〜〜ラーズside〜〜
お手製の樽ボートも完成し、一回戦の準備を終える。噴風貝も取り付けたし、これなら負けないだろ。
相手チームを見てみると……考えた事は俺と同じみたいだな。魚人にロープつけて引っ張らせる作戦か。
最後の船の点検をしているウソップに話しかける。
「どうも相手は魚人に船を引っ張らせるつもりらしいな。こりゃ分が悪い」
「おいおい、それじゃこっちに勝ち目無いじゃねェかよ!折角噴風貝つけたってのに」
「とりあえず緊急の装置としてコレを使え」
「ん?…コレってまさか」
ウソップに秘密兵器を渡す。
「お前の推理通りだ」
「使うのはともかく、俺だけ飛んでいくって事にはならないよな?」
「…大丈夫だ、きっと…」
「おい!全然確信が持てねェよ!そんな不安混じりに大丈夫とか言うな!!」
ウソップが叫ぶが仕方ない。俺も試した事ないし無理にでも使ってもらわなくては。
「仲間の為に一肌脱ぐんだ!お前ならきっとやれる!」
「何かいい感じの言葉で誤魔化そうとしてないか!?」
正解。よく見抜いてるね。
「とにかく俺達は陸から妨害するから二人の事は頼んだぞ」
「…まァナミとロビンに何かあったら俺がお前にやられそうだからな。そっちの方が恐ろしいよ」
諦め半分で、肩を落とすウソップ。理解が早くて助かるな。
「なら俺は移動するから頑張れよ」
「やれるだけはな」
ウソップと別れ、俺もみんなが待ってる場所に移動する。ルフィは相変わらず食ってばかりだな。ゾロも自分の近くに
大量の酒を置いて準備してるし。コイツ等純粋に祭りを楽しんでないか?
「サンジ。俺は相手チームをひたすら妨害する。別に沈めてもいいんだよな?」
「あァ。ルール上は問題ねェ。相手もウソップ達を沈めようとしてくるだろうからな」
「ならサンジは陸にいる奴等を徹底的に潰してくれ。相手が後悔するくらいに」
「……やたら気合入ってんな」
「当たり前だろ。こっから妨害してくるんなら奴等は銃や大砲撃つだろうからな。もしもナミやロビンがそれで
傷ついたらどうするんだよ?」
俺の話を聞いた瞬間、サンジの目つきが鋭くなり体から炎を出し始めた。
「勿論死刑だァ!おれのレディーに手は出させん!!」
うおっ!?ちょっと煽り過ぎたか?コイツ体のどこからその炎出してるんだ?良く見たら目まで燃えてるし。
「…その意気で頼むぞ」
「おォ!全滅させてやる!!」
ここまで気合が入れば大丈夫だろ。後、勢いで言ってるがお前のレディーじゃないからな。
そうしてサンジと妨害の計画を練り終えて一息ついていると、アイマスクの野郎が近付いてきた。
「アンタが”白狐”さんかい?」
「あん?お前は誰だ?」
「おれはただの伝言役さ。ウチの船長が話があるから島の中央に来て欲しいって」
「あの割れ頭か。ならアイツに伝えろ、今から忙しいって」
何の話か知らないがそんなモンに付き合ってるヒマはない。
「おっと伝言は最後まで聞いてくれよ。「青髪の女も一緒だから」って」
「!?」
急いで辺りを見回すが、いない。俺は近くにいたチョッパーの所へ走って行く。確かさっきは一緒だったハズだ。
「チョッパー、ビビを見なかったか?」
「ビビならわたあめ買うって言って屋台のとこに残ったぞ!」
…やられた。そういう事かよ。まさかすでに手を打ってきてるとは思わなかった。
またアイマスクのとこに戻る。
「分かってもらえたかい?」
「あァ、貴様等が下衆だって事がな。場所は中央だったな?」
俺は何とか怒りを押し殺して喋っているが、それでもアイマスクをビビらせるには十分だったみたいだ。
「そ、そうだ。お、おれは伝えただけだからな!」
そう言ってアイマスクは全力で走り去って行った。
「サンジ、少し用事が出来た」
「あん?ラーズどういう…」
サンジの言葉を聞く前に俺は動き始めていた。「月歩」で空に跳び上がり、屋台を一応確認するが
青髪の女の子は見当たらない。ちっ!
そのまま空を駆け島の中央に行くと巨人みたいなデカイ男と、手が長くて足が極端に短い男、そして忌々しい
割れ頭を見つけた。俺も空から降りて割れ頭に近付く。
「フェッフェッフェ。よく来てくれた”白狐”。しかし空を飛んで来るとはな」
「俺に用事ってのは何だ?」
割れ頭はムカつく口調で話を続ける。
「大した事ではない。今からレースが終わるまでココで大人しくして欲しいだけだ」
そう言って割れ頭は巨人の方を見る。さっきから両手を前に出して何かを握ってる様だったが…!!
