小説『織斑一夏の無限の可能性』
作者:赤鬼()

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Episode7:鈴の決意




【一夏side】


「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単に優勝できないから」


「鈴......? もしかして、鈴......なのか?」


「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音(ファン・リンイン)。今日は宣戦布告に来たってわけ」


中学二年の時に家庭の事情で転校していった鈴が何故か目の前にいた。

まぁ、昔から知ってるからだろうが、小さく笑みを浮かべ、ふふんという顔で格好付けてるその様が―――似合わない。


「鈴、何格好付けてるんだ? すげぇ似合ってないぞ」


「!! な、なんて事言うのよ、アンタはっ!」


「まぁ、その何だ。一年振りだな。会いたかったぞ、鈴」


「え!? 本当―――」


さっきまで気取ってたような表情をしていた鈴が、喜色を含んだ声を上げそうになった瞬間、鈴の背後に鬼が現れた。

バシンッ! 教室の出入り口を塞いでた鈴の後頭部に痛烈な出席簿アタックが炸裂する。


「いたっ! 誰よ! ......って、ち、千冬さん?」


「織斑先生と呼べ。入り口を塞ぐな。邪魔だ。凰鈴音、もうSHR(ショートホームルーム)の時間だから自分の教室に戻れ」


「す、すみません......」


鈴は昔から千冬姉の事が苦手だった。何故かは知らんが。


「また後で来るからね! 逃げないでよ、一夏!」


鈴はどうやら隣のクラスらしく自分の教室まで猛ダッシュで退散していった。

相変わらず騒がしい奴だな。でも、一年前と変わってない。

引っ越す寸前の頃の鈴はどこか寂しげな表情をしていたからな。やっぱり、あいつはあれくらい元気なくらいがいい。

まぁ、本当、体型とかも昔のまんまなんだけどな。

胸くらいもう少し大きくなってもいいようなもんだが......もしや、もう成長限界値なのかっ?!

でも、小さいのでも俺は好きだけどな。なにせ、俺はおっぱい男爵―――

ゴツンっ!

千冬姉のげんこつが容赦なく俺の頭に振り下ろされた。


「織斑、私の前で考え事とは余裕だな。それだけ余裕があるなら日が暮れるまでグラウンドを走り続けるか?」


「すみませんでした......」


この人には逆らえません......。

しかし、先ほどからやたら視線を感じる。周りの女子からの視線が。

特に箒とセシリアの刺さるような視線が痛いくらいに突き刺さる。


*◇*◇*◇*◇*◇*◇*


この日の午前は休憩時間の度に箒やセシリア、それに他のクラスメイトから先程の鈴との関係を質問された。

昔の幼馴染で一年振りに再会したんだ、と説明して、やっと事なきを得たが......。


「取り合えずお昼になったし学食行こうぜ」


何時も通り、箒やセシリア、それにクラスメイト数名も付いてきて、学食に向かい、券売機でメニューを決め、券を買う。


「待ってたわよ! 一夏」


俺達の前に立ち塞がったのは今朝一年振りに再会したばかりの幼馴染、鈴だった。


「取り合えず、そこにいられると食券出せないから、どいてくれ」


「う、うるさいわね。分かってるわよ!」


鈴が持つお盆の上にはラーメンが鎮座している。


「のびるぞ?」


「わ、分かってるわよ! 大体、アンタが遅いのがいけないんでしょうが!」


親切で忠告したのに逆切れされたよ。さすが、鈴。昔からその横暴な性格は変わっていないらしい。

取り合えず、食券を学食のおばちゃんに渡す。


「それにしても久し振りだよな。ちょうど丸一年になるのか。元気にしてたか?」


「げ、元気にしてたわよ。そ、それで、あの......」


ん? いつもハキハキしてる鈴が何か言い淀んでる。何かしたっけ、俺?


「今朝の......会いたかった......って、本当?」


「当たり前だろ。鈴が転校してきてからずっと一緒にいたんだ。会いたいと思うのは当然だろ?」


「うん! うん! あたしも会いたかった!」


何か背後からドス黒い空気が流れてくるのは気のせいだろうか?


「一夏ぁ!!」


「へぁ? は、はい! な、何でしょうか?」


箒のあまりにもドス黒い気に充てられ、声が裏返ってしまう。


「一夏様? 注文の品、出来ていましてよ?」


セシリアは笑顔なんだが、その笑顔が恐い......

