小説『さいごの声』
作者:たれみみ()

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 会社を辞めた。
 大学を卒業してから、十年間お世話になった会社だ。
 特に大きな貢献はできなかったけれど、特別に足を引っ張ったわけでもない。
 尊敬できる上司とも、気が置けない同期とも、可愛い後輩とも出会えた。
 だからこの十年間を後悔してはいない。
 だったら、なぜ辞めるのか?
 あえて言うならば、僕が少しだけ変わったから、そういうことだと思う。
 もう三十二歳。いまさら人生に劇的な変化を求めようとは思わない。
 だけど、まだ三十二歳。自分が生きている意味や生きる目的を、もう一度考え、少しだけ人生の軌道修正をするには、まだ遅すぎる年齢ではないだろう。
 僕にそう思わせてくれたのは、僕だけが聞くことができる声。いや、――僕だけに聞こえてしまう声だ。
 それを最初に耳にしたのは、小学二年生、七歳のときだった。

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