めなくちゃいけない」



 そう、まだ終わりではない。 
 夜天の書が闇の書へと変貌するきっかけとなった
 闇の書の闇と言うべき暴走部分、防衛プログラムが残っているのだから……



  「停止させる方法は、今のところ二つだ」



 一つはグレアムが予てから計画していた方法。
 “デュランダル”を用いて極めて強力な氷結魔法で停止させるというモノ。
 もう一つは、軌道上に待機させてあるアースラが搭載させている
 魔導砲“アルカンシェル”で消滅させるという、この二つだ。


 自分が考えていた計画の全てを話し終えたクロノは皆の反応を待つ。
 正直この計画には幾つかの穴が存在しているため、出来れば実行したくないのだ。
 


  「……最初のは多分難しいと思います。 主のいない防衛プログラムは魔力の塊みたいなモノですから」


  「凍結させても、コアがある限り再生機能は止まらん」



 そう、グレアムが計画していたモノはあくまでその場しのぎにしか過ぎないのだ。
 クロノが指摘したように、例え凍結が成功し。
 それをどんな所に隠そうとも誰かがそれを利用しようとするという可能性もあるのだから……



  「アルカンシェルも絶対にダメ!! そんなことしたらはやての家まで吹っ飛んじゃうじゃんか!!」



 二つ目の方法である、アルカンシェルを用いての消滅。
 しかしアルカンシェルは恐ろしいまでの威力を秘めた文字通り兵器でもある。
 発動地点から数百キロを消滅させるという、聞いただけでも冷や汗がでるような代物だ。
 これを聞いたみんなはアルカンシェルの使用を断固反対した。



  『暴走臨界点まで時間がないよ!』



 しかし時間がない。 
 エイミィからの報告の通り、このままでは防衛プログラムが完全に暴走し、
 アルカンシェルを放つよりも遥かに大きな被害が出てしまうのだ。


 他に手立てはないものかと必死に考える一同。
 しかし、ここで思わぬ声が。



  「ああぁ、もう、ゴチャゴチャと鬱陶しい!!
  みんなでズバッとぶっ飛ばすワケにはいかないのかい!!」



 考えることが苦手なのか、アルフがイライラしながら聞いてきた。
 確かにアルフの言っていたことが実行できればそれが一番いい。
 みんなもそれは分かっているのだ。 
 しかしここではそれは不可能。
 そう思われていたが―――



  「……ズバッとぶっ飛ばす」


  「ここでは被害が大きいから撃てへん……」


  「でも……ここじゃなければ……」


  「――――……ナイスだ! なのは、フェイト、はやて!!」



 なのは達の呟きを聞いていたユウが笑いながらそう言った。
 お礼を言われた三人は何の事だか分からずに首を傾げていたが、
 徐々にユウが言いたいことがなんなのか理解した。



  「クロノッ! 上げるぞ、どでかい花火をな!!」


  「花火……、そうか!」



 クロノもユウの言いたいことを理解したのか急でエイミィに通信を入れた。
 ユウが考えた方法。 
 それは防衛プログラムを空高く、アースラが待機している宇宙空間まで転移させ、
 そこでアルカンシェルをぶっ放すというモノ。
 発想自体は出鱈目、しかし、やる価値はある。


 リンディ達アースラからきた返事は、やっちまえとのGOサイン。
 みんな腹を括ったようだ。



  「……実に個人の能力だよりな作戦だが、やってみる価値はあるだろう」



 防衛プログラムを守護しているのは、魔力と物理の複合四層式の障壁。
 それを突破したのち、本体に向けて一斉攻撃。
 コアが露出した隙に、アルフ、ユーノ、シャマルが転移魔法を発動させ、
 アースラのところまでコアを転移。
 その後アルカンシェルで防衛プログラムを完全消滅。
 実に無茶苦茶な計画だが、実現可能というのが恐ろしい。



  「そんじゃま、行くとしますかね!」


  「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」


 
 これから行われる戦いにむけて気合を入れ直しすユウ。
 しかし、他のみんなはユウに対して呆れたような視線を向ける。



  「……どうしたんだお前等?」


  「ユウ。 今回の作戦、君は待機していろ」


  「……はい?」



 皆を代表してクロノが言った言葉を聞いたユウは、その場に固まってしまった。









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