〜〜ビビside〜〜
リトルガーデンを出発してからもうすぐ二日になろうとしている。今も船はドラム王国に向かっている。
今の所順調に進んでるけど…。
「ナミさん、具合はどうですか?」
「ん…。」
ナミさんはどんどん元気がなくなっている。今はベットから動く事も出来なくなっている。
「タオル代えますね。薬は飲めますか?」
「…ん、ありがと。」
さっき代えたばかりのタオルがもう温くなっている。薬を飲んでも全然熱が引かないみたい。凄く辛そう。
「…みん、な、は?」
「ルフィさんとミスター・ブシドーは甲板で見張りを、ウソップさんとサンジさんは航路のチェック、ロビンさんは
私と交代で看護の準備してます。」
「ごめん、ね。」
「気にしないで下さい。それより安静にしてて下さいね。」
「……ラーズ、は?」
「ラ、ラーズさんはオールを尻尾で漕いでますよ。少しでも早く着く様に、ですって。」
「そ、う。」
ナミさんは少しだけ安堵した顔になった。けど…
リトルガーデンを出てからラーズさんは全員に指示を飛ばした。みんな文句も言わずにすぐに実行した。
それだけラーズさんは真剣だった。
今もラーズさんはオールを漕いでいる。……あれから一回も休まずに。
二日間全く寝ずに漕ぎ続けている。ルフィさん達の言う事も聞かずにずっと。ナミさんに顔くらい見せればと
いう意見にも
「俺が見舞っても症状は変わらない。それより一秒でも早くドラム王国に行く事だ。」
と言って聞かない。確かにそうかもしれないけど…。でも何だかラーズさんも顔色が悪くなっている。
二日も寝ずに能力使い続けてるけど大丈夫なのかしら?あっちも心配だわ。
「ねぇ、ビビ。ラーズに、ゴメンねって、つたえてもらえる?」
「えっ?」
思わず聞き返した。どうしたのかしら?
「ラーズは、しんぱいして、くれてたのに。いうこと、きかなかった、から。」
「きっと許してくれますよ。だから早く元気になって直接謝って下さいね。」
「…ビビ。あたし、しっとしてたんだ。ビビとロビンに。いままで、ラーズのまわりに、あたししかおんなのこ、
いなかったから。きゅうに、ふあんに、なっちゃった。」
「そうだったんですね。」
「だから、すねたり、とおざけたりしちゃった。これじゃ、こどもね。」
「それだけラーズさんの事が好きなんですね。」
「……うん。」
二人はこんなにお互いを大切に想ってるのね。幼馴染みって事は聞いたけどそれだけなのかしら?
「じゃあより早く元気になって下さいね。元気のない二人を見てるのは…少し辛いですから。」
「ありがと、ね。」
そう言ってナミさんは目を閉じた。
〜〜ラーズside〜〜
失敗した。無理矢理にでも船に残しておくべきだった。俺というイレギュラーもあり変わりつつあるこの歴史なら、
と思ったのが大間違いだった。ロビンに「後悔はもうしない」なんて言っておきながらこのザマだ。
今もナミは苦しんでいる。クロッカスさんから貰った薬もまるで効果がなかった。
やはり「ケスチア」はそのへんの抗生剤なんかじゃ役に立たなかった。
こうなるのだったらもっと医学の勉強しておけば良かった。
何でそこまで気が回らなかったんだ?海軍にいた頃なら資料ぐらいはあっただろうに。
「情けねえ。」
船底でオールを漕ぎながら呟く。たかが口喧嘩なんかでナミを守れなかった事に腹が立つ。
ビビに顔を出せと言われたが今はあわせる顔がない。
とにかく今は早く、ただ早く。
少しすると船が騒がしくなった。何が起きた?
〜〜サンジside〜〜
何だこいつは?周りの景色が冬になったと思ったらカバみたいなのが出て来やがった。
「まっはっは。貴様等ドラム王国への永久指針を持ってるカバ?」
こいつもドラム王国ってとこに行こうとしてんのか?
