小説『幼馴染みは航海士!?』
作者:じゃパーン()

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〜〜ナミside〜〜


 この頬の温もり。確かな人の暖かさ。


「……ん」

 うっすらと目を開けるとどこかの部屋だった。見回すと誰かが何かしている。…トナカイ?

「…だれ?」

「!!!?」

 トナカイは驚いて本棚にぶつかっていた。ええっと、驚かせちゃったのかしら?トナカイはそのまま
 部屋の入り口に行っちゃったけど…体隠すの逆じゃないかしら?

「あの、逆なんじゃない?」

 一応突っ込むとトナカイはビクッとなった。

「う、うるせえ人間!!それとお前、熱大丈夫か?」

「しゃ、喋った!!?」

「ぎゃああああああああ!!!?」

 なにあのトナカイ!?

「ヒーッヒッヒッヒ、熱ァ多少引いた様だね小娘。ハッピーかい?」

 そう言いながらおばさん(おばあさん?)が額に指を当ててきた。

「……あなたは?」

「あたしゃ医者だ。”Dr・くれは”。ドクトリーヌ、そう呼びな」

「医者?じゃあここは…」

 ラーズは私を連れてきてくれたのね。

「あの小僧に後で礼を言っておきな。普通はアンタの病気なんて分からないからね。放っておいたらお前は
 三日後には死んでたからさ」

「……え!?」

 やっぱりラーズの言ってた事は本当だったんだ。今更ながら背筋が寒くなる。

「ひとまず体から菌が抜けるまで十日ほど。しばらくはゆっくりして貰うよ」

 そんな!?早くアラバスタに行かないとビビの国が!

「…でもっ!?」

「どの道アンタが治ってもあの小僧が動けないだろうしねえ。ヒーヒッヒッヒ」


 えっ?ラーズが?動けない?なんで?どうして?

「あの、それって…」

「まぁ気付かないのも無理はないね。あの小僧は相当無理してたみたいだし。アンタ担いでここに登ってきたのも
 ギリギリだっただろうねえ」

 そん、な。だってラーズは私の事ずっと心配してくれてて。なのに、なのに!

「小僧はアンタと同じ島で毒にやられてたんだよ。常人なら直ぐに動けなくなってもおかしくはないんだけどね。
 どういう体の構造してんだか。」

「そんな…」

 アイツは、下手したら私よりも重症だったの?でもラーズはそんな素振り一度も見せなかった。

「本人すらあまり気付いてなかったみたいだよあの小僧。あの毒を気力で押さえ付ける程、それ程に必死だったんだろうね」

 ラーズ…ラーズ!

「あの、ラーズは?」

「ラーズってのかいあの小僧は?アイツなら今毒と格闘中でしばらく意識は戻らないだろうね。倒れる前は
 かなりの量の吐血をしてたし、何でか腕にも銃創があったし」

 銃創!?もしかしてあの腕の?

「とにかく二〜三日は確実に意識が戻らないだろうね。アンタよりは回復が遅いハズだよ。まぁ小僧の場合こっちが考えてるより
 速く回復するかもしれないけどね。ヒーヒッヒッヒ」

 いつもそうだ。ラーズは自分の事を全然考えてない。昔だって、ローグタウンでだって、今だって。


「あの……」

「なんだい?」

「お願いがあります」






  〜〜ラーズside〜〜


 気がつくと周りは真っ黒な空間だった。何も無い空間を、ただ漂っている。こういうパターンは…

「あれっ?ひょっとして死んじゃった?」

 確か気を失う前にけっこう血ぃ吐いた様な気が…。
 
 まぁ考えたら何時死んでもおかしくない人生だったな。アーロンにはボッコボコにされた挙句に海に投げ飛ばされたし。
 海軍時代も組手でしょっちゅうボロボロにされたっけ。ガープさんに一人だけ海賊船に投げられて1対100で
 戦った事もあった。ローグタウンではサカズキさんに本気で殺されそうになったなぁ。
 …あれ?何でこんな死に掛けてばっかなんだ?

「特に間違った事はしてないハズなんだけどなぁ」

 これまで生き延びたのが奇跡だったのか? 

「どうせなら最後はカッコ良く迎えたかったけど。ナミを庇って死ぬとか」

 ここまでやってきておいて、最後は毒で死にました。つーのもどうなんだ?何か情けなくない?

「はぁ。カッコ悪。………ん?」

 見ると、何やら右手がぼんやり白くなっている。それに白いだけじゃない。

「暖かい…」


 この右手の温もり。確かな人の暖かさ。


 次第に意識はどこかに連れて行かれた。この温もりと共に。



「…ん」

「ラーズ?ラーズ!?」

「ナミ、か?」

 まだ意識がはっきりとしてないので顔は分からないが、この声は間違いなくナミだ。

「あれっ?ここは?確かナミを連れてきてトナカイと婆さんに会って、一安心したら血を吐いて…?」

「その後倒れたんですって。アンタ何日寝てたか分かる?」

 何だかナミが怒ってる様な…。まだ許してくれないのだろうか?何とか上半身だけ起こしてベットの隣にいたナミを見る。
 何か体が鉛の様に重いぞ。
 
「え〜っと三日くらい?」

「…ハァ。いい?アンタは一週間寝てたのよ。一週間」

「へぇ〜一週間ねえ。……って一週間!?」

 おいおい冗談はよしなよハニー。

「そうよ。ずっと寝っぱなしだったんだから」

「そっか…。ところでナミ、熱はもういいのか?ケスチアは?」

「私はひとまず症状は安定したから大丈夫よ」

「そっかー。良かった良かった」

 いやー一安心。これで心配する事はなくなったな。

「……」

「ん?ナミ?」

 見るとナミは下を向いてプルプル震えている。

「……アンタって奴は!」

 言いながら拳を振り上げている!理由は分からんが寝起きの一撃は止めてくれ!お前のパンチは何故かどこの世界でも
 共通で覇気をすり抜けて効くって法則なんだから!あの漫画みたいなタンコブ本当に痛いんだぞ。


