小説『織斑一夏の無限の可能性』
作者:赤鬼()

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Episode24:関白宣言



【一夏side】


「そ、それは本当ですの!?」


「う、嘘ついてないでしょうね!?」


セシリアとラウラの決闘から明けて、月曜の朝、教室に向かっていた俺とシャルロットは廊下にまで聞こえる声に目を瞬かせる。


「何かあったのか?」


「さあ?」


取り合えず、教室にまで行けば、騒ぎの原因が分かるかな、と扉に手を掛けた時に聞こえてきた言葉に俺の表情は固まった。


「本当だってば! この噂、学園中で持ちきりなのよ? 月末の学年別トーナメントで優勝したら織斑君の貞操を捧げてもらった上に交際できるって」


............


.........


......


...


なんだ、その噂ぁぁぁぁぁぁっ!

頭を抱え、しゃがみ込む俺に赤面するシャルロット。


「そ、そうなんだ......。ゆ、優勝したら、一夏と......」


ふと見られてるかのような感覚を覚え、視線を上に上げると獲物を狙うかのようなシャルロットの視線。

ひぃっ! 表情は笑顔そのものだが目が笑ってない。獲物を狙う狩猟者(ハンター)の目をしている。


「どうしたの、一夏? 早く教室に入ろうよ」


ニコニコ笑顔のシャルロットに若干恐怖しながらも教室に入ると、全員が俺をロックオンしたかのように視線を向ける。いや、一人だけ机に突っ伏してるのがいるな。箒か......。


あれか? 前に言われた箒の「抱いてほしい」宣言が原因なのか?

確かにあの時の声は大きかったからなぁ、聞かれても不思議じゃないが。もしかして、ここ最近、明らかに視線を感じる事が多くなったのは、それが原因だったのか?

取り合えず、いつまでも教室の扉の前でへたり込んでいるわけにはいかない。

いっその事、これを機に童貞卒業......。いや、このままでは初体験が襲われる形で迎えてしまう。それだけは避けたい。

やっぱり、初めての○○○は、思い出にも残るものだし、俺も女体を堪能したい!

そもそもこういうのは男がリードするものじゃないのか!

奪われるのではなく、奪いたいのだっ! 純潔をっ!

やはり日本男子たるもの女性の尻に敷かれるわけにはいかないからな。

よし、ここは俺が優勝すれば、問題ないわけだ。うん、そう考えたら気が楽になってきた。

俺の貞操を守る為に!

そして、純潔を奪うその日まで!

俺は、俺はぁ、我が貞操のためにも負けるわけにはいかないのだっ!


「......えっと、一夏? 教室に入らないの?」


はっ! ついつい、いつものように夢の世界へトリップしちまったぜ☆


「ははは、俺は負けないぜ。勝ち続けてみせるっ!」


「...ペアが僕だって事、忘れてるのかな? まぁ、優勝したら一夏の初めては僕のもの...ふふふ...」


「何か言ったか?」


「う、ううん、なんでもない。なんでもないよ。あははは」


俺の言葉に慌てたように反応するシャルロットを横目に教室の扉に手を掛ける。

ガラッ! 教室の扉を開くと一斉に俺に集まる視線、視線、視線。


「あ、い、一夏。おはよ。じゃ、じゃあ、あたし、自分のクラスに戻るから!」


「そ、そうですわね! わたくしも自分の席につきませんと。おほほほほ」


俺に噂の話を悟られないように装う鈴にセシリア、そして他の女子も余所余所しい様子で自分のクラス・席に戻っていこうとする。

ふふふ、俺が知らないとでも思ってるのだろうが、お前達の目論見は全て白日の下に晒されているのだ。

それに俺は負けない。今月末の学年別トーナメント、必ず優勝してみせるっ!

そんな決意を胸に俺も自分の席につこうとした瞬間、教室に新たな訪問者が現れた。ラウラ・ボーデヴィッヒだ。


「よう、ラウラ。もう怪我はいいのか?」


「う、うむ、問題ない」


俺の挨拶に赤面しながらも返答を返してくれるラウラ。転校初日に比べれば、大分馴染みやすい印象を受ける。

そして、とことこと俺の席まで歩いてくる。俄然、表情は赤いままだが......。風邪でもひいたのだろうか?


