〜〜ラーズside〜〜
「ん…」
うっすらと目を開けると、見覚えのある景色だった。だが、それはメリー号で見てた景色じゃなかった。
俺がここで寝てたって事は…
「負けた、か」
最後に放った焔弾でも勝てなかったんだな。けっこう追いつめたと思ったんだけどなァ。世界トップの壁は
まだ厚かったか。今の俺じゃまだダメって事だな。
みんなを守ろうと思ってたが、結局はやられてしまった。
「ん?起きたのか?」
ドアの開く音と共に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「…人の腹に風穴開けておいて平然としてるとは。流石海軍大将ですね」
「おいおい、いきなり嫌味か?それにお前もおれの腕折っただろうよ。お互い様じゃない?」
右腕を三角巾で固定したクザンさんだった。
「まァ確かに。それに治療もして貰ったみたいですし」
脇腹には包帯が巻かれていた。
「そりゃ殺しに行ったんじゃないからな。殺してたらセンゴクさんに激怒されてるよ。けっこう深手は負わせたが、
一日で目が覚めるんなら問題ないだろ」
「全く…それで、約束は守ってくれたんですか?」
「一応はな。あそこでは手を出してないよ」
なら、アイツ等は一応無事って事か。それならひとまずは安心だ。ナミと会えなくなってしまったが、
死なれるよりは全然マシだ。あの時俺がクザンさんに勝ててたら自由だったんだけどなァ。
「しかしセンゴクさんには呆れますね。勧誘と言いながらも軍艦三隻連れて、俺に逃げ道を与えないなんて。
流石にあの状態じゃ勝ち目は薄かったし、参りましたよ」
「それだけお前の事が大事だったんだろうよ。まさにどんな手を使ってでも、ってやつだな」
クザンさんは笑っていたが、俺は見事にしてやられていたのだ。
センゴクさんはまず俺にクザンさんをぶつけ、俺を倒した後に残りのみんなを海軍大将と軍艦三隻で脅し、屈服
させるというモノだ。俺が七武海加入を断る事を前提として話を進め、俺と一味を切り離すための見事な作戦だった。
その辺の海軍相手ならどうにかなったかもしれないが、大将を使うのは反則だろ。オマケに中将まで連れてくる
なんて、過剰戦力もいいとこだ。
「何もモモンガさんまで連れて来なくても良かったと思うんですけど」
「丁度ヒマしてたみたいだからな。ついでに連れてきたんだよ。落ち着いたら顔ぐらいみせておけよ」
モモンガさんとは海軍時代に知り合って、良く鍛錬にも付き合って貰っていた。「月歩」のコツなどを
教えてくれたのもモモンガさんだ。仮にあそこでクザンさんを倒せてても、あの体でモモンガさんと軍艦三隻分の
海軍を相手にするのは厳しかっただろうな。
「やれやれ。俺みたいなのより、その辺で暴れてる海賊でも捕まえて下さいよ。それが仕事なんだから」
「それは今後お前に任せるさ。何せ新しい七武海なんだからな」
「全然嬉しくないですけどね。とりあえずセンゴクさんには軽く文句言います」
「…余り言い過ぎるなよ。最近白髪で悩んでるらしいから」
「善処します」
「ったく…ならまだ休んでおけ。マリンフォードまでは後三日ってところだ」
そう言ってクザンさんは部屋を出て行った。やっぱ行き先はマリンフォードだよなァ。ここは軍艦の医務室だし。
しかし、今の内に考える事があるな。
まずは俺のいなくなった一味の事。この先はひとまずウォーターセブンに行くだろうが、そこからどうなるんだ?
やっぱロビンが連れて行かれるのか?少なくてもロビンは俺を信頼してくれていたし、最後に話してた時は
仲間の気持ちに気付いてた様な感じだったんだが。う〜む展開が分からんな。
それから今後の俺の行動。半ば無理矢理七武海に入れられた事により、黒ひげがどう動くか。エースは勝てるのか?
アラバスタで多少能力の事は教えたが、これも読めないな。
仕方ないから、裏から一味の為に出来る事をするしかないな。とりあえずセンゴクさんに加入の代わりの
恩赦でも交渉しよう。それ次第ではかなり手助けも出来るし。
後は一味に戻る事。まァ七武海なんか抜けてサクッと戻ってもいいんだが、それだと今度こそ一味が
全滅していまうかもしれない。なるべく慎重に、でも時間を掛けない様にしないといけないから、これも
考えなければならない。
…何かまたやる事が増えたな。あぁ〜もう面倒だ!こうなったら、七武海の名前を最大限に利用してやる!
とりあえず体は動くみたいだし、暴れたりしなきゃ問題ないだろ。
ベットから降りて、医務室を出る。外に出ると、沢山の海兵達がこっちを見ていた。いくら俺が変だからって
見過ぎじゃないのか?気にせずに甲板にでも行こう。知ってる顔なんていないし。
甲板に出て海を眺める。考えるのはナミの事、一味の事だ。アイツ等今頃どうしてるんだろうな?
