小説『親父と一緒にいきなりトリップ【H×H】』
作者:プータ()

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 第六話 自己満足×選択肢

 「おい純、確か昨日のこの名前って」
 「……シズクだ」

 俺たちは昨日宿泊したホテルからでようとロビーまで出てきたがそこでシズクが誘拐されたと言う話を耳にしたのだ。

 「今警官に聞いてみたら今日の朝眠ってる女の子を連れてって車に乗せる人がいたって証言が合ったらしいわ、黒髪の少女はこのホテルにはあの子だけだからすぐにわかったって」

 グリアさんが聞いた事から考えるに誘拐されたのは間違いないのだろう。

 「……俺たちに何かできることってあるのかな?」
 「私達には【力】はあるわ、でもそれだけ。権利も何もないし、何より不用意な行為は捜査の混乱がある、それこそハンターでもない限りはね」

 苛立ちが募る。日本に居た頃は誘拐なんてそれこそドラマや漫画の話だった。自分の周りで起きた事なんてない。それが昨日合ったばかりとはいえ、知り合いが巻き込まれていると言うこの状況。

 「(しかも、あの両親)」

 ロビーにあるソファーにて泣いているシズクの保護者達。警官達は気がついてないが、あの目は覚えてる。俺の昔の親の眼と似てる。児童相談所の人たちと話している時や警察の人と話している時、あの眼と同じ嘘をついている瞳だ。涙で見えにくいが眼の奥に冷ややかな何かを感じる胸糞の悪くなる目。多分虐待されていた俺だからわかるこその違い。普通の奴らにはわかりにくいはずだ。
 
 「絶対に何か知ってる」
 「そうね」

 ふと横にグリアさんが立ち相槌を返してくる。まるで修行中のような雰囲気。いつもの弛んでいる眼ではなく、眼を細めシズクの保護者を射抜いている。

 「わかるの?」
 「あら、人を見る眼は確かよ私。少なくとも自分達を流星街の出身だと嘘をついちゃう人たちが居るくらいは見抜けるもの」
 「知ってたの?」

 驚きだ。親父の目も見開いている。親父が言ったのかと思ったが違うようだ。そうなると自分で気がついたのだろう。にこっと笑って俺たちに「気にしてないわよ、言いたくない過去の一つぐらいあるものだしね」と言ってくれるグリアさん。

 「それは今は気にしなくていいわ、それよりジュンはあの子を助けたいのよね?」
 「そりゃそうだけど」
 「何で?」

 何でと言われても、知り合いの女の子が誘拐されてたら助けたいと思うのは普通だと思うし、何より力があるなら助けてあげたいってだけだし。それにこれは言えないがこのまま何も知らすに人生が進んでいけば多分あの子は幻影旅団に入って人を殺していくかもしれない。だったらそんな事させない人生をあげたいと思うのは間違いじゃないと思うんだ。ものすごく自己中心的でシズクのことを全く考えてないけれど。これを前半部分だけグリアさんに伝えた。

 「そうわかったわ」

 そのまま警官のほうへ歩いていきバックからカードを取り出して見せた。そのカードはどう見てもハンター証!?持ってたのかよ!もしかして親父がハンター試験受ける意味無いんじゃね?と思ったが将来的には戸籍は無いのまずいから結局持っていたほうが言いと言うのを思い出して何も言えない。
 グリアさんが手招きをして俺と親父を呼び寄せる。

 「実はこの子と誘拐された子が友達で捜査協力をしたいと思いまして」
 「助かります、警察は基本的には面子がありますからハンターを雇う事はあまりしないんですよ。こういった場合は普通は誘拐された人たちがハンターを雇うものなんですがね。さらわれた子はみんな経済的に厳しい家が多く、ハンターを雇う余裕がなかったみたいでして」
 「それってさらわれた人のすべてが富裕層の人じゃないって事ですか?」
 「ええ、どういうわけかお金のない人たちをさらっているようですね。警察ではハンターを雇えないような人をわざと狙っているのではないかと言う見解です。あとは犯人達は基本的に誘拐の時には家族に見られないようにしているようで、誘拐された人を家族は誰も目撃して居ないようですね」


 なるほど、お金がないんじゃ雇えないしそれはそれで正しい答えだろう。ハンターの強さはこの世界では広く伝わっている。特に犯罪者はそういったことには敏感なはずだ。でも裕福でない人がこの観光地にこれるのだろうか?

