小説『学園のディサイダー』
作者:笛井針斗()

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「……ここまでか。ま、よくやった方だろう」
スタンしたキセを抱えた眼鏡の青年は、突っ伏せるいたみの元に歩み寄り優しげな眼差しで呟く。
するとその声に反応して、いたみはゆっくりと瞼を開けて茶色い瞳を露にする。
「……い、委員長?」
「はい。どっかの風紀委員会の委員長です」
委員長は柔和な笑みでそう答えると、表情を変えることなくシャドウの方を向く。
「……まさか戦うつもりですか?」
「えぇ勿論。このままでは僕の大事な学園が彼に壊されてしまいますから」
「……結構強いですよ?」「僕も強いですから。少なくとも君たちよりはね」
「そんなにひょろいのに?」
「流石にそれは心外ですよ?」
ひょろ男風紀委員長といたみは敵が近くにいるにも関わらず、緊張感の抜けた会話をかわす。
そんな脱力状態の二人はお構い無しに、シャドウは鋭い爪で砂を巻き立てて、グラウンドに水平に薙ぎ払う。
「……せっかく後輩とイチャイチャしてるのです。貴様ごときが介入していい場所ではないことくらい、サルでもわかるはずです。弁えろ」
さっきまでのほんわか系委員長とは思えない、覇気を帯びた鬼気迫る眼力でシャドウを視線が射抜く。
シャドウはまるで委員長に畏怖しているが如く、まったくピクリとも動かなくなる。
「……一つ忠告です。僕はこのお調子者と違って手加減はしません。一瞬です。歯をくいしばりなさい」
体育会系の忠告を吐き捨てて、委員長は指をクリックして校舎を反芻する小気味のいい音を鳴らす。
その刹那。雷撃とも火炎とも激流とも見てとれる、力の奔流が、輝柱となって夜空に昇華し、シャドウを呑み込んだ。
シャドウは全く面影すら残さず消滅する。
「……学園の侵入者の殲滅を終了。お疲れ様でした。今日は特例でおうちまで送ってあげます。安心してオチください」
委員長は再び優しげな表情を見せて、閉じかけていたいたみの瞼の上で手を掠める。
いたみは強制的ではなく安らかにオチた。

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