第八話 発考察×勇気のハンター試験
シズクを迎えてから暫く、グリアの家に一向は帰ってきていた。あの後三日ほどかけてシズクの書類を用意したりと面倒な事が多かったがグリアがハンター証をフル活用し、必要最低限の手間で帰ってこれたのだ。もしハンター証がなかったら一週間は拘束されていたろうと言う話だ。
「重い……」
今現在はシズクがグリアの家になれる特訓だ。勿論本人も同意のうえである。本人いわく純とおそろいがいいらしい、それを聞いてほっこりしたのは純、グリア、勇気の秘密だ。
グリアの家は普段から体がなまらないようにある程度家具や日用品を重くしている。しかもここ暫くは純や勇気が慣れていたため少しずつ重くしていたのだ。そのせいでシズクがこの家に来た当日はシズクは色々と苦労した。現在はシズク用に重さをあわせているので純などからしたらかなり軽く感じる。
「俺はそろそろ出発するよ」
そして今日は勇気がハンター試験に行く。もう少しで今年も終わり1991年になる。ハンター試験は1月7日だ。そろそろ行動しないといけないだろう。
「親父、気をつけろよ。もしかしたら能力者も居るかもしれないから」
「ああ肝に銘じておくよ」
この世界にきて始めて父親と別々になる純は少しばかり複雑だ。ぶっちゃけ心細いと思っているのは本人の秘密だろう。
「ユウキ、気をつけてね」
「ありがとうシズク」
シズクは最初は勇気やグリアによそよそしかったが、少しすればなれたようで今では普通に仲良くなった。大人に対して警戒心を持ってしまうのは以前の保護者達のせいだろう。
「飲み物なんかに当たらないようにね、後は怪我しないように」
「……グリア」
勇気が純に目配せすると純はシズクを連れて特訓に行った。空気を読んだのだろう。
グリアと勇気は激しくほにゃららをいたしたようだ。
「何で二人にしたの?」
「そうだな、大人になったらわかるんじゃないかな」
シズクにはまだ早いなと遠い眼をしながら思う純だった。結局勇気が家を出発したのは三時間ほど経ってからだった。その間、純はシズクを外に居させるのに苦労したのだった。
勇気が行ってから一週間。発の訓練をしようと一人家から出てきた勇気。正直言って女子二人に男子一人と言う空気はあまりいただけない。あの妙な女子の連帯感というのは苦手な純だ。
グリアとシズクは最近仲がいい。一緒に取り寄せたファッション雑誌見たり、お菓子を作ったりと一緒に居る事も増えた。純は最初こそ恥ずかしさを我慢して一緒にお菓子を作ったりしていたが精神年齢は17歳な純だ。耐えられなくなりこうやって修行を理由にでてきたのだ。
「(仲良き事はいいことなんだけど)」
グリアと一緒にお菓子を作ったりするシズクはすごく可愛いのだ。楽しい?と純やグリアが聞くと頬を赤らめながらうんとうなずく姿は癒されるものである。
「おっと修行しないと」
今日は系統や発について考える。
特質系は基本的に何処の系統にも属さないが別に他の系統が不得意なわけでも得意なわけでもない。
六系図では操作や具現化の間なので操作や具現化が得意かと思ったがそうではなくどの系統も程々(恐らく操作や具現化から後天的に特質形に変わった人は変わる前の系統は100%習得可能、他は山形の習得率)なのだ。だがどの系統が得意でもないというのは問題だ。腕力やスピードをを強化しても強化系には勝てない。念弾も放出系ほど威力も数も出せない。念に形を持たせたりも変化系ほど多様性はない。何かを操作しようとも操作系より劣る。具現化も複雑なものは無理。だがどの系統もそれなりに使える。まさに器用貧乏だ。それを考えると、特質系能力者が発を一つしかもっていない奴が多いのは一つの能力にメモリをめいいっぱい振り切らないと他の系統に劣る可能性があるからなのではないだろうか。そう考えると多少修行時間を伸ばしてでもいい能力を作らないといけないと純は思うのだ。
複合能力と言うのもある。操作系と放出系と具現化を極めて使う発や変化と具現化を組み合わせて使う発、前者はゲンスルーの命の音(カウントダウン)、後者はヒソカの薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)だ。ゲンスルーは三つ、ヒソカは二つの系統を使った発を完成させている。ゲンスルーの場合は放出と具現化という習得率が対岸になる系統同士を組み合わせている。これは最大習得率が低かろうと発にはできると言う事だ。だったら特質系能力者の純はすべての能力を満遍なく使える発を目指すと言うのもできるのではないかと思うのだ。この理論が当たっているなら純の目標である某GS漫画の煩悩少年の能力、文殊も作れるのではないだろうか?ただしそのためには少なくともどの系統も限界まで修練してからでないと発の習得は難しいだろう。
