第7話 誘拐事件発生(中の2)
見渡す限りどこまでも続く全てが真っ白な空間
そんな場所にただ1人立っている15歳くらいの白い制服を着た銀髪の少女の姿があった。
「………わざわざここに人を呼んでまで邪魔をするなんて一体どういうつもりなんでしょうね?」
彼女の正体は……身体が成長したユウであった。
そしてこの謎の白い空間は一種の精神世界と呼べるものである(正確には精神ではなくユウの魂の存在する場所だがややこしいので)。
「それで……出てきたらどうですか?人が奴等を潰そうとした瞬間にここに呼び寄せたんですから何かあるのでしょう?」
そういいながらユウが背後を向き視線を送ると、その先の空間が歪みそこから2人の人物が現れる。
片方の人物は、見た目の年齢ではおそらくユウよりも若干年上であろう長い金髪で、服はどこか騎士のような雰囲気を感じさせる白い上着に、同じく白い床に裾がつくほどのロングスカートを履いた謎の女性
もう1人は、長い黒髪とユウとは色が違う黒い制服を着ているが………それ以外の顔つきや体つきは現在のユウと完全に瓜二つの謎の少女
謎の人物2人と対峙しながらユウはそのうちの黒髪の少女を睨むように目つきを細めながら相手の言葉を待つ
「……………」
「……………」
「……………」
「……お前は一体何をしようとしていた?」
「はぁ?……ああ、あれのことですか」
しばらくの間互いに無言のまま見詰め合っていたが、突然黒髪の少女が口を開きユウに対して質問を投げかける。
しかし、ユウは一瞬何の事かわからなかったのか惚けたような声を出したが直後に何の事か理解したのか少女を睨んだまま言葉を紡ぐ。
「何かいけないことでもありましたか?私は、ただシャルを攫おうとした不届き者達を排除しようとしただけですよ?」
そう告げながら2人を見つめるその瞳にはどこか狂気のような物が宿っているようにも感じられた。
「排除って…お前は今の状況が分かっていてそんなことを言ってんのか?」
「そんなこと、当たり前じゃないですか!たかがたいした力も持っていなさそうな魔術師3人ですよ!私の敵じゃありません!」
力強くはっきりと目の前の2人に対して言うユウであったがその声にもだんだんと苛立ちの感情がこめられていく。
「いいや、お前は分かってないね。今の周り所か自分のことにすら気がついていない状態じゃ、周りのやつを倒してシャルロットと逃げるどころか、あっさり捕まるのが目に見えてるんだよ!」
「あーーもーー!!あなたに何が分かるって言うんですかぁ!私のことは私が一番わかってるんですよぉ。だから………ジャマヲスルナァァァァ!」
少女の言葉を聞き納得できなかったのか、ユウは髪を掻き乱しながら負の感情を丸出しにして少女に向かって行く。
そんなユウの状態を見ながら少女はため息を吐きつつ呆れたような表情になる。
「はぁ、予想はしてたけどやっぱこうなるのかよ…」
「それで?どうするんですかマスター?私がマスターの動きを止めますか?……って本当に呼び方が不便になりますね」
「あーラン、お前は手を出さなくていいよ。あれは俺が止めるから」
2人がそんな会話をしている間にも、ユウはどんどん近づいてきて、そのまま少女の顔に手が届く距離まで来た瞬間………目の前の少女の姿が突然消えた。
「キエ…グハッ!?」
消えたかと思った少女は一瞬のうちにユウの背後に回りこみおよそ人から聞こえるとは思えないような音をユウの頭から響かせ気絶させる。
「ね…ねえさ…ん…な…にを…」
そうつぶやきながらユウは地面?に倒れこみそのまま意識を手放すのであった
その様子を眺めながら少女は倒れこんだユウのそばに女性と一緒に近づいていく。
「ふぅ、これでとりあえずおとなしくなったな」
「えー、言いにくいのですがマスター?」
「んー?どうかしたかラン?」
「今…本来なら、人体から聞こえないようなありえない音が響いた気がするんですが…マスター…生きてますよね?」
「…………」
「え?なんでそこで急に黙るんですか?マスター?マスター!?」
「ハッハッハッ、ココジャドウセシナナイカラヘイキダロー……(ボソッ)どうせ悪くて記憶が飛ぶくらいだろうし」
「ちょ!?棒読みな上に、ボソッと怖い事言いましたよね!?」
少女の答えに更なる不安を覚える女性…ランであったが
