小説『織斑一夏の無限の可能性』
作者:赤鬼()

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Episode9:クラス対抗戦




【一夏side】


主人公としての立場が危うくなり始めてから数週間経ちました。

五月。IS学園に入学したばかりで主人公の立場がたった数週間で脅かされる主人公をどう思いますか?

話が逸れました。

あまりの展開についポロッと本音が......。

ちなみに前回の部屋での騒動の件以来、鈴の機嫌は直らない。

あの後、翌日になって二組まで謝りにも行ったのだが、鈴は会ってくれなかった。

俺に会いに来る事はまずないし、たまに廊下や学食であっても露骨に避けられる。


「一夏、来週からいよいよクラス対抗戦が始まるぞ。アリーナは試合用の設定に調整されるから実質特訓は今日で最後だな」


いつもの面子、俺に箒、セシリアの三人で第三アリーナに向かう。


「しかし流石だな。剣の腕だけでなくIS操縦でもこれだけ差がつけられるとは......」


「何言ってるんだよ? 箒はISに乗ったのもつい最近だろ。それでこれだけ動けるようになってるんだ。剣もそうだったが、箒は筋がいい。もっと自分に自信を持て」


「そ、そうか?」


「こほん! 一夏様も流石ですわ。一夏様のIS操縦技術も日増しに上がってきております。まぁ、代表候補生であるわたくしが、このわたくしが特訓に付き合っているんですもの」


やけに『わたくしが』を強調してくるセシリア。

まぁ、セシリアは流石、代表候補生というとこか、IS操縦は他の同級生に比べても格段に上だ。

IS操縦に関しては素人な俺の特訓に付き合ってもらってるのは正直、感謝してる。

アプローチの仕方も日増しに上がってきているけどな......それにつられる形で最近は箒も......

ハッ!!

いかんいかん、話がまた逸れてしまう所だった!!

そして今日の特訓を終え、第三アリーナのAピットに戻る。バシュッと音を立てスライドドアが開くと鈴がいた。


「待ってたわよ、一夏!」


腕組みをして、ふふんと不敵な笑みを浮かべているが、どうにもこういう格好が似合わない。

それに昨日までは怒り心頭で俺の事をずっと無視していたのに、何でここにいるんだ?


「貴様、どうやってここに?!」


「ここは関係者以外立ち入り禁止ですわよ!」


箒とセシリアはお約束の如く、鈴に食って掛かるが、鈴はまるで気にもしていないという感じで二人を無視する。


「はん! あたしは関係者よ。一夏関係者。だから問題なんてないわ」


「ほほう、どういう関係かじっくり聞きたいものだな......」


「盗人猛々しいとはまさにこの事ですわね!」


火花を散らす三人。このままでは俺に飛び火してしまうんじゃないだろうか? よし、ここは戦略的撤退だ。

三人に気付かれないように......

