小説『魔法少女リリカルなのは 〜俺にできること〜』
作者:ASTERU()

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97. スタート









 あれからしばらく経った後、その場は一旦解散となった。

 皆本音を言えば、ユウやホタルともっと一緒にいたいと思っていたが、
 それぞれすべきことはたくさんあるのだ。
 何時までも仲良く談笑というワケにはいかない。
 はやてから指示を飛ばされ、皆は後ろ髪を引かれる想いでその場を後にし、
 残されたのはユウとホタル、アインスのみ。
 
 アインスははやてから、二人に六課の中を案内するよう指示を受けていたため残っていた。
 ツヴァイも一緒に残すべきか迷ったのだが如何せん、
 彼女はユウのことをかなり警戒しているためこの役目は任せられない。

 案内の最中、この十年間で皆がどのような道に進んだのか、機動六課がどのような存在なのかを説明。
 その後、二人を空室に案内したアインスは周囲を警戒しながら簡単な結界を張った。
 アインスは先程答えられなかった自分やツヴァイの身体のことを話そうと思っていたのだが、
 リインフォース姉妹の情報は機密扱いのため、
 結界を張ったのは他の人間に知られることを恐れての措置だ。
 本来なら一般人である二人の話せるような内容ではないのだが、二人には知る権利があるから。
 
 話を聞いた二人だが、やはり大して驚きはしなかった。
 そのことに若干拍子抜けしながらも、時間的にかなり遅かったためそのまま解散。
 ユウは所用があるとの事なのでホタルのことをアインスに任せ六課を後にした。

 この事を知った者たちがどのような反応をしたのかは語るまでもないだろう。
 最も、ユウと顔を会わせずに済むと知ってホッとした者も中にはいたが―――。


 そして一夜が明け、今日は機動六課の運用が始まる日。



  「とうとうこの日がやってきましたね、はやてちゃん!」

  「…………」



 場所は部隊長室。
 声の主は椅子に腰かけながら一方は声を弾ませ、もう一方は何処か上の空の様子だった。

 部隊長室は必要最低限の調度品と三つデスクが置かれている。
 コレだけなら全く問題はないのだが、注目すべき点は部隊長であるはやての横にある二つのデスク。

 はやての補佐を務めるリインフォース姉妹の身長は三十センチ。
 その二人のデスクとなると、必然的にサイズも小さくなるワケだが、
 そこにあったのはまさに職人技ともいうべきサイズのミニチュワデスクと椅子、照明等の調度品。
 デスクとセットで設置されている椅子に座りながらクルクル回っているツヴァイを見ていると、
 幼少時に遊んだお人形遊びを連想する者もいる筈だ。


 
  「――――はやてちゃんッ!!!」

  「どわぁ!?」



 上の空のはやての目の前に移動したツヴァイは腰に手を当てながら大声を発した。
 乙女にあるまじき奇声を発しながら飛び上がったはやては、
 椅子ごと後ろに倒れそうになるが慌てて体勢を立て直す。



  「昨日からどうしたんですか一体!!
  ボケ〜としたりニヤニヤしたり、今のはやてちゃんはダメダメです!!
  もうすぐ皆の前で挨拶するんですから、もっとシャキッとしてください!!」



 ツヴァイの言うように、はやては昨日からこの調子だ。
 やるべきことはやっているので今まで放置していたが、このままで良い筈がない。
 それに、ツヴァイが言っていたように、
 はやてはこれから六課の隊員やスタッフの前で挨拶を行わなければならないのだ。
 はやての補佐を務めている身としては、コレを無視することは出来ない。



  「ご、ゴメンな、リイン」

  「まったくもう! しっかりしてください!
  そう言えば……はやてちゃん! ユウさんのこと、本気なんですか?」
 
  「ユウ君の? ――あぁ、あのことな、私は本気やで」

  「でも、幾らなんでも急過ぎますよ! なんであの人が……」

  「あのな、リイン。 前情報だけで人を判断したらアカン。
  ちゃんと自分の眼で見て、そっから判断せな――――」

  「そのことについてなら問題なしです」



 はやての言葉を遮り、ツヴァイは胸を張りながら自信満々に語りだした。 


 
  「昨日のことで、リインはユウさんのこと、キチンと理解しましたから」

  「えっと……ちなみにどんな感じに?」



 何やら背筋に嫌なモノを感じたはやては恐る恐るといった感じで尋ねた。
 思いついた可能性を、頭の中で必死に否定しながら。



  「やっぱりあの人は意地悪さんです!! はやてちゃん達の言葉に偽りなしですッ!!」

  「…………」



 既に手遅れなくらい、ツヴァイの中でのユウの評価は最悪レベルだった。

 思えば、ツヴァイは生まれてから今まで、ユウのような人種には会ったことがない。
 異性の知り合いはクロノのように誠実な性格の者がほとんどであることが、
 ユウの悪い面をより顕著なモノにしているのだ。