少女はそんなランの言うことは無視するかのようにユウの身体を仰向けにすると
突然胸の中心部に手を添えるとだんだんと右手がユウの身体の中に入り込んでいく。
「あー、分かっていても横から見るとあまりいい気分じゃありませんね」
「そんなこと…言ったって…今の…状態じゃこうするしか…方法がな………あったぁ!!」
ランの話を聞きながらユウの身体から何かを見つけ出した少女はそのまま手を胸から引っ張り出す。
ユウは何かを引っ張り出された衝撃から、少し身体を痙攣させたが、信じられないことに外傷はなかったように胸は無傷で代わりに少女の手の中にはなにやら蠢く黒い炎のような謎の塊が握られていた。
「それが今回マスターを狂わせた原因ですか」
「そうだな、転生者もしくは転生者が何か仕組んだことに遭遇した場合発動するってところか」
2人は少女が取り出した物を観察しながら会話を続ける
「ということは今回の誘拐しようとしてる彼らが転生者…ということでしょうか?」
「いや、たぶん奴等はじゃなく転生者がどっかにいるんだろ。にしても以前と違って今回は直接姿現すってところか。はぁ、前とは若干状況が違うがまた俺が対処するのか…」
「でも気絶させたのマスター自身ですから半分は自業自得ですからね?…ってあれ?」
「ん?どうした?」
簡単な分析をしている途中ランが何かに気がついたかのように疑問の声を上げる
「ふ、と思ったんですけど、これってあの時にマスターの魂に寄生したんですけどね?」
「ああ、そうだけどそれがどうかしたか?」
「だったらあの時マスターがめんどくさがらずに、きちんとあれを処理していたら今回の暴走は防げたのでは?」
「………あ」
「『あ』ってなんですか『あ』って!」
「とりあえずこれを処理すっか…こい『ディア』」
「逃げましたね」
少女は右手に黒い塊をもったまま名前を呼ぶと左手に身の丈を超えるほどの黒い大鎌を出現させると
「せいっ!」
そのまま器用に右手の黒い塊を手に持った大鎌であっさりと切り裂く。
「はいっ、しゅーりょー」
「なんだか処理が随分とあっさりしすぎてるような気がしますが…とりあえずはこれで終わりですね」
「おう、といっても今回の暴走は半分くらいあいつの感情もはいってたけどな」
「それで、これからどうするんですか?」
「そりゃ、周りのやつらをどうにかするしかないだろ」
「ですがそれは今のマスターの状況じゃ無理じゃないですか?」
「まーな。せめて封印がもう一段階解けてれば問題ないんだが、今の状態じゃお前を呼び出せても使用する前に魔力尽きるからな。あいつはその辺気がつかないで攻撃を仕掛ける気満々だったみたいだが」
「では一体どうするの……ああ、そういえばあれが一緒についてきてましたね。でもそれだけではどちらか1人しか助からないのでは?」
「だから、逃がすのはシャルロットだけだ。相手の目的も調べなきゃならないからな。……まあ、大体予想はついてるが」
「はぁ、どうせ、やめてくださいといっても無駄でしょうから、せめて無茶はしないでくださいね…言っても無駄でしょうけど」
「善処するさ」
ランの言葉に適当に返事を返すと少女は最初からそこにいなかったかのように消え去るのであった。
そして1人その場に残された(気絶中の人はカウントしない)ランはというと…
「さてあの感じじゃマスターが起きる感じはしないので……どうせ記憶飛ぶでしょうし、マスターで遊びましょうか」
若干思考回路がイリヤたちと被っているような感じのする彼女であった。
場面は現実に戻ってユウが下を向いて動かなくなってから大体3秒ほどが経過していた
当然目の前にいるリーダー格の男は疑問に思ったが、これ以上時間をかけると流石にまずいのでさっさと捕まえてアジトに連れて行こうと思い近づいた瞬間
ユウの顔がゆっくりと上がり、先ほどまでとはまた別な雰囲気を出していることに気がつき、さらに警戒の色を強くする。
そんな中シャルロットだけが周りの者とは違った何かを感じ取りユウの後ろから小声で話しかける
「あ、あなたは誰!?ユウを一体どうしたの!」
「!?(まさか違いに気がつくとは…だが今はそれどころじゃないんでね。シア準備はいいな!)」
『大丈夫ですけど…本当に大丈夫なんですか?』
『ああ、問題は無い。そっちこそしくじるなよ?』
