時は少し遡り、ルフィ達がウォーターセブンに着く少し前の事。
〜〜ラーズside〜〜
目の前には大量のシャボン玉、そして巨大なマングローブ。なんともメルヘンだな。この規模で島じゃないってのは
何とも不思議だ。しかしこの諸島に無法者もいれば遊園地もある。どういう組み合わせなんだろな?
ひとまず適当に船をつける。んーとここは61番グローブか。マリンフォードの方から来たから、海軍の駐屯所が
近くにある様になってるのか?
「止まれ!貴様何者だ!」
上陸してすぐに下っ端海兵に銃を向けられ止められた。センゴクさん、ちゃんと情報伝えてんのか?
「俺は白狐のラーズだ。詳細が知りたいなら上官にでも聞け」
「怪しいな…そのまま待ってろ」
そう言って近くの海兵に見張りをお願いして駐屯所に行く下っ端。問答無用で通過してもいいけど、一応立場も
あるし派手にやったらセンゴクさんの白髪が増えかねないからな。少しするとさっきの下っ端が全力疾走で
戻って来た。どうやら理解出来たみたいだな。
「先ほどは大変失礼致しました!ラーズ様ですね!」
改めて思うが七武海ってすげーな。
「そういう事。この島に用事があってね。出来たら他の海兵達にも通達しといて。毎回止められると面倒だから」
「了解しました!」
そう言って下っ端は去って行った。
再び目的地に向かって歩いて行く。しばらく奥に向かっていると、チンピラみたいなのがゾロゾロ出て来た。
ぼちぼち無法地帯に入ってきたのか?グローブの番号は一桁みたいだしな。
「尻尾が生えた人間なんて珍しいな。コイツを売ればけっこうな金になるんじゃねェか?」
チンピラの一人が卑下た顔をしながら喋っている。確かにこの辺りはうっとおしそうだ。構わず歩く。
「おいおいシカトとはいい度胸じゃねェか!」
別のチンピラが凄んでいるが、それもシカト。
「もうコイツやっちまおうぜ!」
更に別のチンピラが話した瞬間、チンピラ達が剣を持って襲い掛かってきた。やれやれ。俺は「月歩」で空に
上がり、九本の尾を振り回して地上目がけて「嵐脚」を飛ばす。
「んなっ!?ぎゃあァァァ!!」
チンピラ達は空に浮いてる俺に驚き、「嵐脚」で切り刻まれる。あっという間にチンピラ達は壊滅状態。30人くらい
いた様な気もするが、まァこんなもんか。
つーかコイツ等誰に向かって来てるのかちゃんと理解してんのか?尻尾が出てる人間なんか明らかに怪しいだろ。
少しは警戒しろよ。
それから目的地に着くまでに五回も襲撃を受けた。一閃で撃ち抜いたり焔弾を放ったりしながら、全部撃退する。
戦いながら気付いたんだが、一閃の速度と威力が上がっていた。焔弾も更に大きくなっていた。
何より一番ビックリしたのが手の平からも一閃を撃てる様になった事だ。前までは炎を集める程度だったのだが、
ますますボルサリーノさんっぽくなってきたな。
もしかしてクザンさんとの戦いで成長したのか?あの時も確かに死に掛けたが…もしかして俺は生命の危機に陥ると
復活した後に強くなる、戦闘民族的な体質なのか?