「......織斑、一夏」


「ん? どした?」


何かを言い淀んでるかのように俺の前でモジモジしてるラウラ。いつもの軍人といった雰囲気は全く無く、年頃の女子みたいな感じを受ける。

しかし何かを決意したかのように目を見開き、声を張り上げる。


「織斑一夏!」


「お、おう?」


突然大きな声を上げるもんだから、一瞬身構えてしまう。そして教室中にいる女子達が俺とラウラを凝視してるみたいで、物凄い視線を感じる。

しかしそんな事はお構いなしのように、目の前のラウラにいきなり胸ぐらを掴まれ、ぐいっと引き寄せられ、―――唇を奪われた。


「!?!?!?!?」


突然の事で何が起こったのか理解できなかった。

いきなり唇を割って入ろうとしてくるラウラの舌が俺の舌に絡ませてくる。俺の唇を舐めるように舌を這わせ、俺の舌を嬲るかのように舌を絡ませてくるのだ。これには俺も思考が停止してしまう。


「う......んむぅ......」


ただただ熱心にラウラは俺の唇を堪能するかのように。

俺のファーストキスは唇を合わせるだけのキスではなく、舌と舌を絡ませる大人のキスになってしまった。

ついさっきまで貞操を奪われないように、と思ったのに......さっそく奪われてしまった......。

でも、これが大人のキスか......気持ちいいな、これ。その気持ちよさに身も心も蕩けてしまいそうになる。そして唇を離すと透明な糸状なものが見えた。

これって何かいやらしいな、という考えを浮かべながらも惚ける俺とラウラを、箒に鈴、セシリア、シャルロット、そして教室にいた女子全員がただ呆然と信じられないものを見たといった感じに固まっていた。


「ふむ、これがクラリッサの言う誓いの口づけか。いいものだな」


「え、えっと、ラ、ラウラ......さん?」


「織斑一夏、お前の存在を私は認める。今の口づけは誓いの口づけだ! お、お前を私の嫁にする! これは決定事項だ! 異論は認めん!」


「へ? ......嫁?」


色々とつっこみたい事があるが、突然の出来事に俺の口がうまく動かない。


「日本では気に入った相手を『嫁にする』というのが一般的な習わしだと聞いた。故に、お前を私の嫁にする」


ビシッ! と俺を指さしながら得意気に宣言するラウラ。

何かえっへん! というかのように胸を張ってるが、それ間違ってるぞ?


「そしてセシリア・オルコット!」


「へ? あ、はい!」


セシリアも混乱してるようで、思考が上手く回らないのだろう。返事がたどたどしい。


「この前の非礼を謝罪したい。すまなかった」


そう言って頭を下げるラウラにセシリアも戸惑っているようだ。


「それはもういいのですけど......」


「セシリア・オルコット。お前は強かった。これからは一緒に強くなっていきたい」


「それは構わないのですけど......いえ、そんな事よりも―――」


セシリアが何かを言おうとした瞬間、鈴が我慢しきれなかったのだろう。―――吠えた。


「あっ、あっ、あ......! アンタねぇぇぇぇっ!」


鈴は顔を真っ赤にして怒りを露わにしていた。しかもその怒りの矛先は俺のようで、俺に向かってきた。これは俺の死亡フラグだろうか?

でも、このままむざむざ殺されたくはない。しかも今回の件はどっちかというと、俺は被害者サイドなのだ。


「ま、待て! 俺は悪くない! どちらかというと被害者―――むぐっ!?」


ダンッ! と机を蹴り、俺にダイブするかのように突撃してきた鈴だが何を思ったか、そのまま抱き着き、唇を重ねてきた。


「!?!?!?!?」


しかもラウラ同様、大人のキスだ。唇をこじ開け、舌を差し込んでくる。


「んむっ......ん......はふ......」


くちゃぴちゃと唾液を交わらせ、俺の唇を味わうかのように唇を這わせてくる。その様子に原因を作ったラウラも固まった。そして唇を離すと、顔を真っ赤にしながらも鈴はラウラに視線を向け、勝ち誇ったかのように指さす。


「ふふん、一夏はあたしのものよ」


「ほほぅ?」


ピキピキとラウラのこめかみに青筋が浮かんでるのが見える。

鈴はラウラに堂々と宣戦布告する。そして二人がお互いに牽制し合ってる中、俺は肩を叩かれたので振り向くと―――殺意の波動に目覚めてる箒、セシリア、シャルロットに、他の女子達に囲まれていた。


「あの、俺はあくまで......被害者......は、ははは......」


............