「……!」

「…あれっ?」

 泣く子ももっと泣くナミパンチは飛んでこず…代わりにナミ自身が飛んできた。いやナミが抱き付いてきた。

「あ、あの〜、ナミ?」

「少しは、自分の心配くらいしなさいよこの馬鹿!!」

 見るとナミは俺の首の下に顔を埋めて泣いていた。

「アンタはいつもそう!いつだって無理して。いつだって一番危ない事をして。いつだって心配させて!」

 言われたい放題である。

「今だって自分の事なんて気にもせずに私の心配したでしょ?」

 図星である。

「ま、まぁそれは俺の生き甲斐というか人生の目的というか」

「アンタはそれでいいかもしれないけど…」

 ナミは顔を上げてこっちを見た。涙はまだ頬を伝っている。


「心配する私の気持ちも少しは…考えてよ」

「!?」

 そう言われると返す言葉がない。

「アンタにもしもの事があったら私はどうすればいいの?…昔みたいに」

「あっ」

 そうだ。俺がアーロンにやられた時は死んだと思ってたんだっけ。

「あんな辛いのはもう嫌。お願いだから……」

 ナミの抱きついている腕により力が篭った。






「私を一人にしないで?」







 頭が動くより速く俺はナミを抱き締めていた。改めて思う、こんなに震えてたのかと。小さな肩を包む様に抱く。

「ごめん…」

「ううん、いいの」

 お互い抱き合ったまま、しばしの沈黙。


「ねぇ、ラーズ?」

「ん?」

「…その、今までゴメンね。色々と」

 それは俺をシカトしてた事だろうか?…だろうなぁ。俺は空気の読める男だ。

「いいよ別に。俺も悪かったし」

「それでね、一度ちゃんとしようと思うの。いい機会だし」

 言うとナミの鼓動が少し速くなった気がした。しかし何をちゃんとするんだ?

「だから最後まで聞きなさいよ?」

「イエッサー」

 あっ、ついいつもの感じで気の抜けた返事してしまった。俺は空気の読める男ではないらしい。

「もう。…まぁいいわ。」

 ナミに呆れられてしまった。また好感度下がっちゃった!?とかなんとか考えていると







 ナミの顔が近付き、唇に柔らかい感触が伝わった。




「…………」
「…………」




 

  あ…ありのまま、今、起こった事を話すぜ!
  『あのツンツンのナミが急にしおらしくなったと
   思ってたらナミの唇が俺の唇に触れていた』

  な、何を言ってるのか、分からねーと思うが
  俺も何をされたのか分からなかった…

    頭がどうにかなりそうだった…

  催眠術とか妄想乙とか
    そんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ

  もっと素敵なものの片鱗を味わったぜ… 





 ナミは顔が真っ赤になっていた。一方俺は事態の急展開に頭が追い付かず、フランス出身の彼と談笑していた。
 脳内では異世界文化の交流すら出来るのだ。


 『でも考えると不思議だよね。本体が義肢付けたら後ろの甲冑野郎も義肢が付いてるとか。』
 『まぁあれだけやられても何とか生きてたからね。君と同じ様なものさ。しぶといんだよ』 
 『ヒマができたらローマに遊びに行きますよ。』
 『『HAHAHAHAHA!!!』』 



「ラ、ラーズ?」

 あっ、やべ。現実逃避し過ぎた。今度は亀の中でゆっくり談笑するとしよう。さらばだJ・P・P。

「あの、その、何と言うか嬉しいというか…。悪い、頭が付いていってない」

「そ、そうなんだ」

「ナミ。その…今のは…」

「うん…私の気持ち。ラーズにきちんと伝えた事なかったから。…ラーズ?」

「はっ、はい!」

「ずっと、ずっと昔から。今も、これからも」





『好きよ』





 今度は頭の中で、関西弁を喋るおっさんがいい笑顔で『死ぬまでハッピ〜』とか歌いながらバンザイしていた。

 …はっ、また現実逃避していた。おっさんには家で冷えてるビールでも飲んでて貰おう。

「…俺の気持ちも言った方がいいか?」

「うん、聞かせて?」

 ほぼ答えが分かってるナミは俺を見て笑っていた。この笑顔を俺に向けてくれて心から嬉しい。

「俺はナミが好きだ、ガキの頃からずっと」

「うん」

「ちょっと怒ったナミも好きだ、笑ったナミも好きだ」
 
「うん」

「だから。これからもずっと、俺の隣にいてくれるか?」



『うん!』


 そして二人はまた抱き締め合った。どれだけそうしていたかは分からない。ただずっと、こうしていたかった。





 大好きな人が自分の胸の中にいる。これがどれ程幸せな事か、ようやく気付いた。

 今までお互い沢山傷ついてきた。喧嘩もした。離れ離れにもなった。だけど、やっと掴んだその小さな手。

 二度と離してたまるかと、心に誓った。


-34-
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