小説『幼馴染みは航海士!?』
作者:じゃパーン()

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--運命の日--


 〜〜ラーズside〜〜

 気付けばもう十歳になった。…なってしまった。これから先はいつアーロンが来るのか分からない。
 …正直どう対処していいのか全く思い付かない。幾ら鍛えたと言っても、まだ魚人には勝てないだろう。

「それでもどうにかしないとナミが必ず辛い思いをしてしまう。」

 そう、何もしなければナミは魚人達に連れて行かれて八年間苦しんでしまう。それに…

「ベルメールさんも犠牲になってしまう。」

 くそっ、何か方法はないのだろうか…。

「海軍に早めに通報するか?」

 …やるだけ無駄だ。東の海の海軍程度では来たら来ただけ沈められるだろう。村の大人も当然歯が立たない
ハズだし、八方塞だ。



  俺は今、初めて自分の弱さを憎んだ。



 未来が分かってても救う事が出来ない自分を呪った。今更になって後悔ばかりしている。

「今までの努力は本当に足りてたのか?」

 気楽に考え過ぎていた。時間はあったのに。もっと作戦を練るべきだった。

 そんな事ばかり考えていたせいで、村の異変に気付くのが遅れた。


 〜〜ナミside〜〜

 遂カッとなって家を出ちゃった。ベルメールさんに酷い事言っちゃったし、ちゃんと謝らないとな。

「−それで村の外れから私の所へ?」

「そう!家出してきたの。」

「ならラーズのとこにでも行けばいいだろう。」

「…行ったけど居なかった。だからゲンさんのとこにきたの。」

 一番最初にラーズの家にはいった。でも今日は家にも近くにも居なかったんだもん。

「ふむ、だがナミよ。お前達三人は血よりも深い絆がある。それを忘れるな。」

 分かってる。ベルメールさんがどれ程私達を大切にしてくれてるのか。
 本当の親の様に愛情を注いで貰っている事。

「ここだったの!ナミ、帰るよ。」

「うん、ベルメールさんに謝らないとね。」

 ノジコも迎えに来たし、お家に帰ろうっと。そう思っていたその時、

「海賊だー!!!!」

 悪夢が始まりを告げた。


 〜〜ラーズside〜〜

 何か村の様子がいつもと違う気がする。…まさか来たのか!?不味い、まだ考えもまとまっていない。

「よりによって今日かよ!!」

 愚痴を言っても仕方ない。とにかくベルメールさんの家に急がなくては!持てる力を振り絞って
村を駆け抜ける。五分ほど走った所で村の人達を見つけた。

「ゲンさん!!!」

 ゲンさんはまだ怪我していない。ギリギリで間に合ったのか?しかし、

「ラーズ!何故ここに来た!?」

「俺の事よりナミは!?ノジコは!?ベルメールさんは!!?」

「ナミとノジコは無事だが…。」

 ゲンさんの視線を追いかけた瞬間、今まで想像したくなかった光景が広がっていた。

 銃を突き付けられアーロンと話しているベルメールさん。駄目だ!このままでは…

「やめろー!!!」

 体は既に動いていた。今出来る全力の「剃」で二人に近づき、アーロンの銃を蹴り飛ばす。

「なっ!!?」

「ラーズ!?」

 二人が驚いている隙に、ベルメールさんを抱えナミ達の所に移動する。

「「ベルメールさん!!!」」

 ナミ達がベルメールさんに抱き付く。それを見た後視線はすぐにアーロンに向ける。

「シャッハッハッハッ。下等な人間にしては、それもこんなガキが素早く動くじゃねーか。」

「もう好きにはさせないぞ!この魚野郎!」

 正直ビビッていた。実際に見るアーロンは威圧感が半端じゃない。体の震えが止まらなくなりそうだ。
 
 「ラーズ!!」


 でも、それでも逃げるなんて選択肢は無い。俺のためにも、大切なナミのためにも。


「ほぅ、ならかかってこいよ。人間風情がどれだけ出来るか試してやる。」

「アーロンさん!こんな奴俺たちが「いいから黙って見てろ。」…分かりました。」

 しめた!全員ならほぼ返り討ちだが、アーロン一人ならもしかしたら…。

「じゃあ…行くぞ!」

 再び「剃」でアーロンに近づく。

「ちっ、面倒なスピードだな。」

 やはりアーロンは完全には俺を捕らえ切れていない!アーロンの背後に回り、背中に全力の拳を放つ。

「まだまだ!!」

 すぐさま移動し顔面に蹴りを食らわす。直後に腹に正拳突き。そして後ろに下がり距離を置く。
少しは効いたか?

