第十二話 純の苦悩×勇気の苦悩
勇気がハンター試験から帰ってきてから三ヶ月ほどが経過した。あれから勇気はハンターにはなったものの三回しか仕事をしているない、しかしそれだけでも三千万ほど収入があった。単純計算一回一千万、常人であれば命を一回くらい捨てるような仕事を三回して三千万は安いと見るか高いと見るかは人そぞれだろう。
一回目の仕事はとある連続殺人鬼の捕獲。これは探すのが大変で一週間寝れなかったことをのぞけば楽だった。
二回目の仕事はさらわれたとある富豪の娘の保護だった。これは他のハンターと協力したのだが、勇気としては胸糞の悪くなるような光景が繰り広げられていたりした。さらわれたのが見目麗しい娘だった事もあったのが最悪だった。この事件の決着としては娘は助かったが心に傷がつき、後味の悪いものとなった。事件後、勇気がシズクやグリアに過保護になった。
三回目は要人の護衛。ここでは暗殺者の排除が仕事になり、一週間の護衛の間、三名の暗殺者を排除した。これには依頼者も気をよくしてくれて専属にならないかと誘われたりもした。だがこんなに暗殺者を送られるような人の護衛はごめんだと内心思いながらも丁寧に断った。
三回の仕事して勇気が思ったことは「ハンターはお金に関してはかなり儲かるが心がすさむ」だ。勿論すべてのハンター業がそうだとは言わない。人の死体は当然のように見るし、自分も人を殺す事になる。だったらやるなと言うかもしれないがそういう仕事を選んだ以上やり取りげるのは当然だ。とはいえ勇気が殺した相手は裁判にかければ間違いなく死刑になるような人ばかり。正直悪人を殺すのはほとんど心が痛まないのだ。これは異常なことかもしれないが事実だった。そのおかげか思ったよりも平気なのだ。ただし、いま勇気はこれらの事よりもすごく悩んでいる事がある。
「ねえ、ユウキ」
「はい……」
今現在、家のリビングにてユウキはグリアの微笑みを真正面から受けていた。整ったお顔で笑みを浮かべるその姿は一枚の絵画のようだったが、いかんせん眼が笑っていない。グリアの体からはオーラが漏れ出し、常人であればその圧迫感で動く事が難しい状況だ。近くにいるシズクなどは純に抱きついて震えながらそちらを見ようともしない。純もシズクの盾になりながらそちらを見ない。
「この、携帯のミルバさんってユウキの何……?」
「ハンター試験で一緒になったただの同期です」
「ふーん、同期ね……。その同期のお嬢さんが何で……なんでデートに何度も誘ってくるの!?」
そう、ハンター試験にて一緒だったミルバが凄く勇気にアピールをしてくるのだ。最初はメールだった。その次は電話、それがだめならホームコードと、連絡がかなりの頻度で来る。内容は最初は「一緒に仕事しませんか」だったり「千耳会が仕事を紹介してくれないんです」などだった。千耳会のけんについては純に聞いて解決してあげたりもしたがそれのせいか更に懐かれたりもした。その後は「念覚えたんですよ!」や「今度一緒に修行しません?」、「おいしいパフェ食べませんか?」などと誘いが後を絶たなかった。何度も断っているのだが、暫くしたらまた連絡が来るのだ。
「いや、全部断ってるんだけれど」
「でも、メールとか楽しそうにしてるじゃない!」
すべて断っている勇気だが数少ないこの世界での人の接点をなくすのはまずいかと思い、連絡を絶つようなことはしなかった。そのためメール程度は返しているのだが、グリアはそれを良く思っていない。グリアは勇気とほとんどいるし、グリア自身あまり人との接点を持っていないようにしていたので、メールなどをあまりしたことないのだ。正直なところうらやましいやら嫉妬しているやらで少しヒステリックになっているのである。
「これ以上は教育に悪いな……シズク、外行く?」
「行く!」
