小説『魔法少女リリカルなのは 〜俺にできること〜』
作者:ASTERU()

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59. 選択









 ユウから告げられた、突然の提案。
 それはリインフォースが消えなくていいかもしれないというモノ。
 


  「そんなこと、出来るわけ……」



 ユウを見つめ、絞り出すようにして呟くリインフォース。
 いくら探しても見つからなかった、消えなくてもいいという選択肢。
 それが今、眼の前に存在することに対して信じられない気持ちでいる。



  「出来るんだよ。 この剣“ソーディアン・ベルセリオス”ならな」


  「ソーディアン……ベルセリオス……」



 ユウの持つ剣“ソーディアン・ベルセリオス”を見つめる。
 それは、とても自分が助かる様な代物には見えない、とても禍々しいモノ。
 まるでかつての闇の書であるかのようだった。



  「こいつには幾つかの能力が存在する。
  その中の一つに、対象の人格を移植するって能力があるんだよ」



 直後、“ソーディアン・ベルセリオス”の鍔部分に存在するシャッターが開き、
 そこから円形の透明なレンズが姿を現す。



  「このコアクリスタルにお前の人格だけを移植すれば、消えなくて済む。
  それに、移植後もちゃんと意思疎通は可能だ。
  要するに、リインフォースがデバイスになるみたいなもんだな」


  「……なら、リインフォースは消えんでええんやな!!」



 リインフォースが消えなくて済む。 
 そのことを聞いたみんなは喜びを露わにし、なのはとフェイトは中断していた儀式を取り止める。
 しかし、ユウの表情は今だ険しいまま。



  「……お前等、なんか勘違いしてねぇか?」


  「……どういうこと?」



 はやてが不思議そうな顔をしながらユウの言葉の意味を尋ねた。
 リインフォースが助かる、それはとても素晴らしいことなのに、
 どうしてユウはこんな表情をしているのかと、疑問に思いながら……。



  「このままリインフォースが消えずに済めば、まさにハッピーエンド。
  お前らは幸せに暮らせるだろうな。 でも、本当にそれでいいのか?」



 淡々と語りだすユウの表情には感情はない。
 まさに無表情といっていい。
 ただ自分の考えた、思い至ってしまった可能性を彼女たちに提示するだけ。



  「このことを知った闇の書の被害者の連中は思うはずだ。
  “自分たちはこんなに酷い目にあったのに、
  なんで加害者であるあいつ等はのうのうと幸せに暮らしてるんだ”ってな」


  「「「「「「ッ!!?」」」」」」



 ユウの言葉にはやてと守護騎士、そしてリインフォースは絶句する。
 その顔に浮かんでいるのは激しい罪悪感。 
 先ほどまでの喜びの感情はもうどこにも存在してしなかった。


 ユウが示したそれは、あくまでも推測にすぎない。 
 だがはやては、そして守護騎士達は知っているから。
 ユウの偽物の死体を見たときに感じた感情を……。
 それは絶望、憎悪、といった負の感情。


 そういった感情を、闇の書の被害者たちは自分達に抱いているのだ。
 大切なモノを奪った、被害者達にとってはまさに悪魔のような存在である自分たちに。



  「このままリインフォース消えさえすれば、そいつ等はそういった感情はあまり抱かないだろうな。 
  だからお前は、被害者たちにとっての“見せしめ”みたいなもんだ。 
  そうすればはやて達に対する周囲からの風当たりも少しは良くなる」



 リインフォースが消えれば、そういったメリットも存在する。
 被害者たちの怒りの感情や復讐心を抑えたりできるかもしれない。
 それはまさに人柱、生贄……



  「……もう一回言うぞ、リインフォース。 
  被害者のために消えて楽になるか、それともはやて達のために生きるか。
  どっちを選んでも、待ってるのは地獄かもしれねぇ……。
  だから選べ。 お前が選びたい道を、お前自身の意思でな」


  「わ……私は……」



 再びユウから迫られた選択。 
 このまま消えるか、生きるか。
 リインフォースはどうすればよいのか分からずにいた。


 自分が消えれば、今まで犯してきた罪が少しでも軽くなるかもしれない。
 はやてにかかる負担を減らすことが出来るかもしれない……。


 逆に生き残っても、自分に幸せになる資格なんてない。
 あれだけたくさんのモノを奪ってきた自分なんかが
 幸せになんかなっていいはずがないんだと……。



  「リインフォース」



 沈黙を破ったのは、いつの間にかリインフォースに近づいていたはやて。
 声をかけた後も、顔を俯けてしばらくじっとしていたが、
 やがて顔をあげ、真っ直ぐにリインフォースを見つめる。


