日本のとある基地。そこで今、サイレンが鳴り響いた。
『緊急事態発生!緊急事態発生!UE(アンノウン・エネミー)がポイントS17に出現!IS学園に向け進攻中!第4中隊至急迎撃に出ろ!繰り返す、第4中隊至急迎撃に出ろ!』
それを聞きおわるより早く、俺は待機していたパイロット・ルームから飛び出していた。
走りながらヘルメットを被り、バイザーを下ろしながら格納庫に飛び込む。
途端にゴゥッ!という轟音に包まれる。見ると既に中隊長の機体…RGM−89D『ジェガン』…の目に光が入り、2機用のベース・ジャバーに向け歩を進めている所だった。
『遅ぇぞぉ!!』
モンシア中隊長の罵声が響く。
直ぐに自分のジェガンに乗り込み、起動させる。全周囲モニターが起動すると足元のメカニックに気をつけながら、自分のバディである中隊長の乗るベース・ジャバーに機体を固定させる。
『4中隊!遅いぞ!準備できた機体から出せ!』
司令の言葉に中隊長は叫ぶように応える。
『了解!モンシア、ユースケ!ジェガン!出るぞ!』
ベース・ジャバーが1mほど浮き上がると、メインスラスターから青い噴射炎が伸び、加速する。
慣れたGを無視し、武装のロックを外していく。
ベース・ジャバーは海上に出ると、進路を左に変える。
そのまま真っ直ぐ飛んでいると、前方に機影が見えた。
データベースがUEだと教えてくれる。数は24。
『ユースケ!連携崩すなよ!』
「中隊長!フォローは任せて下さい!」
『言ってろ!』
UEがこちらに気付くのと同時に、ベース・ジャバーから飛び出す。ISの技術を取り込んだジェガンには本来SFS(サブ・フライト・システム)は必要ない。だが今回のように遠距離を移動する時はエネルギー温存のためにベース・ジャバーを用いる。
ベース・ジャバーが申し訳程度にメガ粒子砲を撃ちながら離脱していく。
それに向け2機のUEがマシンガンを放つが、ベース・ジャバーはうまく逃げてみせた。
敵はギラ・ドーガ、ギラ・ズール、ドライセンの混成部隊のようだ。
『行くぞ!』
「了解!」
モンシア機がビームライフルを撃ちながら突撃する。その斜め後ろに着きながら頭部バルカンとビームライフルでモンシア機を狙おうとする機体を牽制する。
するとモンシア機の放ったビームがこちらにマシンガンを撃っていたギラ・ドーガを貫いた。
爆発するギラ・ドーガの横を駆け抜けようとするモンシア機に向け、ドライセンが爆煙を利用し接近する。
それに気付きライフルを向けると、俺が撃つより早くドライセンが爆散した。撃ったのはモンシア機だ。気づいていたらしい。
『ユースケ!後ろだぁ!』
確認するより早く、振り向きながらシールドからミサイルを発射する。
ミサイルはビームトマホークを振りかぶり、加速していたギラ・ズールに吸い込まれるように直撃し、爆散させた。
しかしそれを見ている暇はない。バーニアを噴かし、機体を急上昇させる。
足下、さっきまでいた場所を光弾が通り抜けた。
光弾を撃ったギラ・ズールにライフルで応戦する。一射、二射、三射目で向こうが撃ち返してくる。正確な射撃だ。シールドで受け止めつつ撃ち返す。
こちらが向こうの射線にいるということは向こうもまたこちらの射線にいるということだ。
二射目でギラ・ズールの右肩に直撃し、落とした。
光弾を躱しながら周囲をみて、囲まれ始めている事を確認し、舌打ちする。
また一つ爆発の花を咲かせたモンシア機に接近し、近接戦闘を仕掛けようとしていたドライセンを狙撃。
撃ちぬかれたドライセンが爆発するのを見ながらモンシア機に通信をする。
「中隊長!囲まれます!」
『んなこたぁ、わぁーってるよ!!黙って迎撃してろ!!』
「り、了解!」
まさか何も考えてないとかやめてくれよ、となかなか失礼な事を考えながら左手にライフルを持ちかえる。
その隙を狙って、ギラ・ズールとドライセンが襲いかかってきた。
ビームライフルを撃つが躱され、ドライセンがトライブレードを放つ。
「クソッ!」
腰のグレネードを発射し、すかさず頭部バルカンを撃つ。
グレネードが爆発し、視界を遮った。いけるっ!
