小説『学園のディサイダー』
作者:笛井針斗()

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放課後。運動部が活気の良い掛け声を合奏して、校舎に反芻させている。昼間の雲一つない青空が継続されている空模様を、地平線に半身を隠した太陽が元気のない、まさに黄昏のオレンジに染めている。
「……初めての委員長室訪問。相手がお調子者二人組なのはわかっているけど……」
いたみは委員長室の威厳を放つ扉の前に立ち尽くして、困惑の表情で表札とにらめっこしていた。
自分やその周りの人々のアビリティーの上限を、明らかに逸脱した二人を目の当たりにしたいたみには、今日宣告される何かが、自分の人生の歯車すらもずらしてしまうのではないかと意気込んでいた。
いたみは首を鳴らして生唾を飲み込み、汗ばむ小さな手で重厚感のある黒っぽい質感の扉をノックして、銀のドアノブを捻る。
「やぁこんにちは。よく来たね」
「おぉいたみじゃんか。何この世の最後を目の当たりにしたみたいな顔してんだ?」
相も変わらずトランスグレッションノーマルな二人の、間の抜けた出迎えでいたみの緊張感が少しばかり和らぐ。
年季の入ったアンティーク調の家具で統一された、美術館の一角を見せられているような完成された空間に、菓子パンに付属している某携帯化物のシールが、ところせましと貼られていたり、テーブルの上にシフォンケーキと紅茶ではなく、ポテチとラムネが置いてあったりと、今までの意気込みと緊張感がそこはかとなく馬鹿げていると、今更に後悔の念が押し寄せてくる。
「まぁ私の部屋のデザイン性の高さに魅了されて、ただ呆然と立ち尽くしたくなる気持ちはわかります。だが、立ち話もなんだしひとまず座ってください」
委員長は委員長デスクから立ちあがることなく、キセの座る椅子の逆サイドにある、アンティーク調の部屋に置いてあるがために少し浮いてしまっているボールチェアを指差す。
いたみは素直に委員長に従って恐る恐るボールチェアに腰かける。
ボールチェアは、全身に全くストレスをかけない座り心地、フィット感。腰への負担が絶無な背もたれの角度、高さ。
その他諸々全てにおいて、いたみのために造られたオーダーメイドなのではないかと思われるくらい、完璧な仕上がりのボールチェアに舌鼓みを打つ。
至高のボールチェアに再び緊張感が舞い戻ってきたいたみに、委員長は更なる追撃の宣告をぶつける。
「まず、率直に言おう。僕とキセくんは、この世界の住人ではない」

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