 
  「……私な、自分が怨まれとるなんてちっとも知らんかった。
  夜天の書の主になるいうことが、こんなに辛いことになるとは思わへんかったんや」


  「……すいません…私のせいで―――」


  「でもな……」



 まだ幼いはやてに、こんな子供に背負いきれないような重荷を負わせてしまったことを
 申し訳なく思いながら、でもどうすることも出来ず謝ろうとするリインフォース。
 だがはやては、その声を遮る。



  「私は言うたはずや。 一緒に頑張ろうって、二人なら……みんなとならできるって……」


  「主……」



 それは闇の書の中でかわした約束。
 自分の弱さを認めたはやてがリインフォースに言った言葉。
 はやてだけでは無理、リインフォースだけでも無理。 
 それなら、二人ならできるんだと。



  「私が考えてるよりも、消えずに罪を償うんは遥かに辛いかもしれへん。
  それでも私は、リインフォースと一緒に居たい。 家族と居たいんや。 
  傲慢かもしれへんけど、迷惑掛けた人達は怒るかもしれへんけど、それでも……私は……」



 どんなことを言われても、どれだけ重いモノを背負っても、絶対に失いたくないモノ。
 はやてにとって、それはリインフォースであり、ここに居るみんな。
 自分に勇気を与えてくれた、信じる強さを教えてくれた……、
 孤独だった自分を変えてくれた、そんな大事な人達。



  「……俺がさっきまで言ったことは、被害者の連中の考えだ。
  結果だけ見た、事件を断片的にしか知らない奴等のな」



 ユウが纏っていた雰囲気が、そして眼差しが変わった。
 険しかった雰囲気と瞳が鳴りを潜め、ユウの顔を浮かぶのは穏やかな表情。



  「今回シグナム達がはやてとの約束を破って蒐集行為をしたのはなんでだ?
  今までは命令に背くことなんてなかったのに。
  なんではやては助かったと思う? 歴代の闇の書の主は全員死んだってのに」


  「…………」



 ユウからの質問。
 それを聞いたリインフォースは答えられずにいた。
 自分自身、ソレが良く分かっていない。 
 みんなで力を合わせたから……、そんなことはかつてあった。
 運が良かった、それもあるが答えではない気がする。



  「はぁぁぁ……、そんなこともわかんねぇのか、リインフォース」


  「す、すまない、なかなかしっくりくるモノがなくて……」



 呆れたような視線をリインフォースに向けるが、
 本人はいくら考えても答えが分からないのか、頻りに首を傾げている。



  「今までお前等になかったモノを、はやてがくれたからだろ」


  「無かったモノ?」



 自分達にないモノ、それが何なのか。
 やはりどれだけ考えても思いつかない。
 一体何が自分達を変えたのか、改めて考えてみたが、不思議で仕方がないようだ。



  「……“心”だよ」


  「ぁ……」



 守護騎士達がはやてとの約束を破ったのは、彼女を救いたいと思ったから。
 リインフォースが戦いの最中に涙を流したのは、
 はやてを失いたくないと思ったから。


 彼女達はデータに過ぎないかもしれない。 
 それでも生まれた偶然の産物、“心”。
 生きている者なら誰もが持っているだろう、かつての自分達にはなかったモノ。



  「俺はさっきお前に言ったよな。 この先で待っているのは地獄かもしれねぇって。
  でもな、リインフォース……」



 データが持つはずのない“願い”。
 はやてと、守護騎士達と一緒に居たいという願望。



  「はやて達と一緒に居るだけで……それだけで充分、お前は幸せなんじゃねぇのか?」


  「!!!」



 それはまさに、自分にとっての幸福。
 それさえ出来れば、自分は世界で一番幸福な魔導書になれるんだと……


 自分は幸せになる資格はないのかもしれない。 
 それでも、この幸せだけは手放したくなかった。
 どんなことがあろうとも、絶対に……



  「受け取れ、はやて」


 
 はやてに向き合いながら、“ソーディアン・ベルセリオス”を手渡す。
 握った時の感触に驚きながらも、その剣をじっと見つめる。
 これを使えばリインフォースを救える。
 後必要なのは、彼女の了承だけ。



  「……主はやて、私は……――――」



 そしてリインフォースは答えを出す。
 自分で考え、自分で導き出した答えを、今ここで……。









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