バーニアを全開にし、加速。ターゲットを見失ったトライブレードが見当違いの方向に向かうのを横目で見ながら、腰からビームサーベルを引き抜いた。
爆煙に突っ込み、次の瞬間には突き抜ける。目の前には大上段にビームトマホークを構えたドライセンがいた。
「オ、オォォォオ!!」
思わず叫び声を上げながら機体をひねる。コックピットハッチをかすめているのではないかと思う程近くをビーム刃が通りすぎた。
「ッ!」
フットペダルを蹴りつける。ジェガンは忠実に動き、右足を振り上げドライセンの顔面に蹴りこむ。ドライセンのモノアイカバーが割れ、破片は宙を舞った。
それを無視し、ドライセンを再び蹴りつけ、加速。援護しようと様子を見ていたギラ・ズールにビームサーベルを突き刺した。
爆発するギラ・ズールを見ていると、後ろからさっきのドライセンがやってくる。
「少しは休ませてくれよ…!」
『ユースケ!回避だ!』
「ッ了解!」
モンシア中隊長の指示に従い、回避機動をとる。
次の瞬間、追ってきたドライセンをビームが貫いた。ドライセンだけじゃない。ギラ・ズールに、ギラ・ドーガに、次々とビームが突き刺さり、爆散させる。
『やっと来たか!ノロマどもめ!』
ビームが放たれた方向には十数機のジェガンがいた。
「第4中隊……援軍か…ホントに遅ぇよ…。」
次々と撃墜されていく敵を見ながらそう呟いた。
その後、さらに増援にリゼル隊が投入され、迎撃戦は殲滅戦に移りほどなく終息した。
『第4中隊は回収部隊が来るまでこの場で待機!警戒レベルはBだ!油断するなよ!』
中隊長の声が無線から響く。無線でもうるさいってある意味凄いな…。
『聞こえてんのかぁ!ユースケェ!!』
「り、了解!」
『ボサッとしてんじゃねぇよ!死にてぇのかぁ!?』
「申し訳ありません!モンシア中隊長殿!」
『チッ……ユースケ機は俺と周辺警戒だ!行くぞ!』
「了解!」
機体に異常が無いことを確認すると、モンシア機の右後ろに着いて移動を開始した。
レーダーには何も映っていないが、UEに常識はあまり当てはまらない。それがこの世界の常識だ。
この、ISとガンダムが絡み合う歪な世界の。
なぜ俺がそれを知っているのか。それは俺が所謂”転生者”というやつだからだ。
転生者といっても、神様に会ったわけでもなく、女の子をトラックから守った記憶もない。
突然死んで、気が付いたら生まれていた。
そんな事だから、一騎当千なカッコいい能力はないし、十人が十人振り向くような絶世の美少年とかでもなかった。
しかし世間の一般常識は持ったままだったし、周囲の人が話す言語が違った訳でもなかったので小さい頃はなかなかモテモテだった。
今?今は何故かモテない。母親曰く顔が父さんに似て怖いらしい。ヤクザ屋さんに目をそらされた時は嬉しいのか悲しいのか複雑だった。
ちなみに父さんは地球連邦軍元帥だったりする。見た目?……螺旋王ロージェノムで察しろ。
元帥の息子、何ていうとさぞかし贔屓されてそうだがそんなことはない。むしろ逆である。
一度だけ俺を安全な部隊に転属させて親父のご機嫌とりをしようとした奴がいたが、親父の必殺ビンタで宙を舞った。楽しようとその辞令を受けた俺もまた飛んだが。ただし俺は”グー”だった。
なぜ死ななかったのか今でも不思議である。
と、ジェガンのセンサーが何かに反応する。それはデータベースですぐに照合され、IS用のアンチ・マテリアル・ライフルの銃声だという答えを弾きだした。
「中隊長!銃声です!」
『急ぐぞ!』
モンシア機と同時に最高速度で音の方向――IS学園に向かう。
1分もかからずにIS学園のある島と、一つの影が見えた。
