〜〜ラーズside〜〜
軍艦に揺られる事数日。船が騒がしくなってきた。ようやく見つかったっぽいな。与えられた部屋から出て、
モモンガさんもいる甲板に行く。甲板には大勢の海兵達もいた。しかし今更だが顔合わせなんてする必要あんのか?
「見つけたんですか?」
「あァ、あそこだ」
モモンガさんの指差した方向を見ると…大きな蛇が二匹船首にいる船がある。どうやらあれみたいだな。
軍艦が九蛇の船に近付き、横につける。サイズは流石に軍艦の方が大きいな。
「私は海軍本部中将モモンガ。王下七武海”海賊女帝”ボア・ハンコック!顔を出せ!」
モモンガさんが九蛇に向かって声をかける。俺はまだ口を出す場面じゃないのでモモンガさんの近くで
のんびりしている。すると、九蛇海賊団の一人が返事をした。
「蛇姫様は出て来ないよ。それより、新しい七武海ってのは誰?」
それを聞いたモモンガさんがこっちを向く。それを見て隣まで歩く。
「初めまして九蛇海賊団。白狐のラーズだ」
自己紹介しながら尾を振る。
「何あの尻尾!?」
「普通の男じゃないわ!」
「あれも何かの呪いなの!?」
口々に何か言っている。そーいやコイツ等は悪魔の実の事なんてあんまり知らないんだっけ。
「今回は七武海同士の顔合わせと、政府からの指令の遵守を直接願いに来た。聞こえているなら顔を出せ!」
モモンガさんが叫ぶと、船内から三人の女が現れた。海兵達が一気にざわつく。
「顔合わせなどと下らない事でわらわを呼びつけるとは」
真ん中の女−−−ボア・ハンコックが話す。んー実物とこんなに早く接触するとはな。
「初めましてボア・ハンコック。新しく七武海に入ったラーズだ」
とりあえず自己紹介をする。すると、ハンコックはこっちを見た後に一言だけ放った。
「下らぬ」
ムカッ!あの女、更に鼻で笑いやがった!第一印象は最悪です。オレ、アイツ、キライ。
「おいおい、失礼な事言ってくれるな。こっちはわざわざ凪の帯まで来てんのによ」
ちょっとイライラしながら言葉を返す。それにギャーギャー反応する九蛇の面々。
「姉様に対して無礼な!」
「頭が高いぞ!」
ハンコックの両隣で叫ぶでかい女。えーっとサンダーソニアとマリーゴールドだっけ?コイツ等も十分失礼だな。
「…モモンガさん。九蛇の船って沈めてもいいんですっけ?」
プライドばっかり高い奴等は嫌いだ。
「それは自重してくれ。また七武海に穴を空けられては堪らん」
すると、その会話を聞いていたハンコックが口を挟む。
「ほぅ、そなた死にたいのか?」
さっきから挑発する様な事ばっかり言ってくれるな。周りの海兵達はすでに目がハートになっている。モモンガさんは
それを見て呆れて頭を抱えていた。
「やれるもんならやってみろよ。さっきからムカつく事ばっかり言いやがって」
「あの男!蛇姫様に暴言を!」
「許せない!!」
再びギャーギャー騒ぐ九蛇の海賊団。だぁーもううっとおしいな!
「そなたの言葉すぐに後悔させてやろう」
すると、ハンコックは両手を前に出して手でハートマークを作った。
「”メロメロ甘風(メロウ)”!」
手からハートのビームみたいなのが出て来た瞬間、軍艦が一気に静かになった。ハンコックの虜になった海兵達は
見事な石像になっていた。実際に見るとこの能力すげーな。
「大丈夫ですか、モモンガさん?」
モモンガさんは自分の手に短剣を刺して邪念を消していた。
「あァ、なんとかな。しかし…」
「なぜじゃ!?なぜ石化せぬ!?」
恐らくモモンガさんが疑問に思った事をハンコックが先に言った。見ると明らかに動揺している。
「だって俺別に虜になってないし」
そう、はっきり言って俺はハンコックに全く興味がない。俺がいつからナミの事を想い続けてきたと思ってんだ?