正面を向いたまま、後ろへ下がろうとした瞬間―――


「一夏! まだ話は終わってないわよ!」


鈴に見付かりました。

まぁ、鈴がここにいるというのはいい機会だ。この前の事、謝っておくべきだろう。


「まぁ、その、なんだ」


「なによ?」


「この前の事は俺が悪かった! すまん!」


パンと手を合わせ、鈴に向けて頭を下げる。やはり女の子は泣かせるのはよくない。


「............」


鈴は何も言わない。恐る恐る視線を上にあげてみると、鈴は何故かモジモジしてた。


「ま、まぁ、この前は私も引っぱたいちゃったし......これでお相子って事にしてもいいわよ?」


「そ、そうか! 本当にこの前はごめんな!」


何とか鈴の機嫌は直ってくれたようで一安心―――やっぱり気心の知れた幼馴染とはいつまでも喧嘩したままではいたくないしな。


「と、ところでさ。あの約束の意味、ちゃんと理解できた?」


「え? だから毎日俺にご飯おごってくれる―――」


「馬鹿っ!!」


また罵倒されてしまった。しかも箒は呆れ顔だし、事情を知らないセシリアはセシリアで「何の事ですの?」と事態についていけてない。


「この馬鹿! アホ! 間抜け! ここまで朴念仁だとは思わなかったわ! いいわ! 来週のクラス対抗戦でコテンパンにしてやるんだからっ!!」


―――ヤバい、またしても俺は何かやらかしてしまったらしい。


「ちょっとは手加減してあげようかと思ったけど、どうやら死にたいらしいわね......。いいわよ、希望通りにしてあげる。―――全力で、叩きのめしてあげる」


言うだけ言うと、そのまま鈴は走り去って行った。





*◇*◇*◇*◇*◇*◇*


試合当日、第二アリーナ第一試合。

組み合わせは世界で唯一無二の男性IS操縦者『織斑一夏』と中国の代表候補生『凰鈴音』という噂の新入生同士の戦いとあって、アリーナは全席満員。

会場入り出来なかった生徒や関係屋は、リアルタイムモニターで鑑賞する事にまでなっている。

そして日本国総理大臣を始めとした各国の要人もこの試合に注目していた。


―――さて、そろそろか。

既に俺の視線の先には鈴がIS『甲龍(シェンロン)』を展開・装着し、試合開始のときを静かに待っている。

セシリア戦以来の模擬戦じゃないIS戦だ。心が湧き踊る。血が騒ぐ。

―――そして俺が主人公という事を全員に分からせてやるっ!

そんな決意を胸に秘め、鈴と対峙する。


『それでは両者、既定の位置まで移動して下さい』


アナウンスに促され、俺と鈴は空中で向かい合う。距離にして五メートル。俺と鈴は開放回線(オープン・チャンネル)で言葉を交わす。


「一夏、後悔させてあげるから。このあたしに本気を出させた事を」


「はは、構わない。全力で来てもらわなきゃな」


「一応言っておくけどISの絶対防御も完璧じゃないのよ。シールドエネルギーを突破する攻撃力があれば、本体にダメージを貫通させられる」


これはセシリアに教わった事だが、噂ではIS操縦者に直接ダメージを与える”ためだけ”の装備もあるらしい。もちろん、競技規定違反だし、何より人命に危険が及ぶ。

―――殺さない程度にいたぶる事が出来る―――

この現実は変わらない。代表候補生クラスともなれば、それも可能なんだろう。

対峙する鈴の目は俺を痛め付け、こらしめてやると語っているかのように見える。

しかし、俺も負けるわけにはいかない。

―――御剣一刀流の名において......というよりも最近怪しくなってきた立ち位置を確立するためにも......俺は負けない!


『それでは両者、試合を開始して下さい』


ブザーが鳴り響くのと同時に鈴は動いた。

鈴はその手に両端に刃を備えた異形の青竜刀〈双天牙月〉を手にすると、一瞬のうちに俺との距離を詰め、斬りかかってくる。

瞬時に展開した雪片弐型で鈴の斬撃をはじき返し、セシリアに習った三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)を使い、鈴を正面に捉えた。


「へぇ。初撃を防ぐなんてやるじゃない。けど―――」


鈴は手にした異形の青竜刀〈双天牙月〉をバトンでも扱うかのように回し、両端に付いた刃を交互に縦横斜めと角度を変えながら斬り込んでくるが、俺はただ冷静にその斬撃を捌く。

しかしその変幻自在な斬撃にこちらが斬り込むチャンスがなかなか見付けられない。


「それならっ!―――」


鈴はそのまま手にしていた双天牙月をブーメランのように投擲してきた―――しかし、真正面から投擲された武器など簡単に捌けるものだ。狙いは別にある筈。

雪片弐型で双天牙月をはじき返すと、鈴はさっきまでいた場所にはいなかった。


「もらったっ!」


俺の死角となる後方から甲龍の肩アーマーがスライドして開き、中心の球体が光った瞬間、目に見えない衝撃が襲ってきたのだ。

直感的に危険を感じた俺は雪片弐型を正面に構えたが、その衝撃は殺しきれるものではなかった。


「まだまだぁっ!」


そして何度も目に見えない衝撃が俺を痛めつけるように襲ってくる。




*◇*◇*◇*◇*◇*◇*


「何だ、今の攻撃は?」


ピットからリアルタイムモニターを眺めていた箒は思わず、そう呟いてしまった。


「『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して撃ち出す―――わたくしのブルー・ティアーズと同じ第三世代型兵器ですわ」