「確認しました!ジュアッグです!」
『まぁだあんなのがいたのか!ユースケ!オメェは下からだ!』
「了解!」
機体高度を下げ、海面スレスレを飛びながらライフルをシールドに収納、サーベルを抜く。
IS学園があるため、爆発させずに仕留める必要がある。
その時、モンシア機から全周波通信で声が響く。
『そこのIS!邪魔だ!下がれ!』
見るとジュアッグの周りに3機のISが見えた。おそらく学園所属のISで迎撃していたのだろう。ジュアッグの各所にそれらしい傷がある。
モンシア機に気づいていた3機は慌ててジュアッグから離れる。
そこにモンシア機からビームが撃ち込まれていく。おそらく爆発しないように出力を絞っているのだろう。ジュアッグに当たっても装甲が赤熱化する程度だ。
敵はモンシア機に向け両手のランチャーを構える。
『ユースケ!今だぁ!』
「デァァァァッ!!」
こちらに気付いたジュアッグがランチャーを向けようとするが、遅い!
「もらった!」
『今ですわ!』
「なッ!」
突然蒼いISが飛び出し、ジュアッグのモノアイを撃った。
だがジュアッグはそれを気にせず右手のランチャーの砲身で蒼いISを叩き落とそうとする。
蒼いISはそれを後ろに下がって躱す。
『甘いですわ!』
「どっちがだよ!」
『えっ?キャアッ!』
蒼いISの少女は驚いたように振り返る。だがもう遅い。ジュアッグからみて蒼いISとそれの出現によって減速した俺が真っ直ぐ重なっている。
あのランチャーは拠点攻撃用…ISのシールドエネルギーではキツいだろう。
蒼いISの前に出てシールドを構える。その直後、ジュアッグの両手が火を吹いた。
視界が爆炎で染まる。
『キャアア!』
「クソッ!」
ついにシールドが耐え切れずに爆発し、左腕ごと吹き飛んだ。
シールドの無くなった機体に敵の攻撃が次々と直撃する。
「グアァァッ!」
あまりの衝撃に叫び声をあげる。
『うおりゃぁぁぁぁぁ!!』
そこに急降下したモンシア機のサーベルがジュアッグを脳天から突き刺し、敵はあっさり膝を着き、倒れた。
『無事か!?ユースケ!』
「な、なんとか…。」
機体各所から警告が送られてくる。足の関節をやられたらしい。俺のジェガンは尻餅をついたような姿で擱座していた。
『ったく、無茶しやがって!迎えが来るまで動くんじゃねぇぞ!』
「大丈夫です、移動くらいならできます。」
『馬鹿野郎!どこにダメージ入ってるかわかんねえだろうが!いいからそのまま待機だ!待機!』
「り、了解!」
凄い剣幕で怒られた。
俺が素直にジェガンの動力を落とすのを確認すると、モンシア機は増援を呼びに離れていった。
「ハァァァ……。クソッ…。」
体が震える。冷静になってきてさっきの戦闘で死んでいたかもしれないという感覚が急に怖くなって、それで震える自分が情けなくて怒りすら覚える。
機を紛らす為にハッチを開け、外に出た。木々の向こうに新築のように綺麗な校舎が見えた。
……確か男のIS乗りが現れたんだっけか…。
ま、俺には関係ないっと。
校舎から目を離すとジェガンの肩に登り、吹き飛んだ左腕の様子を見る。
「うわ…」
予想以上にダメージが入っていた。もしあのまま動けば綺麗な花火になっていたかもしれない。
嫌な想像を頭を振って振り払う。
しかしいい景色だ。
ジュアッグさえなければ。
このスンバラシイ景色を眺めながら迎えを待つか。とヘルメットをとると後ろから声をかけられた。
「ちょっと、よろしくて?」
「あ?」
拳銃に手をかけながら振り向くと、蒼いISを纏った少女がいた。
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