美人が出て来たくらいで心奪われるんなら、とっくにロビンやビビにまで手を広げてるっての。
俺にとってはナミが全てで絶対だ。他には何も必要ない。
「そんなっ!姉様の虜にならないなんて!」
「そんな男いないわ!?」
焦るサンダーソニアとマリーゴールド。
「俺にはすでに心に決めた女がいる!アンタの入る隙間など微塵もないんだよ!!」
俺の宣言に顔を顰めるハンコック。自分の虜にならなかったのがよっぽどショックなんだろう。
「男のくせに…」
しかしこの石化した海兵達どうしよう?流石に見捨てるのはマズイよな。モモンガさんの責任とかなったら悪いし。
「とりあえず海兵達の石化解けよ。これじゃ帰れないだろ」
「何故わらわがそなたの言う事を聞かねばならぬ!」
んーこりゃ何言っても聞きそうにないな。俺はモモンガさんに小声で呟く。
「このままだと海兵達戻りそうにないんでちょっと荒っぽいやり方でもいいですか?」
「…やり過ぎるなよ」
モモンガさんの了承を得た瞬間「剃刀」で上空に上がる。
「消えた!?」
驚くハンコックと海賊団。そのまま尾を展開する。
「よっと」
焔弾を九発同時に九蛇の海賊船の周りに放つ。大きな白い炎の塊はそのまま海面に直撃し、爆発する。その衝撃で
大きな水飛沫が起こり船が揺れるる。
「きゃああ!」
「なっ何!?」
いきなりの上空からの攻撃に動揺してるみたいだな。そのまま空から声をかける。
「早く海兵達の石化を解けって。次は直接船に撃ち込んで沈めるぞ」
「あの男空に浮いてる!?」
「何あの白い炎!?」
体中から炎を出しながら威圧する。別にここで俺がハンコックと仲良くする義理なんてないし。
「くっ…そなたもか」
「そうだよ。別に能力使わなくたってその船くらい真っ二つに出来るけど」
言いながら「嵐脚」を海に向かって放つ。足で放った斬撃はまたもや大きな水飛沫を上げる。それを見ている内に
「剃刀」でハンコックの後ろに下りる。
「っ!?…いつの間に」
それに気付いた九蛇の面々が一斉に武器をこっちに向ける。
「別に攻撃するつもりはないんだって。俺は海兵の石化を解けって言ってるだけだろ。それともここで七武海同士で
戦うか?俺はそれでもいいけど」
ハンコック相手なら遠距離から一閃を撃ち続ければ問題ないだろうしな。覇気は意味ないし。
「……仕方がない」
悔しそうにしながらもハンコックは石化を解いた。元に戻った海兵達はモモンガさんに説教されていた。
「ったく最初からそうしろよ。元々喧嘩しに来たんじゃねェんだから。とりあえずは俺の顔くらい覚えておけよ。
それとセンゴクさんが「なるべく召集には応じろ」って」
そう言って軍艦に飛び乗る。しかし自分でしておいてなんだが、これじゃますます召集に応じなくなったかもな?
「…随分と腕を上げたんだな」
「おかげで何回か生死の境をさまよいましたけどね」
笑いながらモモンガさんに返事をする。ひとまず用事も終わったし後は帰るだけか。海兵達が船を発進させる準備を
している。俺も部屋に戻ろうとすると、ハンコックに呼び止められた。
「待て!……そなたの名前、もう一度教えて欲しい」
コイツさっきの自己紹介聞いてなかったのか?どんだけ上から見てやがったんだ?
「ラーズだ。もしくは白狐って言えば大体分かる。じゃーな、召集があればまたどっかで会うだろ」
やれやれ、確かにセンゴクさんが手を焼くのも納得だ。
「そうか…」
それ以上ハンコックは何も言わなかった。俺も今度こそ部屋に戻る。
〜〜ハンコックside〜〜
海軍の船が遠くなってゆく。わらわも自分の部屋に戻り先ほどの事を思い返す。
「ラーズ、か…」
今までわらわの虜にならなかった男はいなかった。だが、あの男は違った。それどころかわらわを力で屈服させる
程じゃった。わらわにもあの男がいつ移動したのか分からなかった。
あんな男は初めてじゃ。
海賊の男など全て一緒と思っておったが、中にはそうでもないのもおるのじゃな。
「しかし、素直に言う事を聞きっぱなしというのも癪じゃ」
また海軍の要請を断っていれば、また会うかもしれんな。
〜〜ラーズside〜〜
部屋の備え付けのベットに横になっていると、ドアがノックされた。
「開いてるんでどうぞー」
するとそのままドアが開いた。
「どうしたんですか?」
モモンガさんは真剣な表情でこっちを見ていた。何かあったのか?
「つい先程元帥殿から連絡があった」
センゴクさんから?一体何だったんだ?そう考えているとモモンガさんが話し始めた。
「昨日偉大なる航路のバナロ島の近海で軍艦が一隻行方不明になったらしい。その島を中心に捜索をしていた所、
とんでもない爆弾を捕縛したらしい」
軍艦ねェ。その辺の海賊じゃ返り討ちだと思うんだが。となると、けっこう強い海賊かもな。
…ん?待てよ?
『バナロ島』?
聞き覚えのある島の名前だな………まさか!?
「モモンガさん!その爆弾って…」
「あァ、『火拳のエース』を捕らえた」
あの馬鹿!不利になったら逃げるくらいしろよ!これじゃ何の為にアラバスタで仲良くなったか分からねェだろ!!
エースを仕留めた程の実力者なら、恐らく相手は黒ひげだろう。俺が七武海に入ったというのに、
歴史は変わらなかったのか?能力を教えたぐらいじゃダメだったんだ。しかし、今更エースを捕まえても
七武海に入れないってのに、黒ひげは一体何を考えてるんだ?その動きは何を示しているんだ?
アイツの行動が読めないってのは厳しいな。
「ひとまず全速で本部に戻る。お前にも指令が来る可能性は大きいな」
モモンガさんの言葉は余り耳に入っていなかった。
それよりもエースを倒したであろう黒ひげの行動の真意を読む方が先だ。
そうして俺は一つの仮説を浮かべる。考えすぎかもしれないが、もしそうだとすると……
「モモンガさん、凪の帯を抜けたら俺は自分の船で別行動をします。何かあったら電伝虫に連絡して下さい」
ここからだとマリンフォードに戻ったら時間が足りない。
今はとにかく急ごう。全てが手遅れになる前に。