しかしモニターに映る一夏は苦戦しているようだが、その表情には余裕があるのか笑みを浮かべている。

箒もセシリアも一夏の強さは理解している。

そして信じている。

一夏はIS技術に関しては素人に毛が生えた程度だ。

しかし、それを補って余りある剣の技術がある。

だから、一夏が負ける筈はない―――と。




【鈴side】


正直、私は一夏がここまでやれるとは思ってもなかった。

ISを操縦できると言っても、一夏はISに関しては初心者の筈だ。特に女子には早くからIS講習が始まるのに対して、男子はISに触れる機会はない。

それもそうだろう。これまでの常識では、ISは女性しか操縦出来ないものだったからだ。

一夏が本格的にISを操縦したのもこのIS学園に来てから。

対する自分はその一年も前からISの操縦訓練をこなしてきた。

ISというのは稼働時間によって強さが変わるとも言われるものだ。

IS学園に来てからISの操縦を本格的に始めた一夏に負ける筈がないと信じていた。

しかし目の前で対峙する彼は衝撃砲〈龍砲〉を初撃で喰らいはしたものの、既に対応し始めたのか躱しているのだ。目に見えない兵器を初見でここまで躱せる者はいない。

よくて掠るだけなのだ。

―――IS初心者の筈の一夏が初見の兵器に対応する。

その予測もしなかった事態に次第にあたしは焦ってしまう。


「〜〜〜っ! このっ! このぉっ! いい加減、当たりなさいよねっ!」


「ははは、無茶言うな」


しかも目の前の一夏に余裕があるのがやけに腹立たしい。

あたしは中国の代表候補生だ。

相手は実質、ISを操縦し始めて一ヶ月経つか経たないかの素人同然。

いくら専用機が用意されたからといって、IS初心者に変わりはないのだ。




【一夏side】


正直、あの武器は厄介だ。砲身が見えない以上、近付けない。

実際、躱す事が出来るようになってきたが、あくまで空間の歪みを視界に捉え、迫る音を聞き分け、躱しているだけだ。

反応が遅れれば、当たりはしなくても掠ってしまう。正直、シールド・エネルギーも徐々に減ってきている。このまま、持久戦に持ち込まれれば、最悪負けてしまう事も予想される。

もしもここで負けてしまえば、最近、暴走してきた箒やセシリアに俺の立場を奪われかねん。

男としてそんな最悪な結末、黙って見過ごすわけないだろっ!

ただ、俺の白式には武器といっても近接特化ブレード〈雪片弐型〉しかない。

IS操縦技術だけを見れば、現状俺よりも鈴が上だ。




思い出すのは―――セシリアとのクラス代表決定戦後の千冬姉との会話。


「―――『バリアー無効化攻撃』?」


聞き返すと、千冬姉は小さく頷く。


「雪片の特殊能力が、それだ。相手のバリアー残量に関係なく、それを切り裂いて本体に直接ダメージを与える事が出来る。つまり相手のISの『絶対防御』が発動して、大量にシールド・エネルギーを削ぐ事が出来る―――私がかつて世界一の座にいたのも、その雪片の特殊能力によるところが大きい......だが」


そこまで言いかけて言葉を濁す千冬姉。何かまずい事でもあったんだろうか?


「あのIS戦をモニターしていた奴がいてな。最後にお前がオルコットを救助する際に発動した能力についてなんだが、元々備えていた単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)、零落白夜(れいらくびゃくや)が進化したものだそうだ」


「進化?」


「そうだ。最後に装甲が展開したのは覚えているか?」


「いや、あの時はセシリアを助ける事で頭がいっぱいで......」


「ふむ。最後に発動した能力―――零迅雷光(れいじんらいこう)―――零落白夜とは違い、雪片弐型だけではなく白式自体の出力を上げるものらしい。その分、自身のシールド・エネルギーも大幅に消費する事になるが、零落白夜とは比べ物にならない攻撃力と能力向上を果たすらしい」


あれって進化したって事だったのか? 無我夢中だったから気にもしてなかったんだが。

確かに零迅雷光が発動した瞬間、加速能力が格段に跳ね上がったのは実感できた。


「しかし、二次移行(セカンド・シフト)ではなく、単一仕様能力の進化など聞いた事もない」


聞けば、単一仕様能力自体、発動する事が稀で、発動できたとしても基本は二次移行してからだ、という。



鈴は強い。しかし、俺には白式がある。御剣一刀流の技がある。そして零迅雷光という切り札もある。

それにIS技術では負けているが、近接戦で負ける気はしない。

対峙する鈴を真剣に見つめる。


「鈴、本気で行くぞ」


「な、なによ。そんな事、あ、当たり前じゃない......。とっ、とにかくっ、格の違いってものを分からせてあげるわよ!」


いつの間にか手にしていた両刃青竜刀をバトンのように一回転させて構え直す。

対する俺も雪片弐型を正面に構える。

息を吸う。

吐く。

吸う。

吐く。

勝負は一瞬―――

零迅雷光による瞬時加速(イグニッション・ブースト)からの斬撃。これで決めるっ!

そして加速態勢に入った瞬間だった。

俺の視界に映る空間投影モニターに警告が表示される。

一瞬の出来事だった。





一筋の閃光が俺を襲った。

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