これ以上はと思い、シズクを外に連れ出す純。シズクもこの空間は耐えられないようだ、その間もグリアと勇気は痴話げんかを続けているのでメモを残して出かける。純が出かける様子を見せても痴話喧嘩をしている二人は全く気がつかなかった。
side純
「二人大丈夫かなあ」
「ん?」
「だって、喧嘩してるし、もしかしたら……」
なるほどシズクは不安なのか。そうだよな、シズクの保護者どももこういう風に喧嘩している奴らがいたのかもしれない。もう少し考えて行動してほしかったなあの二人には。
現在は街を歩きながら話している。ちなみに今は元いた森から引っ越している。理由はシズクと俺の小学校への入学……。憂鬱である。
「まあ、大丈夫だと思うぞ?」
「本当?」
「ああ。いまは喧嘩してるけどさ、多分帰ったら落ち着いてると思うよ」
「そうかなあ」
「そうそう、まあこっちはこっちでなんか食べようぜ?」
「うん」
あの二人のせいで昼飯も食ってないしな。それに親父の場合は浮気じゃないだろうしな。親父はそういうところまじめだし。
シズクと俺でとりあえずどこか食事ができるところへ行く。今いるのはパドキア共和国のある大陸だ。この街はハンター支部が近いので治安がいい、あまりそう言った心配は要らないしな。まあすんでいるのは多少街の外側だ。家がいきなり建つのもまずいのであまり目立たないところにすんでいる。
街を見ながら進むと色々な食べ物屋がある。元の世界とは違う料理も多く、おいしいものも多い。その分まずいものも多いがな。
「シズク、何が食べたい?」
「ユウキが食べたいの」
「シズクは食べたいものないのか?」
「ユウキと一緒がいい」
最近、シズクの俺に対する依存度が上がっている。風呂も一緒に入ったり、寝るのも一緒にしたがる。まあ俺はロリコンじゃないからな、そこら辺は問題ない。だが依存はあまりほめられない。シズクは可愛いから多少はいいけれどこのまま育ってしまうのも考え物だ。
「んじゃ、ファミレスでも行くか」
「うん」
にこっと笑ってこっちを見るシズク。だがしかし身長はあまりかわならない。そこら辺がなんともいえない気持ちになる。
ファミレスに着き、適当な椅子に案内される。店員は最初は親のことを尋ねたりしていたがお金を確りと持っている事を伝えるとすんなりと通してくれた。こっちの世界で言う1万ジェニー札を見せただけだが。以前のマフィアからのおこずかいもほとんど残っているし。お金に関しては普通の子供より持っているので問題ない。勿論貯金しているが。
シズクと一緒にメニューを見る。シズクは眼を輝かせながら見ている、こういうところに来た経験がないのだろう。
「どれが食べたい?」
「……ユウキと一緒で」
「二人で別のものを頼んで半分個したほうがいっぱいいろんなもの食べられるよ?」
「じゃあ、私これ」
「オッケー、じゃあ俺はこれでと……店員さーん」
俺の提案にすぐさま飛びついたシズク。あんまりわがままを言わないのは美徳だが、子供のうちは少し言ってもいいと思うよな。
俺達は食事を終えて、おしゃべりをする。最近はシズクが一緒に学校に行く事に不安を覚えているようだ。いきなり環境が変わるのが怖いのだろう。だが俺ももう一度ランドセルをしょって小学校に通うかと思うと欝になる。確実に親父にいじられるしな。
いろんな話をしながら思う。このまま今日はシズクにいろんな経験をさせるのもいいかもしれない。ちょうどこの近くにはデパートやゲームセンターなど暇をつぶせるところも多い。膳は急げとシズクを連れて店を出た。ついでに携帯で親父に連絡もしておく。店員や客の視線が微笑ましいものを見る眼だったのはなんとも言えなかった。
近場のゲームセンターでは一緒にプリクラをとったり、レーシングゲームをしてみたりもした。デパートではいろんなところを冷やかしながら見回った。ペットショップを回ったりもした。