そんなくだらない事を考えてる内に、目的地の13番グローブに到着した。
「ええっと確かどっかの木の根っこの上だったかな」
思い出しながら辺りを見回すと…一軒の建物を見つけた。階段を上り入口を見る。
「…こんな事書いてて客が来るのか?」
目の前の建物の看板には『シャッキー’SぼったくりBAR』と書かれている。俺が普通の海賊だったら絶対に
こんなとこ近寄らないぞ。まァ今回は用事があるから行くんだけどさ。
「すみませーん」
店内に声を掛けながら入口のドアを開ける。
「いらっしゃーい…あら?アナタは…」
カウンターでタバコを吸っている女性…年齢不詳だなこの人。シャクヤクさんがいた。
「初めまして、ラーズと言います」
軽くお辞儀をしながら挨拶をする。目上の人間にはきちんとしないとな。
「私はシャクヤク。シャッキーとでも呼んで。その尻尾にその名前…アナタ白狐ちゃん?」
「よく知ってますね」
「そりゃアナタは今一番有名だと思うわよ。新しい七武海さん。それに青雉と互角だったなんて信じられないわね。
こんなに可愛いのに」
この人の情報網は凄いな。正式には昨日加入したばっかりだってのに。
「まァクザンさんには結局負けたんですけどね。だから七武海に加入したんですよ」
「麦わらの一味は何で抜けちゃったの?君達の事応援してたのに」
「それは……」
シャッキーさんにはざっくりと経緯を説明した。
「なるほどねェ。白狐ちゃんも大変なのね。あの仏のセンゴクにまで気に入られちゃって」
「そんな訳で今一味に戻ると色々と不都合なんですよね。それでシャッキーさんにお願いがあるんですけど」
「あら?何かしら?」
…………
「それだけでいいの?」
「十分です」
「モンキーちゃん達が来なかったら?」
「その時は捨てて貰って構いません。それにアイツ等はきっとココに寄るでしょうから」
「分かったわ。それくらいなら任せなさい」
「ありがとうございます」
「それにしても白狐ちゃんは不思議な子ね。変な言い方かもしれないけど海賊って感じがしないわ」
「自覚もありますよ。俺はただ恋人を守れればそれで十分ですしね」
「そう…その子も幸せ者ね」
「多分ルフィ達と来ると思います」
「ならそれを楽しみにしておくわ」
そうして店を出る。これで少しはマシになるだろう。さて次は…と思っていたら早速電伝虫が鳴った。
もう指令かよ。さすがに早くない?ひとまず受話器を取って話す。
「はーいこちら白狐」
『ラーズか、今いいか?』
センゴクさんは何の用事だろ?
「何かありましたか?」
『一つ目の指令だ。まァ簡単なものなんだがな、内容は−−−−』
センゴクさんの話を一通り聞いた。
「何でそれが俺の仕事なんですか?」
『他の奴等はこう簡単には言う事を聞いてくれん。ついでに顔合わせもしてくるんだ』
「…俺に安易に仕事押し付けてないですよね?」
絶対押し付けてるだろ。つーか指令にほとんど従わないって七武海に入れておく意味あるのか?
『そんな事は無い。海軍とてなかなか戦力を割く事が出来んのだ』
大将三人ともヒマそうにしてた気がするんだけどなァ。本当はもう一人会いに行く予定だったが仕方ない。
「まァいいですよ、こっちの用事もひと段落しましたし。んで誰と行くんですか?」
『モモンガ中将にはいつでも出れる様に準備して貰っている』
「ならシャボンディ諸島の海軍駐屯所まで来て貰っていいですか?」
『そこで何してるんだ?』
「それは秘密です。そんなに大した事じゃないですけど」
『…まァいい。それでは頼んだぞ』
そうして再び来た道を戻る。駐屯所の近くで待っていると軍艦が見えてきた。甲板にはモモンガさんもいるな。
「月歩」で軍艦に向かう。
「早速仕事だな、白狐殿」
本当に呼んでくるとは、まさに嫌がらせ。
「モモンガさんが言うと嫌味にしか聞こえませんよ」
「まァ気にするな」
「とりあえず俺の小型船も引っ張って貰っていいですか?ココに置いとくのも嫌なんで」
「うむ、了解した」
「しかし初指令がこんな事とは思ってなかったですよ」
「我々もアレには手を焼いていてな。なかなか思う様に事が運ばんのだ」
「俺が行ってもあんまり変わらない気はしますけどね。大体どうやって探すんですか?」
「ひとまず連絡はつけてある。近くまで行ったら後は目で探すだけだ」
「…なんて適当な」
思わず頭を抱える。センゴクさん真面目に考える気あるのか?こんな広い海でどうやって海賊船
一隻探せって言うんだよ?簡単に探せないから海賊達が旅出来てるって分かってるのかな?
「とにかく出航するぞ」
やれやれ、こんな事にはあんまり時間かけてられないんだけどな。さっさと見つけてしまおう。
出来るだけ早く終わらせないと、ルフィ達に万が一があったら対応出来ないからな。
こうして俺の初仕事が始まった。船はシャンボンディ諸島を離れ進んで行く。しばらく俺の出番はなさそうだ。
与えられた部屋でのんびり過ごしながら今後の事を考える。
それから数日ほど経過して、ようやく目的の船が見つかった様だ。モモンガさんが部屋に呼びにくる。
見張りの兵士達も少し緊張している様だな。
「見つけたぞ。あれが−−−」
九蛇海賊団だ。