第4話 1人の親として(後)
コレットの家を飛び出てアイリが車を走らせて数十分
アイリの車はあるビルの前で止まる
「ここがあの人の会社ね……でかいわね…」
アイリがやってきたのは『デュノア社』フランスにおける有名な会社の1つである。
「まずは受付ね。アポはとってないけど…まあ、どうとでもなるでしょ」
そういって彼女はビルの中に入っていくのであった。
ビルの中までやってくるとアイリは早速受付に話しかける
「すみません」
「はい、何か御用ですか?」
「ちょっとこちらの社長にお会いしたいのですが…」
「社長にですか?失礼ですがアポイントメントはお取りですか?」
「いえ、取ってはいないんですけど……『アイリスフィール』が会いにきたと伝えて欲しいんですよ」
「……」
「ダメですかね?」
「……わかりました。聞くだけ聞いてみましょう…ですがダメだった場合は」
「わかってますわ」
「では少々お待ちを……あ、社長ですかただいま受付に………はい、はい、わかりました。ではそのように」
電話を取りしばらく会話をしてから受付の人はこちらに向き合う
「社長に確認が取れました。お会いするとのことですので案内のものが来るまで少々お待ちください」
「わかりました。ありがとうございます(ぶっちゃけダメだと思っていたのだけれどラッキーね)」
(ご都合主義乙)
その後案内役の人が来て社内のある一室まで連れて行かれるのであった
そして案内された部屋の中に入るとそこには茶髪の男性が座って待っていた
「久しぶりだなアイリスフィール。急に会いたいだなんて天下のアインツベルンが直に敵情視察かい?」
捕捉:アインツベルンは世界でも有名な会社で色々と影響力もある
「馬鹿ねーそんなどうでもいいことなわけないじゃない」
ズルッ
アイリがそういった瞬間に椅子から転げ落ちそうになる男性
「そ、そんなことって仮にも君はアインツベルンの跡取りだろうに」
「でも私も切嗣も会社を継ぐ気全くないのよね……まあ、関係ない話は置いておいて本題に入ってもいいかしら?」
「はぁ…君は相変わらずか、それで?本題というのは?」
「実はねーロイド。今日コレットに会ってきたのだけれど…」
「……」
アイリがコレットの名前を出した瞬間に目に見えて顔色が怪しくなるロイドと呼ばれた男性
「そのときにコレットにあなたのこと聞いたのだけれど」
「何が言いたい?」
「なんであなたはコレットやシャルロットちゃんを放っておいて別な女性と結婚してるのかしら?」
「……それを聞いてどうするつもりだ」
「ただのおせっかいよ。それにこのままじゃシャルロットちゃんが将来的にもかわいそうだと思ってしまったもの」
アイリがそこまで言うとロイドは少しの間顔を俯かせて黙っていたが…声を押し殺しながら言葉を紡ぐ
「……んだ」
「なんですって?」
「仕方なかったんだ!私は会社を立派にしてから彼女を迎えに行きたかったが!だがその前に実家の方が会社をさらに大きくするためにと縁談を持ち込んできた!」
「断ればよかったじゃない」
「断れるものなら私も断りたかった!だが相手が会社にかなり融資してくれている相手な上に下手に縁談を断ったら融資そのものをやめるといってきたんだ!」
「それでそのまま、結婚してコレットにも会わず今に至るわけ?」
「いや、一度だけ妻も交えて話し合いをしたさ。だがその結果はもう彼女と会うことが出来ないというものになってしまった。子供が出来てしまっているから養育費だけは支払う形にはなったが」
「あの子その時泣いてたでしょ?」
「ああ、泣いていたよ。そして、後悔もした。妻は彼女との話の途中で『この泥棒猫が』と言って殴りかかったからな」
「それにしても…昔のあなたならコレットと駆け落ちするくらいの勢いはあったのに」
「ああ、昔なら確かにやっていただろう。だが今は1つの会社を預かる身だ。駆け落ちして私だけに迷惑が掛かるならいいがそんなことをしたら色々なうわさが流れて会社そのものが破産しかねん。そうなってしまっては会社で働いている他の社員達に申し訳がたたん。彼らを路頭に迷わせるわけにはいかんのだから。ちなみにこのことを知っているのは会社の中でも一部だけだ」
「ほんとあなたは昔から自分よりも他人のことを考えるわね。まあ、そこにコレットも惚れたんでしょうけど、でもどうするのよ」
「私はもう彼女達には会えない。妻の気が変われば別だろうがそう簡単に変わるわけないからな。だから、このタイミングで来た君に頼みがある」
「まあ、内容は大体予想つくけど何かしら?」
「コレットとシャルロットをどうかアインツベルンでかくまって欲しい!勝手なことだとは思うがこのことがどこかから漏れれば彼女たちが狙われる可能性がある。そのとき私に彼女達を守ることは出来ないだろう…だから頼む!」
そういって頭を下げるロイド
それを見ながらアイリは彼の肩に手を置きながら
「あなたの気持ちはわかったわ…でも私の一存では決められないわ」
といった。
「そ、そうか」
それを聞いて彼は肩を落とす
「あ、勘違いしないで欲しいのは私の実家はたぶん平気よ」
「なに?」
「おじい様はなんだかんだ言って甘いから私の親友がそういう状況ならたぶんOKっていうわ」
「な、なら何が…」
「でも、コレット自身がそれを受けない可能性があるわ。あの子なんだかんだ言って頑固ですもの。だから私の方から話しては見るけど期待しないでね」
「それだけでも私は十分だ」
「そう…なら私はそろそろお暇するわね。彼女に話をしないといけないから」
「そうかなら、入り口まで送ろう」
そういって2人が部屋から出ようとした直前に電話が鳴り響く
「ちょっと待っていてくれ」
「別に送ってくれなくてもいいわよ?」
「すぐ終るさ。私だ………何…だと!?」
電話を取ったロイドの顔色が見るからに青くなっていく
「どうしたのよ?」
「アイリ……落ち着いて聞いてくれ…」
神妙な面持ちでロイドは信じられないことを口にする
「何者かに……君の娘の1人が……誘拐されたらしい……」
「え?」
突如告げられた事実にアイリは呆然とするしかなかった……
平穏は続かない