今日の日替わり定食は鯖の塩焼き定食の様だ。おぉ、視線を向ければ、ちょうど空いてるテーブルが目についた。ここは戦略的撤退をする必要がある。

このまま、ここにいたら、箒とセシリアに何をされるか分かったもんじゃない。

で、俺が座るテーブルには鈴が。隣のテーブルには箒にセシリア、それにクラスメイトで席に座る。


「ところで鈴はいつ日本に帰ってきたんだ? おばさんは元気か? いつ代表候補生になったんだ?」


「質問ばっかしないでよ。アンタこそ、なにIS使ってるよ。ニュースで見た時びっくりしたじゃない」


久し振りに会った幼馴染との会話は尽きない。お互いの空白期間が気になるのも当然の事だ。箒の時もそうだったしな。

バンっ! 視線を向けると、目の前には俺達の会話を中断させるかのようにテーブルを叩いた悪魔もとい箒とセシリアがいた。


「一夏、そろそろどういう関係なのか説明してほしいのだが」


「そうですわ、一夏様。まさか......とは思いますが浮気ですか?」


他のクラスメイトも興味津々の様でこちらに視線を向けてる。


「な、何? 一夏”様”? っていうか、浮気って......一夏っ! まさか、アンタ、この外国人と付き合ってるんじゃないんでしょうね?!」


何か話がとんでもなくめんどくさい方向へと転がり始めた。泣きたくなる......


「取り合えず、説明すると、コイツはただの幼馴染。んで、こっちの黒髪の子が前にも説明したと思うが小学校からの幼馴染で、俺の通ってた剣術道場の娘」


「............」


何故か鈴が睨んできたが、無視しておこう。関わると余計にめんどくさくなる予感がする。


「幼馴染?」


「あぁ、そうか。箒が知らないのも無理ないよな。箒が引っ越したのが小四の終わりだったろ? 鈴が転校してきたのが小五の初めの頃で中二の終わりに国に帰ったから、会うのは一年ちょっと振りなんだ」


箒と鈴。どちらも幼馴染だが、入れ替わりだったからお互いに面識ないんだよな。

ふぅーん、と鈴はじろじろと箒を見る。箒は箒で負けじと鈴を見返していた。


「初めまして。これからよろしくね」


「あぁ、こちらこそ」


握手を交わす二人。しかし二人の間では火花が散ったように見えた。何だ? 今のは? 幻覚が見えるなんて、俺疲れてるのかな?


「で、そっちの金髪の娘とはどういう関係なの?」


さっきの一夏様宣言の事を気にしているのだろう。


「えっと、この娘はイギリスの代表候補生でセシリア・オルコット。クラスメイトだ」


「一夏様。それは違います。あなたの妻になる者です」


だぁぁぁーーー、さらにややこしくするなぁぁぁーーー!!

最近、セシリアのアプローチが日に日に積極的になってきているのは気のせいだろうか?


「それは違うっ!!」


セシリアの暴走を箒が遮断する。いいぞ。この暴走を止めるのは箒しかいない。


「はぁ、何かアンタもいろいろ苦労してるのね......」


鈴は鈴で俺に同情の視線を向けてきている。あはは、もう笑うしかねぇ......


「ところで一夏。アンタ、クラス代表なんだって?」


「あぁ、気が付いたらクラス代表になってた」


「ふぅーん、そうなんだ......」


鈴はスープだけになった丼を持って、ごくごくとスープを飲む。基本的に鈴は女の子なのに『女々しい行為はイヤ』という性格で......まぁ、何というか豪快だ。

でも、こういう性格だから何の気兼ねもなく友達付き合いが出来るわけだが。


「あ、あのさぁ。ISの操縦にはまだ慣れてないでしょ? よかったらあたしが見てあげてもいいけど?」


頬を赤らめ、視線だけこっちに向けてくる。鈴にしては歯切れの悪い言い方だな。どうしたんだろう?


「本当か?そりゃ助か―――」


ダンッ!! 二匹の悪魔がテーブルを叩いた!!