「速さはまともだが、肝心のパワーが足りねえなぁ。これじゃあ俺にダメージは与えられねえよ。
人間にしてはマシだがなぁ。シャーーハッハッハッ!!!」

 おいおいマジかよ。ほぼ全力で食らわしたってのに無傷かよ。これが人間と魚人の差なのか?

「っくそが!!」

 それでもそれでも接近しダメージを与え続けるしかない。脇腹に右拳を殴りつける。しかし殴ったその瞬間、アーロンに右腕を捕まえられた。

「捕らえたぜぇ。」

 全身を嫌な予感が駆け巡った。次の瞬間アーロンの拳が体にめり込んだ。あまりの威力に十メートルほど
ノーバウンドで飛ばされる。

「がはっ!!」

 何て威力だよ。内臓ごと抉られたかと思った。もしかしたら肋骨もおれてるかもしれない。何とか立ち上がり体勢を整えようとするが、体が上手く動かない。

「ラーズ!いやぁ!!」

 叫びながらナミがこちらに来ようとしている。が、

「来るな!!」

 ナミが巻き込まれたら間違いなく死んでしまう。それだけは何としても避けないと!

「ほう、まだ立てるか。」

「ハァ、ま、まだこれからだよ。」

 言いながら「剃」でアーロンの死角に移動しようとする。しかし…

「随分遅くなったじゃねーか。丸見えだ小僧。」

 今度は顔面に蹴りが飛んで来た。咄嗟に両手を上げてガードの体勢に入るが、それを弾き飛ばして
顔面に食らう。再び盛大に飛ばされた。

「がはっ!ぐぁっ。」

 口の中に鉄の味が広がる。今のはかなり効いた。両手は痺れ、蹴られた右頬は熱く熱を持っている。

「どうした小僧?もう立てないのか?」

 いたぶる様な声。何とか全身に力を入れ立ち上がろうとした時、

「やめてぇーーーー!!!」

 ナミの声が聞こえてきた。そして次の瞬間、右肩に焼ける様な痛みが襲ってきた。

「がぁぁぁぁぁぁァァァァァァ!!!」

「シャハハハ!!貴様等人間の作った武器の威力はどうだ?痛いか?」

 銃で撃たれたと気付くのに少し時間が掛かった。右腕が赤く染まっていく。このままでは不味い。
出血多量になる前に「生命帰還」で少しでも血を止めるしかない。

「どうした?もう終わりか?貴様等の様な下等な種族はそれが限界か?」

 アーロンが悪魔の様な顔でこっちを見ている。片膝つきながら、上半身だけ何とか起こした。

「ラーズ!ラーズー!!」

 見るとナミは泣きながら叫んでいた。こっちに来ようとしているのを、ノジコとベルメールさんが
必死に止めている。「二人ともありがとう。それとナミごめん。夢、叶えれないかもしれない。」叫ぶ余裕も
なくなり、心の中でつぶやく。

「さて、小僧の次は女、貴様だ。さっきは邪魔が入ったからな。」

 アーロンがベルメールさんの方へ向かおうとする。

「ま、待てよ…。まだだ…。」

 もうまともに「剃」も出来ない。「生命帰還」も完全ではないので、出血を少し抑える位しか効果がない。

「往生際が悪いぞ小僧。」

 それから何発も殴られ、蹴られた。最早どこが骨折してるかも分からない程、全身に痛みが走っていた。
立ち上がる力すら奪われ、意識を保つだけで精一杯だった。

「さて、動かなくなったみたいだな。このまま殺してもいいんだが、それじゃあ面白くねえ。」

 そう言って俺の体を軽く掴むアーロン。

「な、なに、しやが、る…。」

 かろうじて口を開く。すると、アーロンはニヤニヤしながら答えた。

「なぁに、大した事じゃねえ。今からお前を俺の全力で海に放り投げるだけだ、俺の全力でな。」

 俺に反撃する力は残っていない。

「こんだけ痛めつけたが、運が良ければ生き残れるかもな。なあ同胞よ!」

 ゲラゲラ仲間と笑っているアーロン。

「これ以上はやめなさい!犠牲は私一人でいいでしょ!!」

 ベルメールさんの声が聞こえる。しかし、

「次は貴様だ。それにこのガキも金を払ってねえハズだからな。見せしめは必要なんだよ。」

「ち、く、しょ、う、が…」

「じゃあな小僧、恨むんなら手前を恨みな。」

 そしてアーロンは俺を投げ飛ばす体勢に入る。

「止めてーー!!ラーズー!!」

 俺の意識に最後に残ったのは涙でボロボロになったナミの顔と、とても辛そうな声だった。



 そして俺は限界を迎え、空中で意識を手放した。




 

-4-
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