「なんだお前はーーー!?」
ルフィと同意見だな。このカバ野郎、おれ達は急いでんだよ!!
「……誰だアンタは?」
ぅお!?いきなり出てくんなよ白髪!…つーかコイツこんなにやつれてたか?顔色も悪いし。
「貴様等の様な海賊ごときに名乗る名は無いカバ!」
「ごとき、か。俺は急いでるんだ…今すぐ死ね。」
瞬間全身を寒気が襲った。これはラーズの殺気か!?コイツ本気であのカバ野郎を殺す気だ。確かにナミさんが
病気の今、邪魔されちゃ困るが…。
「白火・一閃」
ラーズから放出された白いレーザーみたいなのがカバの両手両足を貫いた。何だ今のは!?アイツあんな技まで使えるのか!?
見るとおれ以外の全員も驚いていた。…ルフィは目を輝かせていたが。
「ぐあぁぁぁ!!」
「邪魔を…するな!」
倒れていたカバ野郎の頭を持ち上げてを殴り飛ばした。すげー飛んで行ったな。
「なぁなぁラーズ、今のって?」
「ルフィ、その内説明する。今はドラム王国に行くのが優先だ。気候も冬になってきたからもうすぐだ。…漕いでくる。」
そう言ってまたオールを漕ぎに行った。殺気もようやく収まったみたいだな。しかしアイツがあそこまで露骨に
殺気を放つなんて初めてじゃねーのか?ローグタウンで海軍とやり合った時よりヤバかったぞ。
「あの…ラーズさんってあんなに怖いの?」
ビビちゃんが怯えていた。無理もないよな。このおれでさえビビった位だからな。
「ラーズは普段はボケーっとしてるんだけどな。ナミが絡むとリミッターが外れるんだよ。ナミの為に一人で海賊と
海軍相手にするくらいだからな。けど仲間には優しいぜ、おれやルフィにゾロも色々教えて貰ってるからな。
まぁ今回はそれだけじゃねーみたいだけど。」
ウソップがフォローしている。アイツなんか知ってんのか?
「前に聞いたんだけどよ、アイツは一回ナミを守れなかったって。10歳の頃にアイツ等の島に海賊がきたらしい。
そん時にナミを守ろうとして戦ったんだってよ。しかも相手は魚人だ。普通は無理だよな?でもアイツは血まみれに
なっても戦い続けたんだって。まだ能力者じゃない10歳のガキがだぜ?おれならビビッて無理だよ。
でもラーズはその時の事を後悔してるらしい、助けれなかったってな。多分今回もナミが苦しんでる事には
一番ラーズが悔やんでるハズだ。そこにさっきのカバが来て邪魔してたからな。そりゃああなるぜ。」
ウソップは一番仲がいいからな。どっかで聞いたんだろ。二人は単なる幼馴染みってだけじゃなかったんだな。
「……そんな事があったんですね。」
ビビちゃんだけじゃなくて皆もどこか納得した表情だった。どうもあの二人には見えない絆みたいなもんが
あるんだな。おれの入る隙間は無いってか。
「多分ラーズは昔から変わってねーんじゃないか?今も昔もナミの為に、たった一人の為に。ってな。」
ウソップの野郎、少しカッコ良く言いやがって。自分の事じゃないくせに。
「昔からずっと、ですか。なんだか…ナミさんが少し羨ましいです。」
「そうね、そこまで想って貰えるのは素敵な事だわ。」
そうだな。アイツはそんな奴だ。ローグタウンでもナミさんの事が第一だったし進水式の時もそうだった。
そんな事を考えているとマリモが肩に手を置いてきた。何だよ?
「お前のマユゲじゃ無理だ。諦めろ。」
「マユゲは関係ねえ!つーか空気読めや!今はシリアスな場面だろ!!……それに」
おれだって分かってるよ
口には出さなかった。せめてものプライドだ。
「おっ、島が見えてきたぞーーー!!」
ルフィが叫んだ。どうやらドラム王国に着いたみたいだな。
おれも自分に出来る事をするか。