「もう動けるのか?」
空から声がしたので、見上げるとモモンガさんが跳んで来た。こうやって他の人が空を跳んでるとこを見ると、
やっぱ不思議な感じがするな。
「歩く分には問題ありません。戦闘は流石に無理でしょうけど」
「大将と死闘を演じたのだから無理もない。それより…久し振りだな」
「勝手に海軍を抜けた事に関してはすみませんでした」
モモンガさんに頭を下げる。
「青雉殿から大まかな話は聞いた。それより、元気にやってたみたいで何よりだ」
「こんな形で再会するなんて考えてなかったですけどね」
「それは私もだ。海軍を抜けて賞金首になって、更には七武海に加入して再び戻ってくるとはな。異色もいいとこだぞ」
確かに。
「しかし、元帥殿や青雉殿の気持ちがようやく少しは分かったかもしれないな」
「師匠の意志を継いで、なんて事にならなかったですからね」
「それでも、だ」
「…そうですか」
んー複雑な気分だな。ここまで気に入られていると、今後動きづらくなりそうな気がしてならない。
「まぁこれからは敬意を込めて”白狐殿”と呼ばせて貰おう」
「にやにやしながら言わないで下さいよ。大体すでに敬意込めてないじゃないですか」
「気にするな。ではまた」
そう言って跳び去ったモモンガさん。前から思ってたんだけど、何で海軍の三大将はみんな変人なんだ?
おれはモモンガさんの方が人間としては全然まともだと思うんだがな。しっかりしてるし、仕事サボらないし。
あの人の下だったら良かったのにな。
「お前今失礼な事考えてないか?」
「うわっ」
いきなり後ろからクザンさんに声をかけられて驚いた。
「そんな事ないですよ。海軍の大将は凄いんだな〜って尊敬してます」
「…よそ見して背伸びしながら言う台詞じゃないと思うがな」
「気にしないで下さい」
そう言って再び海を見つめる。
「アイツ等が気になるのか?」
「そりゃそうでしょう。気にしない方が変だと思いますよ」
「ニコ・ロビンは成長していた。アイツはようやく”宿り木”を見つけたんだろう。アイツはお前の想いを
一番受け止めてたみたいだぞ。顔つきが違ってたからな」
クザンさんもおれと同じ方を見ながら話す。
「最後にロビンの為に仕事が出来ました」
「後はアイツ等がどう動くか…一応声はかけてきたけどな」
「どの道すぐに再会は出来ないでしょうし、アイツ等を信じますよ。俺は俺で色々やる事ありますし。それに…」
「ん?」
「いい機会だったのかもしれません。アイツ等は今回世界のレベルを知る事が出来た。俺がいなくなった事で、
アイツ等はこの先の航海の危険さを感じれた。今回の事を糧にでもしてくれれば、と考えています」
そう。ルフィ達は今まで仲間と別れた事はなかった。俺がいる事もあって、ビビすらアラバスタから連れ出した
からな。厳しく言ってしまえば、海賊としては甘い部分があったんだ。俺はそんなアイツ等も好きだったけど。
だから、気持ちを引き締める為にも一度こういう事を経験していてもいいと思う。
アイツ等ならきっと前に進んでくれるハズだ。
「…お前はつくづく抜け目がないな。まァおれもあの一味がどうなるかは気になるが」
クザンさんはロビンの事もあるからな。
「しかし俺が七武海ですか…あんまり実感ないんですけど」
「その内他の面子とも会うだろう」
「あんまり会いたくもないんですけどね。あんまり興味ないですし。それより他の候補って誰だったんですか?」
「確か…マーシャル・D・ティーチって名だ。なんでも手土産持参するから待っててくれって事だったがな」
やっぱりか。って事はギリギリで俺が先に空席に滑りこんだんだな。ならどうするんだ?エースと戦うのか?
「なるほど…」
「また何か考えてるのか?」
「今はまだ何も。落ち着いてからのんびり考えますよ」
「やれやれ」
そうしてお互い沈黙する。ロビンがルフィ達を信頼してくれたんなら、ひとまずウォーターセブンでは展開が変わるな。
多分クザンさんはあの長官にゴールデン電伝虫渡してないだろうし。俺はタイミング的にも手を出すのは無理だな。
そうして船は進んでいく。何ヶ月かぶりの海軍本部へと。
「ところで、何で海兵達は俺をジロジロ見てるんですか?」
「一応新しい七武海だしな。気になるんだろ。それに…」
「それに?」
「お前のその尻尾が気になるんじゃないか?」
「…それはこの尾をバカにしてるって事ですか?」
「おい落ち着け。炎漏れてるって」
「ったく、ちゃんと指導しないから碌な海兵が育たないんですよ。これは上司の責任ですね」
「あっさり海軍抜けたお前がそれを言うか?」
「反面生徒と呼んで下さい」
「…お前変わったな」