しかしと純は考える。この世界の生物は人間含めて眼にも留まらぬ速さで動く奴らもかなりの数いる。予定していた能力は玉を作る→文字を込める→使うというアクションが必要だ。正直言ってこんなことしている間に殺される可能性が高い。この能力は魅力的だがもっと改良しないといけない。それを考えて玉自体を武器に使う能力のほうがとっさの事に反応できるのではないかと思ったのだ。玉で攻撃し、玉で防御し、玉で飛ぶ。文字を入れて発動はできるが、色々制約をつける事になるだろう。今のところはそういう能力を目標としている。
「後は実戦経験が必要なんだよな」
今現在、純は実戦経験が不足している。グリアや勇気に手ほどきを受けているが所詮身内、無意識のうちに手加減もされているだろう。もともとただの高校生なのだ、喧嘩の経験はあるがそれだけ。この前のマフィア達は念で強化した身体能力でごり押ししただけ。そのためいざ発を作ろうにもどの程度通用するかはわからない。すべてが想像だけだ。そう考えて一番いいところは天空闘技場に行く事だ。あそこなら実践をつめてお金も手に入る。能力者の戦闘も見る事ができるし勉強になるだろう。だが今の状況でそれはできない。純自身がシズクの面倒を見るといって引き取ったのだ。シズクがある程度強くなってからのほうがいいだろう。
一方、勇気のほうはもう受験地についていた。キノッサという所は貿易を中心にしている街で各地の物産品などが流通している街だ。来る事はそれほど難しくないがそれからが問題だった。
「会場……何処だ?」
全く持って会場がわからない。純からはバス、船、飛行機は気をつけないとたどり着けないと聞いていたのである程度歩いての移動だった。そのためキノッサにはわりと簡単にこれたのだ。だがそこまででとまってしまった。周囲には筋肉質な男性や武装した人が多いのでここで当たりなのだろうと思うのだがそこからがわからない。そんな状況で困っている勇気だった。
「お兄さん!」
ふと気がつけば少年に話しかけられていた。茶髪と金髪の中間のような髪色の少年だ。
「お兄さんは道に迷ってるの?」
「ああ、ハンター試験受けに来たんだけれどね、会場がわからなくて……」
「へえ、やっぱり?俺知ってるよ。場所」
本当かい?そう言おうとしたが気がつく、この少年が念を使えることに。纏も純より綺麗だしかなり強いのではないかと思う。妨害しに来た人物かと警戒する。
「……どうして僕に教えようと?」
自然と視線が鋭くなる勇気。当然だろう、いきなりこんな事を言われたら何かをされるのかと注意してしまう。
「いや、別に、同じ参加者だしね」
にこっと笑う少年の笑顔はまぶしい。年頃の少女であれば赤面必死の美少年スマイルだ。勇気からしてみれば胡散臭い事この上ない。だが他に手がかりもないのも事実だ。開催時間まで時間はあるが見つかるかもわからない。
「普通は参加者を蹴落とすものだろう?態々なんでだい?」
「はは、困ってる人がいたら助けるのは当然じゃないか」
この笑顔は嘘だと勇気はわかる。伊達に社会人やってたわけではない。昔は営業や会社間の取引などをしていた勇気は、ある程度人の表情の真偽を読み取る能力がある。しかし会場の手がかりもないしついて行くのもありかと思う。
「じゃあ助けてくれるかい?」
「了解、あ、俺シャルナークって言うんだ、お兄さんは?」
「勇気だ、頼むよ」
勇気はシャルナークという名前をどこかで聞いたことがあるとは思ったが何処で聞いたまでは思い出せなかった。思い出せばついていかなかったと後に純に言ったそうだ。
シャルナークについていくこと数十分、その間彼との会話でわかった事は顔に似合わず毒舌家という事だろう。ニコニコと虫も殺さないように笑いながら毒を吐くのだ。
「ここだよ」
「ここ?」
ついたのは風俗店だった。おっパブといわれる形態のお店だ。一時間五千ジェニーというのが怪しい、入り口には準備中の看板がある。
「マジで?」
「うん」
ニコニコと笑いながら言うシャルナーク。
「あっ、合言葉があるんだ、入ったら言ってくれる?」
「ん?だったら自分で言えば……」
「いや俺も言うよ、一人一人言わないといけないんだ」
そういうものなのかと勇気は思う。
「んで、合言葉は゛まだ準備中だよ゛って言われたら゛えーおっぱいボインボインの姉ちゃんに会いに来たのによー゛、そしたらお店の人が゛でもねー゛って言うから゛いーじゃねーかよおっぱいもみてーんだよ゛って言うんだよ」
「え」
「ほら早く早く」
「ちょっと、ま」
そのまま背中を押されて店の中に入れられる。中に入ると受付にいた中年男性が来た。
「お客さん、困りますよ、まだ準備中ですから」
「え、えーおっぱいボインボインの姉ちゃんに会いに来たのによー」
顔を真っ赤に染めながら言う勇気。その言葉を聞いた男性はぴくりと眉毛を動かした。シャルナークは口元を押さえてわらわないようにしている。
「でもねー」
「いーじゃねーかよおっぱいもみてーんだよ」
「しょうがねーなじゃあ奥にいきな」
