あぁ、俺はただ……ただ、平穏で静かな毎日を送りたいのに…
なんでこんなことに…
俺は途方に暮れていた。
俺は屋上の床に座り込み、頭を抱え、今の状況を嘆いていた。
なぜ、嘆いているか、それは…
「私と勝負しろっ! 星樹勘九郎!!」
俺の目の前に立っている人物が興味津々な眼差しで俺を見て、口元は笑みを浮かべ、
その豊かで立派な胸を自信満々に張った堂々とした姿で俺にそう告げた。
俺は途方にくれた顔で俺にそう告げた人物に視線を移し、タメ息をついた。
なぜ、俺がこんなリアクションをしているかというとその相手がこの学園いや…
世界でかなり有名な人物であったからだ。
『川神百代』
俺の通っている川神学園の一つ先輩で川神学園学長の川神鉄心の孫娘にして
全世界の武術の最高峰である川神院の次期総代。
強さで言えば学長にはまだ及ばないが世界の名立たる強者を倒し続け、
その功績から武道四天王の一角に名を連ねている。
そんな彼女が、なぜか俺に勝負を申し込んできた。
まぁ…理由は知ってるのだが……
俺の本音を言えばはっきり言って戦いたくない相手No.1である。
なぜ、彼女が俺にこういう事を言い出しかというとあるはた迷惑な不良爺さんのせいである。
コトの発端は、昨日の朝の全校集会まで遡る。
「えーこほん。皆も知っての通り、今日からこの学園で学ぶ仲間を紹介するぞ」
その日、俺たちの学園に過去の英傑達のクローンを含む者達が編入してきた。
彼らは世界屈指の大財閥、九鬼財閥の計画の一つである『武士道プラン』
で生まれた者たちだ。
『武士道プラン』
過去の偉人や英傑のクローンを現代に蘇らせる計画と聞いていたが、
俺には何か裏があると思っている。だって責任者はあの人だしな。
で、話を戻すが今現在、現代に蘇ったのは4人。
一人目は大河ドラマにもなったあの八艘飛びで有名な源義経。
なぜか性別が男から女になっていたが、まぁ可愛いから理由は別にどうでもいい。
続いて、二人目は源義経に仕え弁慶の仁王立ちで有名な武蔵坊弁慶。
こちらもなぜか女だが、こっちも可愛いからいいか。
三人目は弓の名手で有名な那須与一だが、壇上に姿が見えない。
どうやらサボっているようで、屋上から言い争っている声が聞こえる。
そして最後の四人目は、一体誰のクローンなのかわからない葉桜清楚。
見た目としゃべり方はいかにも大和撫子といった名前のとおり清楚な感じのする女性だ。
本人曰く「清少納言のクローンだったらいいなと思っている」らしい。
俺は彼女の名前を聞いた瞬間、ある有名な英傑の二つ名を思い出したが、すぐに
それは違うと頭を振り否定した。
さて、編入生はこの4人だけだと思っていたんだが、俺にとって予想外の人物たちが
学長に呼ばれ一歩前に出る。
「……おいおい、嘘だろ…(汗)」
俺は口をあんぐりと開け、その場に立ち尽くした。
「我、顕現である」
も…紋だと。おいおい、あいつまだ高校生じゃないだろ…
というか、紋の次に挨拶している人って…まさか!?
「新しく1年S組に入ることになりました。ヒューム・ヘルシングです。
皆さんよろしく」
「ぶっ!!」
おいおいおいおいおいおい…おいっ!!
何してんだあの人(汗)。
どおーーーーーーーー考えても無理あるだろっ!!
「そんな老けた学生はいない! 何の冗談だ」
「ヒュームは紋ちゃんの護衛じゃ」
するとあっちこっちの学生たちがヒュームの爺さんの登場に騒然としている。
そんな中、先ほど学長にツッコミを入れた3年の女生徒が呟く。
「…あの爺さんがヒューム・ヘルシングとは…」
「百代、あの御仁強いで候?」
百代と呼ばれた女生徒の呟きを聞き、隣に立っているその女生徒の友人が
訊ねると
「強いなんてそんな生易しいもんじゃないぞ、九鬼家従者部隊の零番だぞ、
あの爺さん」
そう友人に答えると百代は壇上のヒュームの全身をじぃーと見て、
「だが想像しているより強い感じは…ふむ、お年かな」
そう再び呟いた直後、
「ふん…打撃屋としての筋力が足りないぞ?
それと相手を見ただけで判断する所はまだまだだな、川神百代」
いつの間にか百代の背後に立っていたヒュームがそう言うと百代はすぐに
振り返り驚いている。
「ふん、まだまだだな、赤子よ」
そう百代に言うとヒュームの姿は一瞬で消え、また元の場所に戻っていた。
「あれが……九鬼従者部隊の零番」
百代が険しい表情でヒュームを睨みながらそう呟くとヒュームの視線が
ある方向へと注がれていることに気付く。
(あの爺さん、一体何を見て……ん? あいつを見ている)
ヒュームの視線の先にはいたのは、ボサボサで長い前髪が両目にかかっている
制服の中にジャージの上を着ているはっきり言って地味な男子生徒だった。
その男子生徒が立っている列を見て、その男子生徒が自分より一つ下、
つまり二年生で尚かつその列に見知った人物たちがいることに気付く。
(ふむ、あいつ大和達と同じクラスか…あの爺さんの知り合いか?)