「それは結構だ。既に一夏には私が付いている」


「あなたは二組でしょう? 敵の施しは受けませんわ」


おぉぅ、びっくりした。箒とセシリアは鬼気迫るような顔をしてる。それだけクラス対抗戦に燃えているという事なんだな。ここは俺も見習おう。


「あたしは一夏に言ってんの。部外者は引っ込んでてよ」


「私は関係者だっ!」


「わたくしは一夏様の妻ですっ!」


「「お前は黙ってろっ!」」


おぉ、箒と鈴、二人の幼馴染の息が今ピッタリと合った。セシリアはむぅーっと頬を膨らませてるが。


「と、取り敢えず、一夏様は一組の代表です。ですから、一組の人間が教えるのが当然ですわ。あなたこそ後から出てきて何を図々しい事を」


「後からじゃないしね。あたしの方が付き合いは長いんだし」


「そ、それを言うなら私の方が早いぞ! それに一夏は何度もうちで食事している間柄だ。付き合いはそれなりに深い」


「うちで食事? それならあたしもそうだけど?」


鈴の家は中華料理屋だったからな、千冬姉が家にいる時は食事を作ってたんだが、IS操縦者になってからはあまり家に戻ってこなかったから、作る事はしなくなった。

鈴の家の中華料理屋は安くて量も多く、しかも美味しかった。だから週に4、5回は通ったな。


「いっ、一夏っ! どういう事だ!? 聞いていないぞ、私は!」


「わたくしもですわ! 一夏様、納得のいく説明を要求します!」


「説明も何も......幼馴染で、よく鈴の実家の中華料理屋に行ってた関係だ」


嘘偽りなく事実を箒とセシリアに説明すると二人は安堵した表情を浮かべ、今度は逆に鈴がむすぅーっと膨れっ面を晒してる。


「そういえば、親父さんは元気にしてるか? 久し振りに会いたいな」


「あ......。うん、元気―――だと思う」


ん? 急に鈴の表情に陰りが差して、妙な違和感を感じた。


「そ、それよりさ、今日の放課後って時間ある? あるよね。久し振りに会ったんだし、どこか行こうよ」


「生憎だが、一夏は私とISの特訓をするのだ。既に放課後は埋まっている」


「そうですわ。クラス対抗戦に向けて、特訓が必要ですもの。特にわたくしは専用機持ちですから? えぇ、公私共に一夏様にはわたくしの存在は必要不可欠なものなのですわ」


セシリアの暴走はもうおいておこう。つっこむのも疲れるぜ。


「じゃあ、それが終わったら行くから。空けといてね。じゃあね、一夏!」


俺の了解も無しにラーメンのスープを飲み干して、鈴は片付けに行ってしまう。そして、そのまま学食を出て行った。

箒もそうだが、誰も俺の都合なんて考慮してくれないんだな......

そんな俺を不憫に思ったのか、隣のテーブルで話を聞いてたのほほんさんが俺の肩にぽんと手を置いて


「おりむー。私はいつでもおりむーの味方だからね〜♪」


のほほんさんは、ええ娘やぁ〜




【鈴side】


予想はしていた。

一夏はあれでもモテる方だ。中学時代、あたしが知ってるだけでも一夏を好きな娘は何人かいた。

でも、まだ常識の範疇だ。

それが此処IS学園では多くの女子が一夏を狙っている。

箒やセシリアはもう丸分かりだったが、一緒に同席していた一組のクラスメイトもそうだし、何よりあの学食の中で一夏を遠目で見ている女子の多さにびっくりした。というか、ほぼ全員が見ていたかもしれない。

二組でも一夏の話題は出るし、どうやってお近づきになるか作戦を立てている女子までいた。

今の世の中、ISに乗れるというのは一種のステータスだ。

ISに乗れるのは女性だけ。

だからこそ、女尊男卑という風潮が世の中には当然のように広まっている。

そんな世の中で唯一ISに乗れる男性、そう織斑一夏は世界中から注目を集める。

もともと一夏は顔は悪くない。寧ろ、その、あの......あ、あたしのタイプだったりする。しかもど真ん中ストライクゾーン......

知り合った当初は仲は良くなかった。

というよりも険悪だったと言ってもいい。

あたし自身、物怖じしない性格というのもあって、クラスの男子とは意見が事ある毎にぶつかっていた。

気が付けば、転校初日から数日たっても友達は出来なかった。

そしてある日、いつものようにあたしをからかってくる男子達を止めたのが一夏だったのだ。

その時からだろう、一夏の事を視線で追いかけるようになったのは。

好きと自覚したのがいつからなのかは覚えてない。

気が付いたら、好きになってた。

それからあたし達は常に一緒に行動してた。

週に4〜5回はうちの食堂にご飯も食べに来てたから、一緒にいない時間の方が少なかったんじゃないかと思えるくらいに。

中学に入ってからは、弾や数馬とも仲良くなり、4人で行動する事も多くなった。

でも、ある事情であたしは中国に帰国する事になった。

そしてやっと再会できたのだ。久し振りに見た一夏は男らしく成長していた。

―――やっと逢えた。

しかし、此処に来てから思ったのは常に一夏の周りには他の女がいる。

IS学園で初の男のIS操縦者だ。モテるのは仕方ない。でも、常識を超えたモテ方をしてるなんて......油断してたわっ!

今日からはアタックあるのみ!

何か変な外国人が奥さん気取りなのが気に食わないけど、最後に笑うのはこのあたしなんだからっ!


-9-
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