 しかし、本気でユウのことを嫌っているのかと言われれば、実はそうではない。
 新人フォワードの面々との再会した時。
 それを見たツヴァイは、不覚にももらい泣きしてしまったのだ。
 
 はやて達が言うように、ユウの性格が悪いコトは明らかだ。
 しかし、不器用ながらも優しい一面も持っている。
 だから、ツヴァイはユウが良い人なのか悪い人なのかの判断が下せないでいた。
 口ではああ言っているが、要するに意地を張っているに過ぎないのだ。
 

 
  「……こりゃ早急に手を打たなアカンな」



 ソッポを向いているツヴァイの後ろ姿を見詰めらがら、はやては言葉を漏らした。
 それと同時に室内に入室許可を求めるブザーが鳴り響く。



  「はい、どうぞ!」

  「「失礼します」」



 横開きの自動ドアから中に入ってきたのは、何時もの教導官と執務官の服装ではなく、
 管理局の制服に身を包んだなのはとフェイト。
 

 
  「わぁ! お着替え終了やな!」

  「お二人とも良く似合って……?」

  

 普段は見ることのできない、二人の正装姿。
 しかし、ツヴァイの言葉は途中で途切れてしまった。
 はやても何かに気付いたように眉を顰め、心配そうに尋ねた。
 

  
  「あの……二人ともどうかしたんですか?」

  「「??」」

  「なのはちゃんもフェイトちゃんも眼が少し赤いで。 どうかしたん?」



 二人はハッとしたように、急いで手鏡を取り出して自分の顔を確認してみた。
 その後、慌て得たように手を振る。



  「ね、眠れなかったんだよ! ほら、今日から六課がスタートするから、ドキドキしすぎて!」

  「わ、私も!」

  「ドキドキって、小学生とちゃうんやから……。 まぁその気持ちは分からんでもないけどな」



 呆れたような顔をしながらも、内心別のことを考えるはやてだが、
 頭を振ってその考えを打ち消し二人に向き直る。
 


  「三人で同じ制服姿は中学生以来やね。
  でも、なのはちゃんは動きやすい教導隊制服でおる時間の方が長くなるかもしれへんけど……」

  「事務仕事とか公式の場ではこっちってことで」

  「ふふ、そうやね」

  「さて、それでは――――」



 フェイトの言葉に皆は姿勢を正した。



  「本日ただいまより、高町なのは一等空尉!」

  「フェイト・テスタロッサ執務官!」

  「両名とも、機動六課に出向となります!」

  「どうぞ、よろしくお願いします!」

  「はい、よろしくお願いします!」



 敬礼と同時に公式の場での挨拶を行うなのはとフェイト。 
 笑顔でお返しの言葉を述べると、つられる様にして二人も笑顔になっていく。
 
 和やかな雰囲気が部屋の中に漂う中、それを断ち切る様にして響く、ブザー音。



  「? どうぞ〜!」

  「失礼します! ……あぁ、高町一等空尉、テスタロッサ執務官!? ご無沙汰しています!」



 入室してきたのは、薄紫の髪に管理局の制服を身に纏った青年。
 なのはとフェイトのことを知っているようだが、二人は不思議そうな顔をしてしまう。
 だが、しばらくすると、自信なさそうに口を開いた。



  「え〜と……」

  「もしかして……グリフィス君?」

  「はい。 グリフィス・ロウランです」

  「わぁ、久しぶり!! て言うか凄い! 凄い成長してる!」

  「うん! 前見た時はこんな小っちゃかったのに!
  男の子ってホント、見ない間にすっごくおっきくなっちゃうんだね……」



 フェイトは自身の胸元ぐらいの高さで手を水平にしながら、
 懐かしむようにして眼の前の青年――グリフィスを見据えた。

 グリフィスの母親であるレティ・ロウランは
 クロノの母親であるリンディ・ハラオウンと同期の友人であり、
 なのはとフェイトは若い頃にレティ提督と何度か顔合わせをしたことがあり、その時に知り合ったのだ。



  「そ、その説は色々とお世話になりました」
 
 