 「アマチュアハンターを雇ったりした人は居なかったんですか?」
 「いえ、そういった方もいなかったみたいです」
 「そうですかでしたら何かわかりましたらそちらに連絡させていただきます」

 警官から離れそのままホテルのカウンターにハンター証を見せてパソコンを借りる。聞けばこのホテルもハンター証で泊まったらしい。万能だなハンター証。

 「すぐに終わるからここで待っててね」

 どうやらパソコンの画面を見せてくれないようだ。そのまま数分待てばパソコンで何か調べ終わったのかこちらに来るグリアさん。

 「一度部屋に戻りましょう、荷物もまとめて」

 部屋に戻りホテルを出る。そのまま10分ほど歩き、どこかに行くかと思えば別のホテルだ。わけがわからない。しかもホテルはここらでも一番小さくてしょぼいホテルだ。

 「失礼します」
 「いらっしゃい」

 眼鏡をかけた三十後半と思われる男性がでてくる。笑顔で固めた接客スタイル、しかもこの人念能力者だ。纏はさほどうまくないが。
 ホテルの中は思ったよりも綺麗で掃除は行き届いている。雰囲気がぴりぴりしているのは能力者が4人いるからか。

 「ご宿泊でしょうか?」
 「ええ、実はここらで一番の宿だと聞きまして」
 「ご冗談を、一番はサーグルホテルだと思いますよ?一番大きいですし」
 「ここらでは一番耳のいい場所だと聞きましたが?」

 さっきまでの笑顔が嘘のように無くなる男性。なるほどここは情報屋か何かなのか。ちなみにサーグルホテルとはさっきまで俺たちが泊まっていたところだ。

 「こちらではなんですのでそこのお部屋で」

 そのままカウンターの横の部屋へ入る。部屋は対面式のソファーとテーブル、その上にはパソコンが設置してある簡素な部屋だ。
 
 「最初は子ずれで来たから普通の客かと思ったらガキまで念使える三人組。興味深いね、それで今日はどのような情報を?」
 「最近の誘拐事件に対しての情報を」
 「100万ジェニーだが」
 「結構よ」

 全然結構じゃねえお。金銭感覚おかしい。除念師は儲かるらしいから不思議じゃないけど、俺のグリアさんへの借金が増えていく不思議。
 グリアさんは携帯を取り出し何か操作をする。多分口座に入金してるんだろうけど。パソコンを見た男性が一言まいど、と言ったのが印象的だ。

 「誘拐事件がおきているのはこの街のみ。三年前からだ。最初はよくある金持ちを狙ったものだと思ったがどうにも違う。被害者は男女問わず10歳から20歳後半まで、家族はみんな金銭的に裕福ではなくむしろあまりお金を持ってないところの人が多いと言う事。警察はわざとそういうところを狙ってハンターを雇われないようにしていると思っている。だがここからが重要だ。さらわれた親族を調べると皆事件から暫くした後高額の振込みが口座に入金されていたりしている、確実な証拠は今のところ見つかっていないが間違いなくグルだろう。さらわれた奴は養子だったり、家族から疎まれていたりが多いし、借金をしている家族なんかも多数居た。借金の場合は本人ではなく代理人が返したりしているようだがな」

 すらすらと饒舌に流れていく情報に憤慨を覚える。あの親には何かあると思っていたがやっぱり絡んでいた。今まで感じた事の無いような怒りを感じる。自分に重ねているのかもしれない。

 「そこまで警察は調べ切れてないの?」
 「ああ、振り込みも隠し口座のようなところを使っているし、借金もあくまで他社がその負積を買うと言う手段でもって返済している。証拠があっても確実なものでないし、気がついてる奴も居ないと思うな。居ても家族が関与していると言うのは感情的にありえないと排除している奴も居るだろうがな」

 狡猾だな。そうなると犯人は決まっている。

 「借金を肩代わりしている会社を調べたら、ダミー会社だった。だが犯人はわかっている」
 「マフィアでしょ」
 
 俺がそういうと男性は意外そうに「そうだ」と言った。

 「リノメルドファミリー、何処にでもある三流マフィアさ。おもに人身売買、臓器売買を中心にしているやつらだ。三年前に結成、その為まだ力が弱い、ハンターを雇われるとまずいとおもってこういった誘拐方法なんだろう。手口としてはさっき言った家族を疎んでいる奴や借金している奴を探し、そいつらに取引を持ちかける。そしてこの街に招き、取引をする。そして家族は自分達が取引をしたから捜査に積極的にならないって感じだな」
 「終わり?」
 「ああ、知ってる情報は以上だ」
 「そう。実は今日さらわれた子が、この子の知り合いなの」