.........


......


...


その後、箒には恨み言を呟かれながら首を絞められ、セシリアからは往復ビンタに説教の嵐、シャルロットには「今晩は寝かさないからね、ふふふ」と恐ろしい事を告げられる始末。

クラスメイトにも詰め寄られる事になり、SHR(ショートホームルーム)が始まる頃には精根尽き果てたかのように机に突っ伏してるところを千冬姉の出席簿アタックを見舞われる、という散々な一日になったのだった。





*◇*◇*◇*◇*◇*◇*





【清香side】


くぅーーー、また恋敵(ライバル)が増えたーーー!

名前で呼び合えるのを喜んでいたのが遠い昔のように感じるわ。

一夏君の唇が、唇がぁぁぁーーーっ!

ボーデヴィッヒさんに凰さんにまで奪われるなんてェェェェーーーっ!

でもでも、確かにキスという前菜(オードブル)は奪われてしまったけど、まだ一夏君との○○○という主菜(メインディッシュ)が奪われたわけじゃないっ。

諦めるにはまだ早いわ、清香。

ファイト、清香っ!

でも、学年別トーナメントを優勝しなきゃいけないというハードルの高い条件を如何にクリアするか、問題はこれに絞られる。

これまで私は時間の許す限り、ISの個人特訓をしているが、やはり個人では限界がある。

学年別トーナメントを優勝するためにも専用機持ちと組んだ方が断然、有利なのは目に見えて明らかなのだ。

そこで重要になってくるのがペアを組む相手。

ちなみに私が狙っているのはボーデヴィッヒさんだったりする。

この前の試合を見て思ったのだが、勝負には負けたが、セシリアとはそこまで差があるとは思えないし、何しろ軍人さんだ。強くなるための特訓とかに詳しいはず。

だから私が狙うのはボーデヴィッヒさん。

私の生涯の恋敵(ライバル)ののほほんさんこと布仏本音は当てがあるらしく、放課後のHR(ホームルーム)が終わるや否や早々に教室を出て行った。

誰を連れてくるか分からないけど、ボーデヴィッヒさんと組めれば問題はないはず!

さてさて、ボーデヴィッヒさんはどこにいるかなぁっときょろきょろと教室内を見渡すと自分の席にいるボーデヴィッヒさんを見付ける。


「おーーーい、ボーデヴィッヒさぁーん」


「ん? なんだ?」


私の存在に気付き視線を向けてくる。


「私の名前は相川清香。ボーデヴィッヒさん、まだトーナメントに出るためのペア、決まってないよね?」


「うむ、まだ決めていないが」


「単刀直入に言うね。私と組んでほしいの」


「ふむ。何故、私と?」


「私ね、まだISに乗り始めて間もないんだけど、今度のトーナメントは絶対に優勝したいの。その為にもボーデヴィッヒさんにいろいろISの事を教えてほしいし、ボーデヴィッヒさんとなら優勝も可能だと思うの」


「ほう? しかし、それならセシリアもいるじゃないか」


「確かにセシリアもいるけど、私はボーデヴィッヒさんに教えてもらった方が強くなれると思うんだ。ボーデヴィッヒさんとはまだ知り合って間もないけど、ISに対する姿勢とか考え方は勉強になると思うから」


釣り上げた魚を逃がさないように、視線は真剣に、心は下心満載に、私は熱く語る。


「ふむ。そこまで言われるとな......」


よし! 後もうひと押しだ!


「お願い! ボーデヴィッヒさん。私と組んで優勝を目指そう!」


「ふむ......まぁ、いいだろう......。但し、トーナメントまでそう日数も残っていないだろう? 特訓は厳しくやるが、それでもいいんだな?」


「望むところ!」


全ては一夏君との○○○のために!

そして握手を交わす私とボーデヴィッヒさん。


「私の事はラウラでいい。これからよろしく頼む」


「私の事も清香でいいよ。これからよろしくね」


ここに無敵の龍、相川清香とドイツ代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒのペアが誕生したのであった。

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