 四人の女性の視線の集中砲火を浴びたグリフィスは少し怯んでしまう。



  「グリフィスも此処の部隊員なの?」

  「はい」

  「私の副官で、交代部隊の責任者や」

  「運営関係も、色々と手伝ってくれてるですぅ!」

  「お母さん……レティ提督はお元気?」

  「はい、おかげ様で……――――」



 久々の再開で会話に華を咲かせる一同。
 途中、グリフィスは何かを思い出したように顔を引き締め、はやてに視線を移した。



  「報告してもよろしいでしょうか?」

  「うん、どうぞ」



 はやてに促され、報告を行っていく。



  「フォワード四名を始め、機動六課部隊員とスタッフ。 全員揃いました。
  今はロビーに集合、待機させています。 ……それと……」



 今まで淀みなく動いたグリフィスの口が、そこで不意に止まってしまう。
 何処か不安そうな視線をはやてに向けるが、それに対してはやてが返したのは、笑顔と無言の肯定。



  「――リインフォース准空尉の方の準備も完了しました」

  「ご苦労さん、グリフィス君。 ほな皆、ロビーの方に行こうか」

  「あの、はやてちゃん。 リインフォースさんがどうかしたの?」



 グリフィスの言葉で初めて、此処にアインスの姿が見えないことを不思議に思う二人。
 最初は皆と同じようにロビーで待機しているのかと思っていたが、どうやら違うみたいだ。



  「秘密や」

  「「え……?」」

  「クロノ君の言葉を借りると、サプライズってとこやな。
  それが何なのかは見てのお楽しみってことで」



 ますます頭上に? マークを増やしていくなのはとフェイト。
 ニコニコしているはやての傍らで、ツヴァイとグリフィスは顔を見合せながら、
 盛大な溜息を零したのだった。
 


















 場所は変わり、此処は六課のロビー。
 そこには管理局の制服に身を包んだ部隊員、
 食事や掃除といった隊員たちの生活のサポートを行うエプロン姿のスタッフ。
 集団の中にはエリオ達新人フォワードの顔も見受けられた。
 顔ぶれはほとんどが若者で構成されているのは、管理局内では珍しい部隊だと言えるだろう。

 そして、皆が向いている正面、上座に位置する場所で待機しているのは各役職の責任者。
 今は一通りのオリエンテーションが終了し、部隊長であるはやてからのスピーチの真っ最中である。



  「――――……さて、あんまり長い挨拶は嫌われるんで、ここまでにしておきたいと思います。
  以上、ここまで。 機動六課課長及び部隊長、八神はやてでした!



 挨拶の終了と同時に鳴り響く拍手。

 表情を崩すはやてに釣られる様にして、ロビーの空気が落ち着いたモノに変わっていく。
 相変わらず上下関係に厳しい軍隊のような一面もある管理局らしくない光景であるが、
 ロビーにいる全員が、こうした和やかな雰囲気を望んでいる節があるので、
 結果的にはやての挨拶は成功したと言っていいだろう。



  「それと、皆さんに私から報告することがあります。 リインフォース空准尉、よろしくお願いします」



 はやての声を合図に入ってくるアインス。
 皆はツヴァイを見ていたためアインスを見てもあまり驚きはしなかったが、
 遅れて入ってきた一組の男女を見た瞬間、ロビー全体が俄かにざわめき出す。

 入ってきたのは、ラフな格好で片手に紐で吊るした純白の刀を持った長身の男。
 エリオやキャロと同じぐらいの背丈の、見慣れない何処かの民族衣装を纏った神秘的な雰囲気の少女。

 

  「紹介します。 こちらは民間からの協力者である坂上ユウさん。 隣にいるのがホタルさんです」



 普段とは違い、丁寧な口調でそう述べると後ろに下がった。


 
  「リインフォースも言ってたが、坂上ユウだ」

  「……ホタル、です。 ――よろしく」
 


 ユウは片手を上げながら気軽に、ホタルはペコリと頭を下げながら挨拶を行った。
 このような場でこれだけ普段通りに挨拶できるのは、ある意味凄いと言えよう。

 そんな二人の顔に向けられた、隊長陣やフォワードの面々からの驚愕の視線。
 親密な者同士は言葉を介さずとも気持ちが伝わると言うが、
 これほど分かりやすい視線も他にはないだろう。
 なんで!? と、言葉にせずとも顔に書いているのだから。

 満足顔で皆を見渡したはやては、ユウの隣に並ぶ。



  「二人は今日から部隊の一員としてやっていく仲間です。 皆からも仲良くしてあげてください。
  では、これにて解散! 各自、持ち場について下さい!」



 機動六課の運用開始宣言は、波乱に満ちたモノになるのだった。









◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


というワケで、ユウとホタル、六課加入。
次話から物語が少しずつ動いていきます。

グリフィスって、作者の中では爽やかなクロノってイメージがあるのですが、
イマイチ彼のキャラが掴めていないので、今後どう動かせば良いのか激しく不安。
作者としては原作尊重をモットーに掲げておりますので、いずれはグリフィスの見せ場も設ける予定。
サブキャラ扱いですが、そういう存在がいるからこそ物語の厚みが増すモノ。
登場キャラ全てを生かし切れるよう、張りきっていきたいと思います。

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