 そう言って俺を見るグリアさんと男性。ちなみに親父は空気だ。

 「それでその子が取引される場所、もしくは主犯の居場所を教えてほしいのだけれど」
 「それはいいんだが、そのガキまでつれてくのか?」
 「一緒に行くつもりだけど……」

 俺がそういうと男性はわずかに顔をしかめる。

 「ちなみに聞くが何するつもりなんだ?あいつらからその誘拐された子を買うのか?それとも子供をさらい帰すのか、マフィアをつぶすのか、摘発するってのもあるな。あんたらはマフィアとか疎いかもしれないが、相手をつぶすか取引するかでかなり違うぞ。つぶす場合は確実に構成員は全員殺さないと後が怖い、生き残りが居た場合あんたらの情報は漏れるし、ボスを残した場合は100%報復に来る。摘発したって捨て駒用意して終わり。あいつらは面子が命だから後が怖いぞ」

 そのとうりだ。原作の話だが旅団がヨークシンでオークションを襲った時、「親兄弟友人親戚すべて見せしめに殺せ」というような指令がマフィアに回っていた。それだけマフィアにとってメンツと言うのは大事なんだろう。まあ三流マフィアがそこまでするかわからないが少なくとも害になるのは確かだし恨みを買うのも確か。

 「私としては気分が悪いけど買うのが一番いいと思ってるわ、でも……」
 「買った後が問題だ。その行為自体が人身売買に他ならないし、警察からしたら行方不明になった子が見つかったって事になり結局は元の親に返される、そしたらまた売られる可能性もある。それ以前に取引に応じるかもわからないがな」

 人身売買は『犯罪』だ。だが。

 「買って助かるなら俺が『買う』」

 瞬間、室内全員の視線が俺を見る。

 「グリアさん、申し訳ないんだけどお金貸して、天空闘技場でも行って返すから、それにあの子の面倒もお金も俺稼ぐから家に住ませてあげてほしい」
 「坊主、それじゃだめなんだそれだけじゃ元の木阿弥」
 「わかってる、だから元の親からも買うよ」
 「……なるほど、それならできるかもしれない、だが吹っかけられるぞ?正直念能力者が三人、それもそっちの保護者二人はかなり強いだろう。あんたらなら弱小ファミリーの一つぐらい簡単につぶせる。つぶして証拠でも探せばいい、なぜしない?もしさらわれた人を助けたいなら殺したほうが確実だよ?護衛に念能力者は居ないって情報もある」
 
 男性から問われた質問に黙り込む俺たち。正直俺からしたら殺すと言う選択肢に踏ん切りがつかないだけだ。

 「俺が言う事じゃないかもしれないがお前ら、まあそこの姉ちゃんは違うだろうが、こういうところはじめてきたろう?俺は情報屋を結構やってるがお前ら見たいのが今までこなかったと思うか?何人も居たぜ?殺さないですむなら、殺したらあいつらと同じ、その中には念能力者も居た。だが今現在誰一人として生きていない。甘すぎるって事は自分もその仲間も危険な目にあわせるって事だ、特に知り合いだからって助けに行くお人よしはな」

 それでも行くのか?そう眼で言いながら俺を見てくる情報屋。俺は眼をそらさずに答える。

 「俺は正直覚悟なんか決まってない。それでも助けたいと思うんだ。……俺も昔は虐待されてた、でも親父が助けてくれた。俺には親父が居たけどあの子はそういう人いないし、だったら俺がそういう人になればいいと思ってる。あの娘を自分に重ねてるだけのただの自己満足だけど、ここで手を出さないと後で後悔すると思うんだ」
 「そうか……悪いな、俺が言う事じゃないかもしれないがおまえ位の子供が俺にも居てな。つい、で過ぎたまねをした。だが自分の身に危険が迫ったら相手を殺してでも生きたほうがいい。躊躇するなよ?念能力者だって銃で死ぬんだからな」

 そう言って情報屋の男性は俺たちにさらわれた人の居場所と取引方法、マフィアの居場所を教えてくれた。俺たちは荷物をこの宿に預けて急いで取引場所に向かった。

  

 あとがき

 ジュン君が始めて自分から厄介ごとに首を突っ込みます。こういった動機もあると思うんですよ。自己投影といいますか、用は自分にとって許せない行為、親から子供に対する不条理を目の前で見ちまったんですよね。しかも将来盗賊になるかもしれない少女をまっとうに出来るかもしれない可能性。これは動くしかないと。
 シズクの過去については捏造ですし批判等あるかもしれないですがどうかご容赦を。そしてシズクヒロインの小説って他にありますかね?ないなら作ってしまおうとおもって書いてるんですが。あればぜひ教えてください。

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