「お前の仲間もいる事だしなァ。フェ〜〜ッフェッフェッフェ」
巨人が手の握りを変えて見えた頭は…やっぱりビビだった。
「ビビ!!」
「兄さん!!」
ビビも巨人に握られて身動き出来ないみたいだ。ここまでやってくるとはな。
「フェッフェ。理解出来たかな?」
割れ頭は悪そうな顔をしている。こんなに後手に回ったのは今までで初めてかもしれない。
「んで、俺はどうすればいいんだ?動かなければビビは解放してくれるのか?」
「レースが終わるまでな。もし何かしようとしたら、この女を握り潰す様に言ってあるから何しても無駄だぞ」
「…何故船長じゃなくて俺を足止めした?」
そう、それも疑問なのだ。わざわざルフィじゃなくて俺、その理由。
「簡単な事だ。おめェ等で一番危険なのは白狐、お前だからだよ。海軍大将ともやり合ったその実力。余りに危険」
やっぱり知ってたか、コイツ。不細工で小物のくせに頭は回るみたいだな。少し認識を改めないといけない。
すると、実況の声が聞こえてきた。
『それじゃあ一回戦始めるよ〜〜!レディ〜〜イ、ドーナツ!!』
その声と共にピストルの合図が聞こえ、一気に騒がしくなり始めた。
「おっと、どうやら始まったみたいだな?んでどうする?フェッフェッフェ!」
「…分かった。俺はここから動かない」
「兄さん!」
ビビは自分のせいと考えてるのか泣きそうな、悔しそうな顔で叫んでいる。割れ頭は俺の返事に満足した顔をしている。
「但し」
俺はその場で巨大な白い火柱を空に打ち上げた。その大きさに割れ頭も驚いている。
「ビビに傷一つでもつけてみろ。その瞬間に俺はお前ら全員を潰すぞ」
「あ、あァ。それは、や、約束する。ならおれ達は行くからな」
そう言って割れ頭は手の長い男に乗ってどこかへ行った。俺はその場に座り込んだ。
「兄さん…ゴベンナサイ」
巨人の手の中でビビは泣いていた、顔をグシャグシャにして。よっぽど悔しいんだろうな。
「気にするな、お前のせいじゃないんだし。それよりケガしてないか?」
勿論ビビのせいだなんて全く思ってない。もしかしたらチョッパーが人質になってたかもしれないんだし。
「……バイ」
ならひとまずは安心だな。俺はまだ泣いているビビに笑顔を向ける。
「なら終わるまでのんびりしてようぜ」
「……グスッ、ヒグッ」
ビビは少しでも泣き止もうとしていた。
レースは順調に進んでるみたいだが、ここからではどうなってるのかよく分からない。さっき聞こえた
実況の声も聞こえなくなってるし。これも割れ頭の作戦なのか?
今の俺に出来る事は何もないな。ウソップ達に頑張ってもらうだけだ。
サンジは頑張って相手を倒してくれているだろうか?
あの割れ頭なら他の奴等にも手を打ってる可能性がある。俺ならそうするし。
となると、味方の援護は難しいかもな。たまに銃声が聞こえるって事は敵が何らかの攻撃をしてる証拠だ。
おれ達に銃を使う奴はいないし。
しばらく大人しく待っていると、一際声援が大きくなった。すると、ようやく実況の声が聞こえてきた。
やっぱりあの割れ頭の仕業だったか。やってくれるぜ。
『ゴ〜〜ルイン!!勝ったのは我等がフォクシー海賊団!!見事に一回戦を勝利しました!!』
これだと仕方ないな。割れ頭の作戦勝ちだ。
「おい巨人さん、勝負は終わったからもういいだろ?ビビを解放してくれ」
「ほらよ」
巨人は手を放してきちんとビビを解放した。ビビはその場で座り込んでまた泣いていた。
近くに行ってしゃがみ込み、泣いてるビビの頭を撫でながら話しかける。
「ほら、もう大丈夫だから泣くなよ」
「でも!わだしのせいで…」
「だから気にすんなって。みんなの所に帰るぞ」
でも、ビビはそのまま動かなかった。その場で泣いたままだ。
「やれやれ、しょうがないな。ほらよっと」
そう言って無理矢理ビビを背中におんぶする。こうでもしないと帰りそうにないしな。
「ウゥ〜ッ」
ビビは俺の背中でも泣いたままだった。
「……歩いてゆっくり戻るから、それまでには泣き止むんだぞ?」
ビビに向けて優しく話しかける。ビビは返事はしなかったが、きっと言いたい事は伝わっただろう。
それにしてもあの割れ頭め。俺の妹をこんなに泣かせやがって。全力で潰さないと気が済まないな。
アイツも確か能力者だったハズだが、さてどんな能力だったっけな?
皆の所に戻りながら考える。さっきアイツがどっかに行ったのは自分も妨害する為だっただろうし、ウソップ達に
聞けば何かしら情報は伝わってくるだろう。
そうしてビビを背中に乗せたまま、のんびり歩いて戻って行く。結局ビビは最後まで泣き止まなかった。
ビビが流した涙の分だけ、俺の怒りが溜まっていった。