小説『学園のディサイダー』
作者:笛井針斗()

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……空を駆けた?
眼前に広がる摩訶不思議で非現実的な光景に、いたみは我が目を疑った。
キセが窓の縁を蹴ってから数十秒は経っている。
なのになぜ落ちない?
キセは重力を無視している。キセは漆黒に染まるエネミーを凝視して腕を組んでいる。
空中で。浮遊して。
「んあ?いたみ、まだいたのかよ?そんなとこでぼけーっとしてっと召喚影子(シャドウ)の流れ弾食らうぞ?」
「……シャドウ?」
「……ま、無論あれは『この世界』の住人じゃないから、わかるわけないか」
「この世界?どういう意味?」
「……ま、詳しいことは後でな。どうやらエネミーちゃんにロックされたらしい」
シャドウと呼ばれる漆黒の怪物を楽しげに指差して、キセは再び空中を駆けた。まるでそこに壁があるかのように、空気を蹴ってキセの華奢な体躯はロケット弾のように、シャドウに向かって突進する。空気の輪がキセの通った空気の道に、足跡のように残る。
「……アイツは何者?ここで何が起こっているの?」さっぱり事情のわからないいたみは、ただただ窓辺で突っ立っていることしか出来ない。少しばかりの恐怖心で握りこぶしは震えている。
それがいたみには悔しかった。
少なからずシャドウは学園にいい影響は与えないだろう。
何よりも完全立ち入り禁止のこの時間帯に学園に侵入しているのだから、例えそれが人でなくとも不審者なのだ。
学園の秩序を乱す不審者は何人たりとも許さない。風紀委員の理念に従事するいたみにとって、シャドウは放っては置けない。
「ここで逃げたら……風紀委員失格だ。アイツに風紀委員の意地を見せてやる……!」
苦虫のような一抹の恐怖を噛み締めて、グラウンドに向けていたみは駆け出した。


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