いろんなところを回ってみてしずくの反応は結構良かった。特にペットショップはお気に召したようだ。今は公園で休みながらジュースを飲んでいる。
「楽しかった?」
「うん!犬が可愛いし猫も可愛いし……」
かなり興奮しながら話すシズク。俺はそれに相槌をうつ。平和だ。こういうのんびりとするのも最近は少なかった。修行やらで忙しかったし、ここ暫くは引越し先の検討などで親父とグリアさんが出かけることも多かった。そのあいだ俺とシズクは留守番だった。
ふと視界のはじ、公園の出入り口に黒いワゴン車がある。ステッカーを貼ってあったりしてなんともいえない車だ。周りには五人ほど男女がたむろっている。いわゆる不良、何処の世界でもああいうのはいるんだなと思う。少し日本を思い出した。まあここら辺がいくら治安がいいとは言っても不良程度は、いるのはしょうがないよな。
「そんでさ、あいつったらー……」
「ははは!まじかよ……」
この世界ではあんまり外見は当てにならないが見た目からはあんまりいい人には見えないな。
「おいてめえら!」
「あんだ?」
ふとさっきの五人組に同数の人たちが話しかけているのが見える。なにやら空気が重いみたいだ。通行人もあそこを避けている。
シズクがそっちを見て心配そうな顔をしている。だがあの家で暮らしている以上すばらしい怪力になっているシズクは心配するようなものでもない。刃物やら銃やらを使われない限りはだが。
そのまま後から来た集団は元いた集団の女性に絡んでいる。これはあんまり感心しないな。周りを見ても見てみるぬふりをしているようだし。あ、女性を助けようとした男性が殴られた。これはいかんな。
「シズク、そろそろ帰ろうか」
「うん」
そのまま公園の出入口に行く。途中で石を拾っておいた。出入り口では女性と一緒にいた集団が一方的に殴られている。女性達は腰を抜かして座り込んでしまっている。周りでは警察を呼んでいる人もいるがここら辺は警察署はなかったはず、暫くかかるだろう。だが殴られている男性はもう気絶しているにもかかわらず殴られている。見てて気分のいいものでもないな。俺は出口から出て行くすれ違いざま円を使う。誰も銃は持っていないようだ。ナイフを持っているのが一人いるのでそいつを気をつければ問題ないだろう。シズクの壁になるように歩きながら先ほど拾った石を殴っている奴らの足に投げる。普通に戦っても勝てるが一応だ。
「ぐあぁ!」
「いでぇ!」
足に当たった石は思ったよりも強かったようで当たった奴らの足の骨をぽっきり折った。カルシウム不足だったんだな、うん。俺達はそのまま何食わぬ顔でその場を去った。けっしてやりすぎたからではない。親父やグリアさんに無用な体力を使わせないようにシズクには口止めしておこう。決して怒られるからとかではない。
「へえ、あの子……おいしくなりそうだね(クローバー)」
怪しい呟きは聞かなかったことにしておこう……
家に帰るとリビングには誰もいない。二階か?そう思ったときお風呂場のほうから風呂上りのグリアさんが出てきた。
「あら、お帰りなさい」
「ただいま」×2
「デートは楽しかった?」
「うん!」
「で、デート?」
何を言ってるのかわからんがシズクとグリアさんの中では今のお出かけはデートだったのか?
「おお、お帰りシズク!」
親父がきたが、親父もお風呂上りか……。まあスルーだな。
「うん今日はね……」
シズクの話に親父とグリアさんはニコニコしながら笑っている。昼間の喧嘩が嘘のようだ。シズクが不安がっていたからな、いいことだ。
あとがき
今回はグリアと勇気の関係や、シズクの日常、引越しなどの日常話になりました。題名の意味は勇気はグリア関係、純はランドセルですね。
ちょっとやばい人が一名でたきもしますがあの方は暫くでる予定はございません。まあ勇気を見たらガチの殺し合いが始まってしまいますしね。