百代は疑問に思いながらも男子生徒をじっと見る。
見る限り気は常人並。身体全て見ても特に目立った所は見えない。
一瞬間違えたかと思ったが、再度ヒュームがその方向にいる男子生徒を見て
口元に笑みを浮かべている事に気付き、間違いではないと判断できた。
(…一体何者なんだ、あいつ?)
百代はその男子生徒に興味を持った。ヒュームの知り合いという事は、
あの男子生徒は只者ではない可能性が高い。
もしかすると私の長年の思いをぶつけるに相応しい奴ではないかと
百代はそう思ってしまったからだ。
(とりあえず、大和にあいつのこと聞いてみるか)
百代がそんな事を考えていた一方では、
(ヤバっ! ヒュームの爺さん、こっち見て笑ってるな。
思い切り、ロックオンされてるな。……あとで俺のところにも
来そうだな…はぁ〜〜〜、勘弁してくれ)
俺は一人途方に暮れていた。
それから全校朝礼が終わり、午前の授業に入り、あっという間に昼休みになった。
俺は教室を出て屋上へと向かった。
「……やっぱな」
「そんなに嫌そうな顔をするな」
屋上に着くとそこにはヒュームの爺さんがいた。どうやら俺を待っていたようだ。
「……こういう顔にもなるさ」
俺はうんざりした顔でヒュームの爺さんに向かって言うと
ヒュームの爺さんは気にせず、
「久しいな…勘九郎」
「あぁ…3年ぶりくらいかな……って、チィ!!」
俺が言い終わる前にヒュームの爺さんが俺に向かって目に止まらぬ速さで
左の拳を放ってきたので俺はその拳をヒュームの爺さんより速い速度で
裏拳を放ち、弾き返した。
「ほう……鈍ってはいないようだな、寧ろ前より拳速が上がったか」
「お陰様でな…にしてもいきなり殴ってくることないだろ、ヒュームの爺さん」
「ふふ、少し試したくなったのでな」
「…ほんと、相変わらずだぜ」
俺は呆れた顔でヒュームの爺さんのそう言うとそれからヒュームの爺さんと
少し会話をした。
「……っと、そろそろ紋様が待っておられるんでな。まただ、勘九郎」
「あぁ、それとあんまり学園では俺に話かけないでくれるとありがたい。
もし、用事とかなら人目が居ないところで頼むよ」
「……まぁ、お前がそう言うなら善処しよう、ではな」
「あぁ、また」
俺がヒュームの爺さんに挨拶をするとヒュームの爺さんは一瞬で
屋上から姿を消した。
俺は消えたヒュームの爺さんのいた場所を見て髪を掻きながら
「……面倒な事、起きないといいが」
そう呟いた。
一方、俺とヒュームの爺さんが話している間の2-Fの教室では、
「お〜い、大和いるか?」
「姉さん、何か用?」
校内放送を終えた百代が大和を訪ねてやって来ていた。
「このクラスに髪の毛ボサボサで全体的に地味な感じの奴っているか?」
「ボサボサで全体的に地味……あぁ、一人いるよ。あそこの席で
名前は星樹勘九郎」
大和と呼ばれた男子生徒は勘九郎の席を指し、百代にそう言うと
百代は大和が指差した席を険しい表情で見ながら、
「星樹…勘九郎……」
「星樹君がどうかしたの?」
「あぁ、ちょっとな…それでその星樹って奴。どんな奴なんだ?」
百代が振り返り、大和にそう聞くと大和は唸りながら腕組みし、
「んーーー…至って普通の感じだよ、でもあんまり他の奴らとは話しをしている所は
見たことないな。なんで、星樹君の事を聞くんだ、姉さん?」
大和が不思議そうな顔で百代に聞くと百代は左右に顔を振り、
「いや、大したことじゃない。邪魔したな、大和」
「あぁ…」
百代はそう言って教室から出ていった。それを見送った大和は、
「気になる…」
そう呟いた。
・
・
・
次の日の昼休み、俺が屋上にやってくるとすでに先客がいた。
「お前が星樹勘九郎だな?」
俺はこの女生徒…先輩を知っている。
「そうですけど、何か俺に用ですか?」
俺がそう言うと先輩は一瞬、笑みを浮かべすぐに真面目な顔に戻し、
「単刀直入に言おう…お前、何者だ?」
「はぁ? 何者って……」
「試させてもらうぞ。ハッ!!」
いきなり先輩が俺に向かって正拳突きを放った。
「ちょ、ちょっ!! チィ!」
俺は素早く左に避けながら回避したが、その行動はどうやら誘導だったようで
「ハッ!!」
先輩は身体を大きく捻り足を振り上げ追撃の蹴りを放ってきた。
しかし、俺はそれに気付いた俺はその蹴りが到達する前に後方へと下がり回避した。
「ほぅ、やるな」
「逃げるのは得意なんで…」
「面白い、ヒュームの爺さんがお前を見て笑っていた理由が少しだけわかった」
あれを見られていたのか…困ったな。
俺が心の中でそう思っていると先輩は腕を組み、不敵な笑みを浮かべ、そして
「興味出てきた、私と勝負しろっ! 星樹勘九郎」
「は…………………………………………………はいっ!!?」
これが俺の平穏で静かな毎日の終わりだった。
まじこい∞アンリミテッド -MajiKoi∞Unlimited- START…
Fight-01 『真剣で勘弁してくれ』 END
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