勇気の後ろにいるシャルナークは腹を抱えて爆笑している。
「あ、俺も一緒にね」
「そうか、一緒にいきな」
勇気はだまされたと思った。こいつこれが言いたくなかっただけだと。心なしかお店の男性も哀れみを込めた目で勇気を見ている。
「……お前も言うんじゃなかったのか?」
「そんなこと言ったっけ?」
首をかしげるシャルナーク。勇気は顔を引きつらせながらこいつは信じないようにしようと心に誓った。
「というか女の受験者とかもここに来るのかよ……」
「ああ、女の子は別の入り口があるらしいよ」
「へえ」
勇気はハンター試験前から疲れていた。
店の奥に行くとエレベーターがある。入ると階数の書いてないボタンが一つあるだけだ。シャルナークがボタンを押し地下に行く。感覚的には10階程度降りたところでドアが開く。
「ハンター試験会場にようこそ。このバッジをつけてください」
エレベーターを受けたところで同じ人類かも怪しい豆人間に話しかけられる。シャルナークも勇気も黙ってつけた。番号は勇気が99、シャルナークは100だ。
会場はまるでパーティ会場のような場所だった。結婚式場のようにテーブルかたくさん置かれており大きさ的には体育館よりも少し大きいぐらいだろう。ドアも三方にありドアのない一方には壇上とマイクがおいてある。受験者も百人ほどいる。
「へえ、思ったより綺麗な場所だね」
「そうだな」
見渡すとはじによっている人もいれば、テーブルに座っている人もいる。女性は二三人しかいないせいで目立っている。
「やあ、君達、新人だね?」
そう言って話しかけてきた男性は鼻が大きく丸顔の小柄な男性だった。
「俺はトンパ、ハンター試験の事なら何でも聞いてくれ、これでも二十回以上ハンター試験には来てるんだ」
有名な新人つぶしのトンパだ。勇気もトンパのことは覚えていたのでほぼ無視している。純にも行く前にトンパの事を聞かされていた。
「二十回以上受けて合格しないならあきらめればいいのに、才能ないんだろうね、ね、勇気」
ニコニコ笑顔なシャルナークの毒舌が響く。トンパも笑顔を引きつらせている。周りの受験者も噴出している奴もいる。勇気はここでイエスと言うべきかノーというべきかわからなかった。
「はは、じゃあこれお近づきのしるしに」
そう言って出してきたのは原作同様の缶ジュースだ。勇気は要らないと断った。
「ぷ、こんな怪しいもの飲むわけないじゃない、あんた頭おかしいんじゃないの?」
舌好調なシャルナークの言葉でトンパはそそくさと違う場所へ行った。
トンパをシャルナークの毒舌で撃退してから数時間、その間シャルナークの質問やらなんやらされながらまっていた。念をいつ覚えたかやらどうしてハンター証がほしいの等だ。勇気が戸籍がないからというとふーんと言って勇気を見つめていたのが印象的だった。
人数も三百人ほどに増えた頃、壇上が割れ、新たに床がせり出し人も一緒にでてくる。
「やあ――おまたせ!!」
やたらとハイテンションな人がでてきた。
「これより第279回ハンター試験を開催します。参加者は321名、お、3,2、1って良いねカウントダウンみたいで。あ、棄権する人はいますか?」
やたらとハイテンションな人物は手を挨拶するように顔の前まで上げ、笑顔で言った。後ろのほうではマーメンが嫌そうな顔で出てきた人物を見ている。はたから見たら美形な、だが勇気の隣にいるシャルナークよりもさらに胡散臭そうな男性だ。
「いないようですね。第一試験の担当のパリストンです、よろしお願いします!」
純がここにいたらすぐに帰りたくなるような面子だ。パリストンとシャルナーク、どちらもすごく腹黒いのだから。勇気はわからなくてよかったかもしれない。
「第一試験は僕を笑わせることなんてどうでしょう?」
そういった彼はにこっと笑ってそう言った。
あとがき
今回は純の発の目標と勇気のハンター試験でした。
純の能力に関しては、最初は単純に文殊でいいんじゃねとは思ってました。ただ普通の文殊だとアクションをしようとした瞬間に死んでそうなんですよね。だったら作ってからすぐに使えるか、普段から作っておくかの能力ならいけるんじゃないかと思ったんです。
習得率に関しては操作や具現化から変化する人と生来の特質系は違いがあるんじゃないかと思ってこんな設定です。生来の特質系はすべての習得率が六割から七割ぐらいなんじゃないかなと……勿論捏造です。それだとグリアさんの能力がちょっと具現化に偏りすぎるきもしますがね。
ハンター試験に関してはシャルナークの出現はねつぞうです。いつハンター証を取得したのかなんてわからないんで適当に……
パリストンは蟻編の三年前に副会長に就任したと言う原作設定があります。と言う事はそれまでは一人のハンターだったと思うんですよね。それなら今は協会のお手伝いをしてるんじゃないかと思いだしました。かれトリプルハンターですしね。