シャルロットの言葉に一瞬驚きはしたものの、すぐに前を見据えて彼女を逃がすための準備を整える。
そんな中リーダー格の男が今度こそ2人を捕まえるために再び近づく
「悪いがこちらもあまり手間をかけたくないのでな。とっとと捕まえさせてもらう」
その言葉に対してユウは薄い笑みを浮かべると男に告げる。
「いいでしょう……ただし捕まるのは私だけですけどね!!」
「なに!?これは!!」
一瞬で左手の先から魔力の塊をリーダー格の男に向けて放ち、
それを男が腕で振り払おうとした瞬間…塊は破裂し、あたりにとてつもない閃光を放つ。
これには流石に男達とはいえ視界を奪われてしまう。
そしてその隙に…
「行けシア!シャルロットを連れて逃げろ!」
「分かってます!失礼しますよシャル様」
「え、シア!?今シアって言った!?ってそんなことよりもこれじゃあユウが残されちゃ…あ、頭が痛い!こ、この映像は何!?」
数秒後光が晴れて男達の目が慣れてくるとそこにいたのはユウただ1人であった。
その様子を見て男は舌打ちをしながらユウに近づく。
「チッ、やってくれたな。まさかあんなことをするとは…5歳といってもあいつの娘ってわけか。だが自分が逃げなかったのはどういうわけだ?」
「あなたたちの目的は第一目標が私でシャルロットは誘拐できればといった感じでしたからね。近くにお父様も来ているみたいですし、それならあなたたちも簡単には追えないでしょう?」
「たしかにお前の言うとおりだが…俺たちはこうもいわれてるんだ。『金髪の娘は無傷で、だが1番のターゲットは生きてさえいれば多少怪我をさせたも構わないとな」
男はそう言うと目にも止まらぬ速さでユウの左足を折ってしまう。
「っ!!」
足を折られたことによってユウはそのまま地面に倒れ伏してしまった。
「いくら魔術を使えても痛みには耐えられず気絶か…まあいい、逃げたほうは放っておいてこいつを連れて依頼人のいるアジトまで戻るぞ」
「「了解」」
リーダー格の男の言葉に後ろにいた2人は返事をすると、気絶したユウを抱えて男たちは路地から完全に姿を消した。
「……(さて、とりあえず気絶した振りをしたわけだが……シャルロットの最後の言葉が若干気になるな。まあ、今はこっちの情報を仕入れるのが先か)」
男達が消えてしばらくした路地に、シャルロットを保護した切嗣がやってくるが、
すでにそこには誰もおらずただ悔しそうに地面を叩く姿だけが残されていた。
後書き
今回は前回言ったとおり若干カオスになりました…え?若干じゃないって?
今回のお話で1個フラグを回収。なんのかは教えないけど。
なお、今回最初に出てきた空間はとりあえずユウたちの魂の中だとでも思っておいてください。
いやー、本当なんでここまで同じ場面でも内容がにじファンのときと違うのか話を変えた私に今からでも突っ込みたい。
とりあえず今回出てきた3人の簡易説明
黒い髪の少女
簡単にいうとプロローグででてきたユウと心の中で会話したニート姉。
黒髪なのには一応理由あり。
あんま詳しく今の状態じゃかけないのでこの辺で。
ラン
正式名称:ランスロット イメージカラーは白
簡単に言うと「なのは」にでてくるデバイス(ユニゾンではなくインテリの方)。
ISの中にある魂ではないので本編入ると出番がほとんど無くなる可哀相な子。
シア
初登場ではなく本編にちょくちょくでてきたシア本人、簡単にいうと使い魔。
維持には魔力を必要とするが人型になるにはあらかじめ貯めておいた物を使うためある意味省エネ。
人間時の姿は髪は白く先っぽだけ若干黒が混じっている。
ユウの魔力消費について
魔術を使うときは当然として自分の魂に刻んでいる武器や人?を具現化するときに消費。
当然具現化したものが魔力を使うものなら別途消費する。
なお、今のユウの魔力は封印をかけている上にシアの維持にも使っているため本当に少ししか使えない。
とりあえず次回はいよいよ今回の事件を仕組んだ犯人との接触!
果たしてユウの運命は!?あと意識を失っている方のユウの記憶はどうなるのか!
最後にシャルロットのつぶやいた映像とは何か!
そして……そのあたりをきちんと文章でまとめることができるのか!?
なお、実際にはこの中の半分くらいしか次回関わってこないのであしからず。